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~2章~
19話
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人気のない雑木林でその人物は男達に囲まれていた。
走り寄ればそこには蓮二自身も見覚えのある顔……
「才谷さんっっ!?」
つい偽名を呼んだのはこっちの方が慣れているから。
その呼び名に覚えがあるのは当人だけらしく囲んでいた男達もようやく蓮二に追い付き肩で息をする小太郎もキョトンとしている。
「おぉ!蓮二くんやなか。久しぶりじゃのう」
自分の置かれている立場を知ってか知らずか、空気に似合わない明るい返事が返ってくる。
「何してんですか……あんたは」
「ん、まぁ……見ての通りじゃき」
周りを完全無視で話し始める二人に坂本を取り囲んでいた男達の一人が怒鳴る。
「勝手に会話するんじゃねえっ!」
物悲しい叫びに蓮二も閉口する。
「坂本龍馬!悪いがあんたにゃここで死んで貰う。お前らも見られたからにゃあ、見逃す訳にはいかない。運が悪かったと諦めろ」
鯉口を切った音を確認すると蓮二は後ろで怯える小太郎に声を掛ける。
「小太郎、ゆっくりと後ろに下がれ。なるべくここから離れた木の陰にでも隠れてろ」
そして柄に手を掛け臨戦態勢を取る。
蓮二の言葉に従い後ずさりした小太郎にチラリと視線を送るとそのまま男達に向き直った。
殺気を振りまきじりじりと滲み寄る男達に物怖じすらしない坂本は懐に手を入れたまま。
「恨まれる覚えはないんけんど、その様子やと見逃しちゃくれんようじゃ」
「こちらも仕事なんでね」
男がニヤリと笑うとそれが合図だったのか他の者達が一斉に抜刀する。
「物騒な事は嫌いなんけんど、おんしゃらは殺る気満々のようちや。けんど、わしゃあまだ死ぬわけにゃあいかんぜよ」
坂本の背後に居た男が踏み出し切りかかる。
身を捩り刃を避けるが即座に別の所から繰り出される二撃めに態勢を崩す。
その隙をついて振り下ろされた刃は確実に坂本を捉えるはずだった。
ーーーガキンッ
寸での所で止めたのは蓮二の持つ焔。
「蓮二くん、すまん。ちっくと油断しちょったが」
態勢を整えると蓮二と背中合わせに立ち上がる。
「で、梅さん。どうしたら良いわけ?こいつら斬っちゃって良いの?」
「待て待て、蓮二くん。そがぁ簡単に人を斬るらぁ言ったらいかんちゃ」
七~八人の男に囲まれ悠長にしている坂本に嘆息する。
「それなりに腕の立つもんを集めたようけんど、おんしゃらに勝ち目はないぜよ」
「丸腰で何言ってやがるっ!つまらん虚勢を張るな!」
男達が踏み出そうとした瞬間。
ーーーパーンッ
耳をつんざくような銃声が響いた。
坂本の右斜め前に居た男の足元に砂煙が上がる。
「なっっ!?」
「メリケンから買ったピストルちや。六連射やき、おんしゃが刀を振り下ろす前に体に穴が開くぜよ」
坂本の右手にある黒光りした鉄の塊からはうっすらと煙が立っている。
ピストルと言う異国の武器に坂本を囲んでいた男達が悲鳴を上げて逃げ出す。
たった一人残された主犯格の男は逃げた仲間の姿に舌打ちすると震える声を張り上げる。
「お、お前を殺らなきゃこっちが危ねえんだっ!」
鬼気迫る勢いで坂本に斬り掛かった男だったが、何をする事も出来ず刀を振り上げた態勢のまま悔しげに顔を歪め事切れていた。
「……蓮二くん」
「才谷さんごめん……」
そこには言葉とは裏腹に氷のような冷たい瞳をした蓮二が佇んでいた。
自分は本物の鬼だと思った。
皆、土方を鬼副長などと噂するが本物の鬼は此処に居ると叫びたかった。
人を斬る事に何の躊躇いも見せない自分が恐ろしい。
頭では分かっている。
命はそんなに軽くはないと知っている。
だが、内なる自分はそんな事気にもしていない。
目の前にある“モノ”を排除する事しかなく身体は勝手に動く。
そう簡単に人を斬ってはダメだと思っていても気が付けば眼下には無残な亡骸が転がっている。
人を斬る事にあれこれ理由をつけなくなったのはいつからだろう。
藩のため
国のため
主のため
誰かを守るために
自分を守るために
様々な理由付けで人は人を殺した罪悪感から逃れようとする。
理由なくして生きては行けない。
人を殺した罪を背負い、それでも尚、生き続ける為の理由。
刀を持ったその時から侍は強い精神と罪の意識を持って行動しなくてはならない。
そして非人道的行為を正当化する理由が必要だった。
理由なき殺人は決して犯してはならない大罪。
『自分が人を斬ったのは、何かを守る為、成すべき事の為、仕方がなかった』
そうやって逃げ道を作る事で自我を保つ。
それすらもしなくなって居る自分に気付く。
既に自分は大罪を犯してしまっていたのだ。
非人道的行為を当然の事のように受け止め理由を必要としなくなった。
本物の鬼。
殺人鬼に成り変わってしまった。
少しずつ頭と身体と心がバラバラになっていく。
蓮二の瞳には何も映ってはいなかった。
感情の見えない底冷えする黒い眼に坂本はゾクリと背筋を震わせる。
しばらく呆然と眺めていると暗い瞳に光が戻って来た。
「すいませんでした……」
小さく震える声は先程と違って人間らしかった。
「助けて貰って感謝こそすれ、怒る理由はないぜよ。そがぁ顔しやせんでくれ」
今にも泣き出しそうな蓮二に坂本は慌てる。
人間らしさを取り戻した蓮二は今にも壊れてしまいそうなほど脆く儚い存在に思えた。
「坂本さん!蓮二さんっ!大丈夫ですか?」
駆け付けた小太郎は心配そうに蓮二の顔を覗き込んだ。
小さく丸い目を不安げに揺らす小太郎に蓮二は淡く微笑んでみせる。
二人の無事を確認すると気が抜けたようにその場にへたり込む。
本当に心配したんだから と泣き始めた小太郎を宥めるのに大人二人が慌てふためいたのは此処だけの秘密。
「まっこと不思議な事もあるちや。わしら三人それぞれが知り合いで、偶然にも奇妙な再会をしらぁてな」
坂本と小太郎の二人は大阪で知り合ったと言う。
何よりも蓮二を驚かせたのは焔の情報を持ってきたのが坂本だったと言う事だった。
「わしの知り合いに偶然奇妙な刀を手に入れたが使い勝手が悪くどうにかぇらんか聞いてきた話を小太郎くんにやっちゅうら、凄い勢いで刀を買い取ると言ってきたちや。そうか、蓮二くんの刀じゃったがな」
これは偶然なのだろうか?
だとすればあまりにも出来過ぎた偶然だろう。
走り寄ればそこには蓮二自身も見覚えのある顔……
「才谷さんっっ!?」
つい偽名を呼んだのはこっちの方が慣れているから。
その呼び名に覚えがあるのは当人だけらしく囲んでいた男達もようやく蓮二に追い付き肩で息をする小太郎もキョトンとしている。
「おぉ!蓮二くんやなか。久しぶりじゃのう」
自分の置かれている立場を知ってか知らずか、空気に似合わない明るい返事が返ってくる。
「何してんですか……あんたは」
「ん、まぁ……見ての通りじゃき」
周りを完全無視で話し始める二人に坂本を取り囲んでいた男達の一人が怒鳴る。
「勝手に会話するんじゃねえっ!」
物悲しい叫びに蓮二も閉口する。
「坂本龍馬!悪いがあんたにゃここで死んで貰う。お前らも見られたからにゃあ、見逃す訳にはいかない。運が悪かったと諦めろ」
鯉口を切った音を確認すると蓮二は後ろで怯える小太郎に声を掛ける。
「小太郎、ゆっくりと後ろに下がれ。なるべくここから離れた木の陰にでも隠れてろ」
そして柄に手を掛け臨戦態勢を取る。
蓮二の言葉に従い後ずさりした小太郎にチラリと視線を送るとそのまま男達に向き直った。
殺気を振りまきじりじりと滲み寄る男達に物怖じすらしない坂本は懐に手を入れたまま。
「恨まれる覚えはないんけんど、その様子やと見逃しちゃくれんようじゃ」
「こちらも仕事なんでね」
男がニヤリと笑うとそれが合図だったのか他の者達が一斉に抜刀する。
「物騒な事は嫌いなんけんど、おんしゃらは殺る気満々のようちや。けんど、わしゃあまだ死ぬわけにゃあいかんぜよ」
坂本の背後に居た男が踏み出し切りかかる。
身を捩り刃を避けるが即座に別の所から繰り出される二撃めに態勢を崩す。
その隙をついて振り下ろされた刃は確実に坂本を捉えるはずだった。
ーーーガキンッ
寸での所で止めたのは蓮二の持つ焔。
「蓮二くん、すまん。ちっくと油断しちょったが」
態勢を整えると蓮二と背中合わせに立ち上がる。
「で、梅さん。どうしたら良いわけ?こいつら斬っちゃって良いの?」
「待て待て、蓮二くん。そがぁ簡単に人を斬るらぁ言ったらいかんちゃ」
七~八人の男に囲まれ悠長にしている坂本に嘆息する。
「それなりに腕の立つもんを集めたようけんど、おんしゃらに勝ち目はないぜよ」
「丸腰で何言ってやがるっ!つまらん虚勢を張るな!」
男達が踏み出そうとした瞬間。
ーーーパーンッ
耳をつんざくような銃声が響いた。
坂本の右斜め前に居た男の足元に砂煙が上がる。
「なっっ!?」
「メリケンから買ったピストルちや。六連射やき、おんしゃが刀を振り下ろす前に体に穴が開くぜよ」
坂本の右手にある黒光りした鉄の塊からはうっすらと煙が立っている。
ピストルと言う異国の武器に坂本を囲んでいた男達が悲鳴を上げて逃げ出す。
たった一人残された主犯格の男は逃げた仲間の姿に舌打ちすると震える声を張り上げる。
「お、お前を殺らなきゃこっちが危ねえんだっ!」
鬼気迫る勢いで坂本に斬り掛かった男だったが、何をする事も出来ず刀を振り上げた態勢のまま悔しげに顔を歪め事切れていた。
「……蓮二くん」
「才谷さんごめん……」
そこには言葉とは裏腹に氷のような冷たい瞳をした蓮二が佇んでいた。
自分は本物の鬼だと思った。
皆、土方を鬼副長などと噂するが本物の鬼は此処に居ると叫びたかった。
人を斬る事に何の躊躇いも見せない自分が恐ろしい。
頭では分かっている。
命はそんなに軽くはないと知っている。
だが、内なる自分はそんな事気にもしていない。
目の前にある“モノ”を排除する事しかなく身体は勝手に動く。
そう簡単に人を斬ってはダメだと思っていても気が付けば眼下には無残な亡骸が転がっている。
人を斬る事にあれこれ理由をつけなくなったのはいつからだろう。
藩のため
国のため
主のため
誰かを守るために
自分を守るために
様々な理由付けで人は人を殺した罪悪感から逃れようとする。
理由なくして生きては行けない。
人を殺した罪を背負い、それでも尚、生き続ける為の理由。
刀を持ったその時から侍は強い精神と罪の意識を持って行動しなくてはならない。
そして非人道的行為を正当化する理由が必要だった。
理由なき殺人は決して犯してはならない大罪。
『自分が人を斬ったのは、何かを守る為、成すべき事の為、仕方がなかった』
そうやって逃げ道を作る事で自我を保つ。
それすらもしなくなって居る自分に気付く。
既に自分は大罪を犯してしまっていたのだ。
非人道的行為を当然の事のように受け止め理由を必要としなくなった。
本物の鬼。
殺人鬼に成り変わってしまった。
少しずつ頭と身体と心がバラバラになっていく。
蓮二の瞳には何も映ってはいなかった。
感情の見えない底冷えする黒い眼に坂本はゾクリと背筋を震わせる。
しばらく呆然と眺めていると暗い瞳に光が戻って来た。
「すいませんでした……」
小さく震える声は先程と違って人間らしかった。
「助けて貰って感謝こそすれ、怒る理由はないぜよ。そがぁ顔しやせんでくれ」
今にも泣き出しそうな蓮二に坂本は慌てる。
人間らしさを取り戻した蓮二は今にも壊れてしまいそうなほど脆く儚い存在に思えた。
「坂本さん!蓮二さんっ!大丈夫ですか?」
駆け付けた小太郎は心配そうに蓮二の顔を覗き込んだ。
小さく丸い目を不安げに揺らす小太郎に蓮二は淡く微笑んでみせる。
二人の無事を確認すると気が抜けたようにその場にへたり込む。
本当に心配したんだから と泣き始めた小太郎を宥めるのに大人二人が慌てふためいたのは此処だけの秘密。
「まっこと不思議な事もあるちや。わしら三人それぞれが知り合いで、偶然にも奇妙な再会をしらぁてな」
坂本と小太郎の二人は大阪で知り合ったと言う。
何よりも蓮二を驚かせたのは焔の情報を持ってきたのが坂本だったと言う事だった。
「わしの知り合いに偶然奇妙な刀を手に入れたが使い勝手が悪くどうにかぇらんか聞いてきた話を小太郎くんにやっちゅうら、凄い勢いで刀を買い取ると言ってきたちや。そうか、蓮二くんの刀じゃったがな」
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