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カケル 1

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 カケルは空から落ちていた。

 落下速度は目に見えて早くなり、カケルは焦っていた。

「くっ・・・魔法が発動しないッ!なんでだ!?」

 そう、この場所ではカケルが使う魔法が使えないのだ。

「魔法が使えないと、このまま落ちて死んじゃうっ!どうにかしないと・・・」

 地面までの距離、およそ300m

 カケルは思慮を巡らせ、今までの人生で最速の速度で結論を出した。

「そうだ、あの魔法なら使えるかもしれない。」

カケルはそういうと叫んだ。



「綴れ。

我が手に、身に余るほどの光栄と共に、武器を与えよ。

第一階梯 武装取得!」



 そう叫んだ瞬間、空中に金色の魔法陣が現れ、そこから1振りの刀が出現し人の姿に形を変えた。刀がそのまま形を変えたわけではない。人間の女へと姿を変えたのだ。



『呼んだか?我が主よ。』

「八文字!来てくれてうれしいよ!今すぐお前を握りたいんだが、その前にたすけてええええぇぇぇぇ」

『む?ここは空中か・・・ほぉ、面白い、そのまま死ねば私とお前の契約も終わり、晴れて私は自由の身となれるな。助ける道理があるわけなかろうが。』

「ぇぇぇぇぇぇぇぇ」

『ふむ、だがお前は私が殺すとこの心に決めていた。ならば今ここで死なれては困るな。仕方がない、不本意だが助けてやろう。』

 八文字はそういうと、もう一度姿を刀に戻し地面へ急速落下していった。

 そして八文字が地面へ突き刺さると同時にその周辺およそ100mにわたって地面が球状にへこんだ。



『ほぉ?ずいぶん柔らかい土地よのぉ・・・。』

「柔らかいの!?」

『うむ、柔らかいのならば落ちても平気だろうな。』

「そういう問題かよっ!」

『おぅ。気持ちよく落ちるがいい。』



 八文字は爽やかな今世紀最高の笑顔でカケルをキャッチするのをやめた。



「ひっでぇぇぇぇぇええええええええええっ」



 カケルは叫びながら、柔らかい地面に突き刺さった。



「いててて・・・。酷いなぁ八文字、ちゃんとキャッチしてくれよ。」

『重い。』

「僕が重いのかよ・・・。」

『重いんだ、許せ。』

「お前より地面へこんでないでしょうが・・・。」

『ん?おかしいのぉ?と、その前に誰か来たようだが。』

「ほんと?八文字、戦闘態勢。」

『了承した』



 八文字はそういうと刀に姿を変え、カケルの手に収まった。

 カケルが八文字を握り視線を向けた先には青い血を流した猿のような異形の生物が数匹こちらを見ていた。



「なんだあいつ・・・?猿か?」

『猿にしてはおかしいだろう。血が青い。』



 八文字が頭の中へ語りかけてきた。



「本当だ、猿じゃないのか」

『あの生物はこの世界特有の物だろうな。果たして刀が、いや物理攻撃効くかもわからんがな。』

「当たって砕けろ。」

『砕けてはダメだろうが、何を申しておるのだお前は。』

「取りあえず、斬るッ!」



 カケルはそういうと八文字を両手で握り、腰だめに構え異形の生物へ斬りかかった。

 その生物へ八文字の切っ先が当たろうとする瞬間、生物が消えた。



「なっ!?どこに消えた・・・っ!」

『上だ、主!』

「上っ!?」



 カケルが上を見た瞬間、その生物が槍を握って降ってきた。



「なっ!?こいつら、武器使えるのか!チンパンジー並には頭いいってか!?」

『たわけ。未知の生物だ、油断するなと言っただろう!?』

「言われてねぇよ!」



 カケルはそう叫ぶと、上から降ってきた生物に刀を振り、一振りで体を左右二つに分けた。



「この青い血、目がちかちかする・・・。」

『2体目、来るぞ!』



 八文字がそう叫びカケルが身構えた瞬間、遠くから叫び声が聞こえ、一瞬だけ生物がびくついた。



「いまだ、戦線離脱っ!」



 カケルが背中に黒い鳥の羽をはやし飛ぶと、またこちらを向いた生物どもがギャアギャアと騒がしく叫んでピョンピョン飛び跳ねながら悔しがっていた。



『さて、今の悲鳴は何なのだろうな。』

「謎だね。悲鳴が聞こえたのはどっちだい?」

『南東方向だ。だがこの世界はどうやら太陽が昇る方向が逆の用だ。太陽が沈む方向へ行かねばならない。』

「仕方ない。間接的にでも助けてもらったわけだし向こうも助けに行くか。」



 カケルはそういうと2,3度羽ばたき大空へ舞い上がった。



 その頃、落とし穴に落ちた二人は・・・。



「そ、そうか、ミヤっていうのか。僕はアンドレイっていうんだ。なんだ、穴に落ちたもの同士よろしく頼むよ。」

「何がよろしく頼むよだ、あなたみたいな気持ち悪い奴とこんな穴にいるだけで吐き気がするわ。」

「そ、そこまで言われるのか・・・。」



 その時上から声が聞こえた。



「おい、旅の者。そいつもお前と同じく私に助けられたといってついてきた輩だ。仲良くなっても損はないだろ。」

「「こんな奴と仲良くなるとか無理だろ!」」

「もう息をぴったりに合わせて叫ぶとは。これは先が楽しみだな、ふふっ。」

「もううんざりだ、どうにかしてこの穴を出てやる。」

「それはもう試したよ、アンドレイ。この穴はこの一番下にだけ空気が存在する。少し上へあがればそこは真空だ。落とされた食べ物も、水も、蒸発してしまう。」

「・・・それ、俺ら死ぬの待つだけじゃないか?」

「大丈夫だ、こっちに抜け道がある。上とつながっている道があるんだ。」

「じゃあ何でお前ここにいるんだよ!」

「人が落ちて来たから、仲間かと思ってきてみたんだ!そうしたら体がバラバラになっても生きてる気持ち悪い男だったんだよ!信じられるか!?」

「信じるも何もそれ僕じゃないか!」



 二人が穴の底でけんかしている間に、上からまた声が聞こえた。



「もう一人そっちに追加はいりそうだぞ。今回は小さいな、子供みたいだ。」

「「子供!?」」

「こんな森に来るとは相当なもの好きか自殺志願者だな」

「「自殺志願者!?」」

「ん?お前らもそうだろう?カイヴァスが出ると知っていてここに来た。違うか?」

「「違うよ!あんな血が青い猿見たことないよ!」」

「ほぉ?まぁ新しい奴も歓迎してやってくれ。幸いこの周辺の土地は柔らかいからな。ダメージはないだろう。」



 その時、ドアが開いて確かに中に入る人影が見えた。

 だが、いつまでたってもそいつは下には落ちてこないし、上から驚いたような声が聞こえた。



「ほぉ。驚いたな、あの落とし穴を越えるとは。」

「落とし穴?そんなのあったのか、気づかなかった。」

「私の自慢の罠なのだが・・・そういわれてしまうと少し自信を無くすものだ。」

「取りあえず、さっき悲鳴が聞こえてここに来たんだが、お姉さんじゃない?」

「私ではない。そこの穴に落ちている奴だろう。私はめったに悲鳴など上げないものでな。」

「ふーん、若いのに立派だね。」

「私より若いお前に言われる筋合いはないがな。して、お前名前をなんていう。」

「僕?僕はカケル。魔法と刀を使う、一種の人間もどきだよ。」

「人間もどき?この世界の人間は魔法も刀も使うからよくわからぬな。」

「そうなんだ。」



 カケルがそういう話をしていると、玄関の方から声が聞こえた。



「そこの人、助けてくれないか。」

「ん?登ってくればいいじゃん。登れないの?」

「途中に真空区域があるみたいで、登れないんだ。」

「ふーん?八文字、行く?」



 カケルは刀に語り掛けると、少しの沈黙の後刀を穴に投げ入れた。
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