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~2章~
29話
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山南の事件から沈みきっていた隊士達も屯所移転と共に、活気を取り戻しつつあった。
「蓮二、今日は非番だったな?今からちょっと付き合え」
「ん?別に構わねえけど……珍しいね、土方から仕事以外にそんな事言うの」
「ええっー?二人で何楽しい事するんですかぁ?私も連れてって下さいよぉ……」
「半分仕事みてえなもんだ。総司、お前この前まで巡察行きてえって喚いてただろうが!」
むくれる総司を何とか宥めて、蓮二と土方は屯所を出た。
春の風に乗りふわりと花が薫る。
夢の人物をふと思い出し、蓮二は立ち止まりスタスタと前を歩く土方の背中を見つめた。
「おい、何してる?」
「ん……あぁ、ちょっとな。」
怪訝な顔をする土方に並び横顔を眺めた。
少しばかり頬が痩せてきて副長という立場の忙しさが伺える。
頭のてっぺんで丁寧に結い上げられた黒髪は、土方の几帳面な性格を表していた。
サラサラと風になびく漆黒の髪は太陽の光を受け輝きを増す。
似て非なるこの人は……。
(もし……自分の考えが正しけりゃ)
「なあ……土方。お前さぁ、自分が生まれる前の事って覚えてるか?」
「はぁ?何を言い出すんだ?全く意味が分からんぞ?」
怪訝そうにしていた土方の眉間に、キュッと皺がよった。
まぁ……確かに突然そんな事言われたら変に思うよな……
「んー、なんて言えば良いんだろ?…いわゆる前世ってやつなのかな?ほら、魂の転生とかあるじゃん。現在に転生してくる前の記憶みたいなの」
「そんなもんあるわけ…」
続く言葉を失い、土方はそのまま固まった。
「おーい、土方くーん?」
驚いているのか、思い出しているのか、考え込んでいるのか……
くるくると表情が変わってゆく。
「あるわけないだろうが…」
自分に言い聞かせるように呟く声が蓮二の耳に届く。
困惑した表情のまま動かなくなった土方の背中を押して再び歩き始める。
「そっか、そうだよなぁ…。あるわけないよな。突然、変な事聞いて悪かったな。気にしなくて良いからさ」
例え、自分の考えが間違っていたとしても…
土方に誓った言葉を違えるつもりはない。
ただ……。
彼が本当にそうであってくれれば……。
自分が救われる気がした。
ーーーーーーーーーー
堀川沿いを花の香りに誘われるようにゆっくり歩みを進める。
四条通に出る手前を西に折れると、一つの寺の前で土方が歩みを止めた。
「ここは……?」
「山南さんの…墓がある。お前、まだ一度も来て居ないだろう?」
山南さんが居なくなってから一ヶ月。
直前まで局中法度による切腹も仕方ないと受け入れていたつもりだった。
この世から居なくなってしまった山南さんを……
二度と会うことが出来なくなってしまった山南さんを……
受け入れられなかった。
彼の死を認めたくはなかった。
墓に来てしまえば、彼が居ない事を認めてしまう。
それが怖くて、一度も足を向ける事が出来なかった。
山南さんが居なくなったあの日、皆に檄を飛ばした張本人が彼の死を一番受け止め切れていなかった。
「俺も実はここを訪れるのは初めてなんだ」
背筋を伸ばし門前に立った土方は蓮二に背を向けたまま呟く。
「お前と違うのは、山南さんに合わせる顔がなかったんだよ」
ギギッと音を立て、門をくぐる。
それ程大きくはない本堂の裏に、ポツンポツンと墓が並んでいた。
ズンズンと奥に進んで行く土方の背中を見つめたまま、蓮二の足は動こうとしなかった。
頭では分かっているのに、身体はピクリとも動かない。
動け……動け……
どれだけ念じても、指一本動かなかった。
突然、グイと腕を引かれ、棒立ちになっていた蓮二の身体が傾く。
「何してる…そろそろ腹を括れ。お前が俺達に言った言葉だろうが」
引き摺るように歩かされ、一つの墓前に立つ。
(山南さん……)
「山南さん、来るのが遅くなってすまなかった。あんたが嫌がっていた屯所移転……終わったよ。悪いな、最後まであんたの意見を払いのけちまった。だが、新選組はこれからが正念場だ。俺からこんな事頼むのは気が引けるが…山南さん、あんたに新選組の行く先を見守って欲しい」
土方が紡ぐ言葉一つ一つを噛み締めながら聞いていた蓮二の肩がフルフルと震え、俯いたその瞳から涙が零れ落ちた。
「山南さん…ごめんな」
ようやく絞り出した言葉。
隣にあった影が揺れる…
土方は真っ直ぐ前を見つめたまま…静かに泣いていた。
“ありがとう”
と
“ごめんなさい”
それ以上の言葉にならない想いを山南に伝えたくて……
お互いに隣に温もりを感じたまま二人は、気の済むまで涙を流し続けた。
山南さんとそれ程親しかった訳じゃない。
だけど……あの日。
俺がもっと早くあの人の異変に気付いていればもう少し生きていられたかもしれない。
伊東が現れた時から、山南さんは分かりやすいまでの変化を見せた。
元々、自ら目立つ行いはしなくとも幹部会議の時には、何かと土方に食ってかかっていた。
それが……伊東が現れてからというもの、ピタリと口を噤んだのだ。
二人の間に何かがあったのだろう……。
俺はそう践んで山南さんの言動には今まで以上に気を配っていたつもりだった。
なのに……このザマだ。
新選組にとって欠かせない存在である山南さんを死なせてしまったのは自分……。
注意力不足。
俺が思っていた以上に、山南さんは追い詰められていた。
観察力不足。
前夜に食事を取らなかった事を把握しておくべきだった。
あの時点で止められたはずなのに……。
俺は懐に手を伸ばし、一通の手紙を取り出した。
それは、連れ戻された時に山南さんから俺宛にと総司が内密に預かった手紙。
ずっと怖くて読めなかった手紙。
『如月くんへ
君は優しいから今頃、自分を責めているんだろうね。
けれど、これは成るべくして成った事なんだよ。
必然なんだ。
だから、自分を責めないで欲しい。
私は新選組の為に喜んで自らこの役を引き受けたんだ。
近藤さんや土方くんもきっとそれぞれに自分を責めているだろう。
だから君にお願いするよ。
局長を、土方くんを……新選組を頼む。
彼らの支えとなって欲しい。
正直に言うと、土方くんが何の根拠もなく如月くんは信用出来ると言った時、私は疑っていたんだ。
だけど、今なら分かる。
君は新選組に入るべくして入ったんだ。
これもまた必然。
そんな君だから、
私は私の総てを委ねて最後の職務を全うする事を決意できた。
感謝している。
これは私の予感でしかないが新選組はこの先、何度も窮地に立たされるだろう。
君は、局長や土方くんの支えとなり新選組を守って欲しい。
伊東甲子太郎の言動には細心の注意を……。
彼は新選組の毒にしかならない。
すでに動き始めているだろうから気をつけて欲しい。
それから明里のことを頼むよ。
君に頼むのは御門違いかもしれないけれど、彼女を自由にしてあげて欲しい。
必要なものは壬生寺境内の下に隠してあるからそれを使って欲しい。
それでは長々と乱文で失礼したね。
今まで本当にありがとう。
新選組を宜しく頼んだよ。
山南敬助』
溢れ出る涙を拭い仰いだ空は雲一つなく、そよいだ風に乗って山南さんの声が聞こえた……気がした。
「蓮二、今日は非番だったな?今からちょっと付き合え」
「ん?別に構わねえけど……珍しいね、土方から仕事以外にそんな事言うの」
「ええっー?二人で何楽しい事するんですかぁ?私も連れてって下さいよぉ……」
「半分仕事みてえなもんだ。総司、お前この前まで巡察行きてえって喚いてただろうが!」
むくれる総司を何とか宥めて、蓮二と土方は屯所を出た。
春の風に乗りふわりと花が薫る。
夢の人物をふと思い出し、蓮二は立ち止まりスタスタと前を歩く土方の背中を見つめた。
「おい、何してる?」
「ん……あぁ、ちょっとな。」
怪訝な顔をする土方に並び横顔を眺めた。
少しばかり頬が痩せてきて副長という立場の忙しさが伺える。
頭のてっぺんで丁寧に結い上げられた黒髪は、土方の几帳面な性格を表していた。
サラサラと風になびく漆黒の髪は太陽の光を受け輝きを増す。
似て非なるこの人は……。
(もし……自分の考えが正しけりゃ)
「なあ……土方。お前さぁ、自分が生まれる前の事って覚えてるか?」
「はぁ?何を言い出すんだ?全く意味が分からんぞ?」
怪訝そうにしていた土方の眉間に、キュッと皺がよった。
まぁ……確かに突然そんな事言われたら変に思うよな……
「んー、なんて言えば良いんだろ?…いわゆる前世ってやつなのかな?ほら、魂の転生とかあるじゃん。現在に転生してくる前の記憶みたいなの」
「そんなもんあるわけ…」
続く言葉を失い、土方はそのまま固まった。
「おーい、土方くーん?」
驚いているのか、思い出しているのか、考え込んでいるのか……
くるくると表情が変わってゆく。
「あるわけないだろうが…」
自分に言い聞かせるように呟く声が蓮二の耳に届く。
困惑した表情のまま動かなくなった土方の背中を押して再び歩き始める。
「そっか、そうだよなぁ…。あるわけないよな。突然、変な事聞いて悪かったな。気にしなくて良いからさ」
例え、自分の考えが間違っていたとしても…
土方に誓った言葉を違えるつもりはない。
ただ……。
彼が本当にそうであってくれれば……。
自分が救われる気がした。
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堀川沿いを花の香りに誘われるようにゆっくり歩みを進める。
四条通に出る手前を西に折れると、一つの寺の前で土方が歩みを止めた。
「ここは……?」
「山南さんの…墓がある。お前、まだ一度も来て居ないだろう?」
山南さんが居なくなってから一ヶ月。
直前まで局中法度による切腹も仕方ないと受け入れていたつもりだった。
この世から居なくなってしまった山南さんを……
二度と会うことが出来なくなってしまった山南さんを……
受け入れられなかった。
彼の死を認めたくはなかった。
墓に来てしまえば、彼が居ない事を認めてしまう。
それが怖くて、一度も足を向ける事が出来なかった。
山南さんが居なくなったあの日、皆に檄を飛ばした張本人が彼の死を一番受け止め切れていなかった。
「俺も実はここを訪れるのは初めてなんだ」
背筋を伸ばし門前に立った土方は蓮二に背を向けたまま呟く。
「お前と違うのは、山南さんに合わせる顔がなかったんだよ」
ギギッと音を立て、門をくぐる。
それ程大きくはない本堂の裏に、ポツンポツンと墓が並んでいた。
ズンズンと奥に進んで行く土方の背中を見つめたまま、蓮二の足は動こうとしなかった。
頭では分かっているのに、身体はピクリとも動かない。
動け……動け……
どれだけ念じても、指一本動かなかった。
突然、グイと腕を引かれ、棒立ちになっていた蓮二の身体が傾く。
「何してる…そろそろ腹を括れ。お前が俺達に言った言葉だろうが」
引き摺るように歩かされ、一つの墓前に立つ。
(山南さん……)
「山南さん、来るのが遅くなってすまなかった。あんたが嫌がっていた屯所移転……終わったよ。悪いな、最後まであんたの意見を払いのけちまった。だが、新選組はこれからが正念場だ。俺からこんな事頼むのは気が引けるが…山南さん、あんたに新選組の行く先を見守って欲しい」
土方が紡ぐ言葉一つ一つを噛み締めながら聞いていた蓮二の肩がフルフルと震え、俯いたその瞳から涙が零れ落ちた。
「山南さん…ごめんな」
ようやく絞り出した言葉。
隣にあった影が揺れる…
土方は真っ直ぐ前を見つめたまま…静かに泣いていた。
“ありがとう”
と
“ごめんなさい”
それ以上の言葉にならない想いを山南に伝えたくて……
お互いに隣に温もりを感じたまま二人は、気の済むまで涙を流し続けた。
山南さんとそれ程親しかった訳じゃない。
だけど……あの日。
俺がもっと早くあの人の異変に気付いていればもう少し生きていられたかもしれない。
伊東が現れた時から、山南さんは分かりやすいまでの変化を見せた。
元々、自ら目立つ行いはしなくとも幹部会議の時には、何かと土方に食ってかかっていた。
それが……伊東が現れてからというもの、ピタリと口を噤んだのだ。
二人の間に何かがあったのだろう……。
俺はそう践んで山南さんの言動には今まで以上に気を配っていたつもりだった。
なのに……このザマだ。
新選組にとって欠かせない存在である山南さんを死なせてしまったのは自分……。
注意力不足。
俺が思っていた以上に、山南さんは追い詰められていた。
観察力不足。
前夜に食事を取らなかった事を把握しておくべきだった。
あの時点で止められたはずなのに……。
俺は懐に手を伸ばし、一通の手紙を取り出した。
それは、連れ戻された時に山南さんから俺宛にと総司が内密に預かった手紙。
ずっと怖くて読めなかった手紙。
『如月くんへ
君は優しいから今頃、自分を責めているんだろうね。
けれど、これは成るべくして成った事なんだよ。
必然なんだ。
だから、自分を責めないで欲しい。
私は新選組の為に喜んで自らこの役を引き受けたんだ。
近藤さんや土方くんもきっとそれぞれに自分を責めているだろう。
だから君にお願いするよ。
局長を、土方くんを……新選組を頼む。
彼らの支えとなって欲しい。
正直に言うと、土方くんが何の根拠もなく如月くんは信用出来ると言った時、私は疑っていたんだ。
だけど、今なら分かる。
君は新選組に入るべくして入ったんだ。
これもまた必然。
そんな君だから、
私は私の総てを委ねて最後の職務を全うする事を決意できた。
感謝している。
これは私の予感でしかないが新選組はこの先、何度も窮地に立たされるだろう。
君は、局長や土方くんの支えとなり新選組を守って欲しい。
伊東甲子太郎の言動には細心の注意を……。
彼は新選組の毒にしかならない。
すでに動き始めているだろうから気をつけて欲しい。
それから明里のことを頼むよ。
君に頼むのは御門違いかもしれないけれど、彼女を自由にしてあげて欲しい。
必要なものは壬生寺境内の下に隠してあるからそれを使って欲しい。
それでは長々と乱文で失礼したね。
今まで本当にありがとう。
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