公園の少女

こたつみかん

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一話

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 これは、今から二十五年も前、僕が大学へ進学して、アパート暮らしをしていた頃、ある秋口の話だ。


 部屋から出ようとしたとき、ドアの前にたまっている封筒が目に入ってきた。1人暮らしを始めてからというもの、月末の恒例になっている請求書の束だ。

 僕は散らばっている封筒をかき集めると、中を見ようともしないで部屋の中に放り込む。
 どうせ嬉しくもない数字が書いてあるだけだし、見たからといって料金が安くなるわけでもない。

 それなら早く図書館にでも行って、本でも読んでいた方がずっとましだからだ。

 ……僕は図書館に向かう道を歩きながら、1人暮らしと貧乏の関連性について考えているうちに、故郷のことを思い出していた。
 実家を出てからもう1年以上になる。母さんや父さんは元気かな? 妹はどうしてるんだろう?

 今年は忙しくて――本当のところはお金が無くて――帰省できなかったけど、来年の正月こそは……
 図書館に着いてからも、僕はそんなことを考えながら本を物色していた。


 歴史を勉強するつもりで来たのに、つい面白そうな小説に手を伸ばしてしまい、そのまま閉館時間を迎えた。
 
 今日はなぜか集中力が働かなかった。疲れているのか、とにかくこんなことじゃいけないな……と、僕はモヤモヤとした気持ちで帰り道でもある公園の中を歩いていた。すると、どこかから物音が聞こえてきた。

 キー、キー……

 気になった僕は、立ち止まって耳をすましてみる……それはブランコが揺れている音のようだ。
 けれど図書館が閉まるのは夕方の6時。もちろん外もずいぶん暗くなってきている。
 
 こんな時間にブランコが揺れている? いつもなら人影すら見かけないこの公園で……?
 
 周りには誰もいない。
 僕はなんだか薄気味悪くなってきていた。かといって。公園を出るには必ずブランコの前を通らなくてはいけない……嫌な感じだ。

 僕は深呼吸をした。
 そして、ブランコの音くらいで遠回りをするのはバカバカしいと思い直して、少し緊張をしながら歩き始めた。

 キィィー、キィィー……

 ブランコに近づくにつれて、少しずつ音が大きくなってくる。

 僕はなるべく音のする方を見たくないと思いながら歩く……でも、視線がそっちを向くのは抑えられなかった。
 そこには女の子の姿があった。

 ……女の子?

 僕はブランコの並んでいる場所をじっと見詰めた。
 4つあるブランコのいちばん右端には、確かに1人の女の子が座っている。背格好は中学生くらいの、白のスカートに薄手の白いカーディガンを着た女の子。

 日暮れの陽射しのなかで、女の子はぽつんとブランコに座り、ゆっくりと前後に揺れていた。
 いつの間にか僕は歩くのを止めて、女の子のことをじっと見詰めていた。

 キィィー……

 そんな僕の視線に気付いたのか、女の子は僕の方を向くと、ニコッと笑った。
 ぱっちりとした目、愛らしい口元。すごく可愛らしい子で、僕はドキッとした。

 そんな僕の気持ちを知ってか、女の子はブランコからぴょんと跳び降りると、こっちに駆け寄って来た。

「こんにちは、お兄ちゃん」
「……こ、こんにちは」

「お兄ちゃん、さっきからマユのこと見てたよね。どうして?」
「え、いや……別に」

「マユと遊んでくれるの?」
「遊ぶって、こんな時間に? お家に帰らなくてもいいの?」
「うん」

 女の子――『マユ』っていう名前なのか――は両手を後ろで組んで立ち、ちょっとだけ首を傾げて僕の顔を見上げている。
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