神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第二章

第26話 金が欲しかった。ただそれだけだったのに……

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「ムエルト君。初めて私と会った時のことを覚えていますか?」

「なんとなく」

 理事長は足を組んで、偉そうに座っていた。

 なんだか気に障る光景だ。

「私も覚えています。初めて君を見た時、私の探している人物にピッタリと当てはまる容姿をしていると思いました。その黒髪に青い瞳。そして、傍で死んでいた私の部下。怪しく思った私は、君を探ろうと、ただそれだけ思ってあなたを学園に招待したのです」

「はぁ?」

 僕は、訳が分からなかったので、そんな気の抜けた相槌を打った。

「五年前、私の研究施設が何者かによって破壊されました。それも初めて建てた。その施設を破壊した人物が黒髪で青い瞳だったそうです」

「なるほど」

「私は、その人物は君だと思っています」

 その黒い瞳で僕を見る理事長。僕もなんとなく見返した。そして、流れる沈黙。

 正直覚えていなが、どうやら僕は、理事長の部下なる人を殺し、さらにその研究施設まで破壊した犯人にされているらしい。

 理事長はその恨みを晴らしたいということだ。

 ならば誤解を解いてあげよう。そうすれば、この首輪も解かれるはずだ。

「僕はそんなことしていません。人違いです」

「別に、私はその恨みを晴らしたいわけじゃないですよ。そんなことはどうでもいいし、気にしていません。君を捕らえた理由はもっと大事なことです」

「大事なこと?」

 僕がそう聞くと、理事長はニヤッと微笑んで立ち上がった。そして、僕に近づく。

「ムエルト君。私の実験材料になってください!!」

 理事長は嬉しそうに、その瞳を輝かせ僕を見ていた。

「なんでそうなるんですか?」

 僕はあからさまに呆れた顔を見せてあげた。

「私のためです! 君を実験材料にして研究を完成させたい!」

「嫌です。どうやら、僕には理事長の壮大な思想は理解できないみたいです。なので、僕は帰ります。それじゃ」

 首輪は後からなんとかして取ればいいし、取り敢えずこの狂人から、面倒から、離れたほうがいい。

 と、立ち去ろうとしたところに、白い衣を着た人が大量に押し寄せてきた。僕を取り囲むようにしてなぜか戦闘態勢に入っている。

「魔力なしで対抗することができますか?」

 理事長のそんな煽るような声が聞こえてきた。

「もちろん。魔法が使えなくても、他に方法は幾らでもあります」

 そう──僕はこんなこともあろうかと、体術を極めていた。

「ですよね。君は強いですもんね。だから、いいものを用意しました!」

 理事長は、そう言って指を鳴らした。すると白い衣を着た人が一人、入ってきた。そして、その傍に見覚えのある人物。

 彼は手錠をかけられ、口をテープで塞がれていた。そして、引きずるようにしてその白装束に引っ張られている。

「は? 兄さん? 何してんの?」

 本当に何をしているのだろうか、僕の兄は──。

 理事長がその輪の中に入ってきて、兄さんを弄ぶようにして触った。

「君が抵抗することは予想できました。なので、人質を用意させていただきました。お兄さんは君と違って弱いのですね! おかげで、容易く捕えることができましたよ。これで君は抵抗できませんね!」

 理事長は、嬉しそうに笑って僕を見た。それを見て、僕はやはり溜め息が溢れてしまった。

 いつもこうだ。

 いつも、弱い奴を人質に取られるこのパターン。

 僕だって、たまには何もしないで、楽な人質役をやってみたい。なのに、僕はいつも面倒なこっち側である。

「まったく、何やってるんだよ兄さんは! いつもいつも、僕ばっかり! こんな面倒な……」

 僕は少し感情的になってしまったが、言っていて、呆れてきたので辞めた。

「ふふっ──ふふふふふ!」

 その気持ち悪い笑い方やめて。と思いながら、理事長のその腹の立つ顔を見た。心底楽しそうに笑っている。

「兄弟っていいですよね。愛情? 家族の絆? っていうんですか? 羨ましいです。ムエルト君をどうやって従わせようか? と悩んでいた時、たまたま寄ったレストランで君達兄弟に出会った。その時に人質に使おうと思いついたのです! まさに、運命的ですね!」

 その姿は、まるで、狂人のなかの狂人のようだった。

「兄さんが人質として役に立つとでも?」

「では、君はお兄さんを殺してもいいと?」

 理事長は、兄さんの首に魔法を当てがった。兄さんの首筋から少しだけ、血が流れた。

 兄さんは僕を真っ直ぐに見つめて、抵抗もせず動かない。その視線に腹が立った。

 理事長は相変わらず、微笑んで僕を見ている。

「……分かりましたよ。実験でもなんでも好きにしたらいいじゃないですか」

「そうですか! それは、良かった!」

 理事長が、周りの白装束に目配せすると、そいつらは僕に近づいてきた。

 そして、なぜか僕の手首には手錠がかけられ、その後、首筋に痛みが走った。

 僕の視界はぼやけていき、兄さんの顔が歪んでいく──。

「……」

 ──変な顔。

 なんて思いながら、僕は意識を失った。
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