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一話
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ちょっと重苦しい沈黙が車内の2人を包んでいた。
カーオーディオから流れるJポップのやたら元気のいい歌声だけが、ユウカの耳にむなしく響いていた。
車が赤信号で止まる。
瞬間、車から転がり出すようにして、この場から逃げる自分の姿が脳裏に浮かび、彼女は慌ててシートベルトを締めなおした。
(自分で望んでいたことじゃない)
(でも、本当にだいじょうぶなの……?)
心の中で2人のユウカが言い争いをする。
(もう、ここまで来ちゃったんだもん。行くっきゃないじゃん)
(今なら、まだゴメンで済むのよ、マジで)
ユウカの中で結論の出ない堂々巡りが始まる。
不安がないと言えば嘘になる。得体の知れない圧迫感がユウカの小さな胸にさざなみを起こしている。その圧迫感が恐怖だけならとっくに逃げている。
しかし、ほんの少しだけど、期待も混じっているからどうしようもない。自分で選んだ相手と納得してここに来たんだと自分に言い聞かす。
ここで逃げ出したら、弱虫になってしまいそう……。
「どうしたの……?」
ハジメがようやく口を開いた。
彼も緊張気味なのか、いつもの軽いトーンとはほど遠い声の響きだ。
「ウウン……。別に……」
市立中学受験をあきらめたおちこぼれ小学生が、それでも惰性と見栄で通っていた進学塾の帰りに、カノジョいない歴18年だった大学生の車に轢かれそうになった日から1年。
2人の交際が1年間続いた記念日に、ユウカは最後の砦をハジメに明け渡すことにした。
14歳と3ヶ月と7日の今日、ユウカは一人前の『オンナ』になる。
バレンタインデーには、本命と言いながらもコンビニで買った、消費税込みでもやっと二百円のチョコしかくれなかった少女の、唐突とも思える提案にも、これまでフェラまでで我慢させられていたハジメが乗らないわけがない。
今朝、会った時から、2人がどことなくぎこちないのは、そんな理由があった。
「このへんで、いいかな……」
別に、ユウカの答えを真剣に期待している様子もない一言とともに、車は脇道に逸れ、ラブホが並ぶ脇道へと入っていく。
「あそこの、フツーっぽいところがいい」
西洋風のお城や豪華客船、あるいは、宇宙基地を連想させそうな風変わりな建物の並ぶ中で、ユウカは、何の飾りもない地味な建物を指差した。
一生に一度の大イベントの会場がラブホになるのは仕方ないとしても、いかにもそれっぽい建物だとかえって寂しい。
黙って頷いたハジメは緩やかな坂になっている入り口に車を勧めた。
室内は、ユウカが想像していたのよりずっと広く、ずっときれいだった。その中央にデーンとダブルベッドが置かれている。
ユウカが大人になる舞台として用意されているベッドだ。
生まれて初めて入ったラブホの室内を、ユウカは、物珍しそうに見回っていた。
「シャワー、浴びて来いよ……」
首に腕を回して、鼻がぶつかりそうなぐらいに顔を寄せて来たハジメが囁くように言う。
やたら、優しい声だ。いつもの、お調子者の大学生と同じヤツかと疑いたくなる。
「ウン……」
再び、車の中のような重苦しさに包まれそうなのを感じて、ユウカは素直にバスルームに向かった。
手早く服を脱ぎ捨てた彼女は、一瞬、壁に埋め込まれている鏡に映った生まれたままの自分の姿に目を奪われる。
カーオーディオから流れるJポップのやたら元気のいい歌声だけが、ユウカの耳にむなしく響いていた。
車が赤信号で止まる。
瞬間、車から転がり出すようにして、この場から逃げる自分の姿が脳裏に浮かび、彼女は慌ててシートベルトを締めなおした。
(自分で望んでいたことじゃない)
(でも、本当にだいじょうぶなの……?)
心の中で2人のユウカが言い争いをする。
(もう、ここまで来ちゃったんだもん。行くっきゃないじゃん)
(今なら、まだゴメンで済むのよ、マジで)
ユウカの中で結論の出ない堂々巡りが始まる。
不安がないと言えば嘘になる。得体の知れない圧迫感がユウカの小さな胸にさざなみを起こしている。その圧迫感が恐怖だけならとっくに逃げている。
しかし、ほんの少しだけど、期待も混じっているからどうしようもない。自分で選んだ相手と納得してここに来たんだと自分に言い聞かす。
ここで逃げ出したら、弱虫になってしまいそう……。
「どうしたの……?」
ハジメがようやく口を開いた。
彼も緊張気味なのか、いつもの軽いトーンとはほど遠い声の響きだ。
「ウウン……。別に……」
市立中学受験をあきらめたおちこぼれ小学生が、それでも惰性と見栄で通っていた進学塾の帰りに、カノジョいない歴18年だった大学生の車に轢かれそうになった日から1年。
2人の交際が1年間続いた記念日に、ユウカは最後の砦をハジメに明け渡すことにした。
14歳と3ヶ月と7日の今日、ユウカは一人前の『オンナ』になる。
バレンタインデーには、本命と言いながらもコンビニで買った、消費税込みでもやっと二百円のチョコしかくれなかった少女の、唐突とも思える提案にも、これまでフェラまでで我慢させられていたハジメが乗らないわけがない。
今朝、会った時から、2人がどことなくぎこちないのは、そんな理由があった。
「このへんで、いいかな……」
別に、ユウカの答えを真剣に期待している様子もない一言とともに、車は脇道に逸れ、ラブホが並ぶ脇道へと入っていく。
「あそこの、フツーっぽいところがいい」
西洋風のお城や豪華客船、あるいは、宇宙基地を連想させそうな風変わりな建物の並ぶ中で、ユウカは、何の飾りもない地味な建物を指差した。
一生に一度の大イベントの会場がラブホになるのは仕方ないとしても、いかにもそれっぽい建物だとかえって寂しい。
黙って頷いたハジメは緩やかな坂になっている入り口に車を勧めた。
室内は、ユウカが想像していたのよりずっと広く、ずっときれいだった。その中央にデーンとダブルベッドが置かれている。
ユウカが大人になる舞台として用意されているベッドだ。
生まれて初めて入ったラブホの室内を、ユウカは、物珍しそうに見回っていた。
「シャワー、浴びて来いよ……」
首に腕を回して、鼻がぶつかりそうなぐらいに顔を寄せて来たハジメが囁くように言う。
やたら、優しい声だ。いつもの、お調子者の大学生と同じヤツかと疑いたくなる。
「ウン……」
再び、車の中のような重苦しさに包まれそうなのを感じて、ユウカは素直にバスルームに向かった。
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