リレー小説「異世界の旅人」

東郷春幸

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翔 1

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「起きるがよい」


 そんな声が響いた。


 ここはどこだ……という疑問が天野翔を襲う。


 翔は高校一年生だった。そう過去形だ。
 翔は幼馴染の少女を助けるためにトラックに撥ねられた。激痛の末、翔は死にたえ、気付いたら、真っ白な平衡感覚すらなくなりそうな世界……空間にいた。
 その空間で金髪蒼眼の美少女。フランにあい、人為的――神為的な事件だったと発覚した。フランはそれを償うために、隠すために、翔を異世界に転生させることにした。しかし、それでは不安なため、【特殊能力】を与えて、さらに加護まで付けくわえ、転生させた。否、させたはずだった。


 翔が転移したのは、またもや白い世界。これでは先ほどと全く、何も変わっていない。


 (どうなってるんだ)


 心の中で呟いた。


 (また転移失敗か)


 そんな気持ちが心で渦巻く。


 先ほど、フランから転移させられた時も一度、神帝のところに行った。そのようなものだと考えたのだ。


 しかし、先ほどから響き渡るこの声は何なのだ。


 そんな疑問を浮かべた時に、また声が響きわたった。


 「目覚めよ」


 さらに声が響く。


 「目覚めよ」


 繰り返される。


 「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」「目覚めよ」


 幾つにも連なるその声を聞いた時、視界が明滅した。暗転した。転移の時と似ている感覚と共に、翔は魂ごとある世界に引っ張られる。




 ――翔は世界を超えた。














 「いてて、ここどこだ」


 翔が声を漏らした。


 鬱蒼とした密林が眼前に広がっている。ジャングルの奥底を想起させるような光景は自然と翔に不快感を齎す。


 「……嘘だろ」


 翔は別の意味で驚きの声を漏らす。そこには猿がいた。


 ただし、ただの猿ではない。異常なまでに巨大な剛腕。狂気を宿した紅い眼。腕を流れる紅い血と青い血。どうやら、手負いのようだ。


 「グギャ!」


 猿は奇声をあげて、翔に襲いかかる。


 「うわっ!?」


 翔は瞬時に反転し、攻撃を緊急回避する。咄嗟に屈んだ判断は正しかった。ギリギリ。拳一個分上空にて、剛腕が通り過ぎる。


 「死ぬって!!!」


 さらに追い打ちをかけるように回し蹴り。咄嗟に腕で防ぐ。だが、悪手だった。想像より遥かに攻撃を強く、腕が痺れる。


 「うぐぅっ」


 痺れた腕を強引に引き戻し、次の攻撃を防ぐために使う。最悪、左腕は折れてもいい。そう決意し、蹴りを受ける。


 「ぐぅっ」


 やはり攻撃は強い。腕の感覚が若干ない。折れたのかもしれない。


 猿を見ると、一旦、休憩なのか、バッグステップし、距離をとった。


 (ラッキーだが、すぐ攻撃はくる)


 絶望的な攻撃を掻い潜った翔は勝機を探す。


 (どうしたらいい? 何が最善だ)


 翔は自分の中で葛藤し、自身の能力を考える。


 現在、翔が使えるのは二つの【特殊能力】だ。


 【技能奪取】。敵に十秒間、触れるか。敵を殺す。その二つのどちらかが達成された時、相手の技能を奪い取る。相当ぶっ壊れなチート能力だ。だがしかし、考えてほしい。この猿の一撃一撃を掻い潜り、それでいて十秒間? 寝ている熊の方がよっぽど簡単だと自嘲する。
 【創造権能】。なんでも自由に創造できる。例えば、核爆弾や水爆すらも。果ては、擬似的な超新星爆発を起こすことだって可能だろう。だがしかし、現在、翔にはそのレベルの創造ができたとしても助からない。共倒れでは意味がない。


 「だけど、やらないよりは……!」


 そう言って、翔は【創造権能】を行使する。


 「【創造『武具:AK-47』】ッ!」


 狙い通り、創造されるのか。翔は不安な思いを抱きつつも叫ぶ。


 そして、想った通りに、『AK-47』が創造された。ご丁寧に弾薬付きで……


 どうやら、【創造権能】で武具などの物体を創造するときは想像に引っ張られるようだ。


 「死ねッ!」


 翔は銃を構え、猿に向かって弾丸を穿つ。


 放たれた銃弾は弾幕のように猿を蜂の巣にする。ほぼ全弾命中。恐ろしく精度が高い。しかも殆どブレない。反動もほぼゼロ。


 「ギャッ!」


 猿は途端に強力な攻撃にあったことに驚きの声と激痛のために叫び声を出す。


 「これがご都合主義か……」


 翔は助かったことに安心の声を漏らす。猿は青い血をだらだらと流し、死にかけている。


 「グギャァァァアアア!!!」


 最後の絶叫。


 そして、猿は絶命した。


 ただし、置き土産を残して……




 絶叫を聞きつけた化け物、あぁつまり猿どもは眼を覚まし、その位置に駆けつける。


 翔が見たのは化け物の大群だった。ぱっとみただけでも数十体。




 ――勝てるはずない。




 そう直感した翔は即座に逃げ出すために全力ダッシュをする。


 「死ぬぅううッ!」


 その時、翔は森の中に一軒の家があることに気付いた。


 「……ッ! もしかしたらッ!」


 一欠片の奇跡。即ちに、強者がいる可能性を信じて、家の近くまで攻撃を避けつつ移動する。


 そして、後ろ蹴りで扉を蹴破り、バックステップで入り込む。だがしかし、現実とはそう上手くいくことはなく――




 ――急に地面が抜け落ちた。




 「はぁッ!?」
 「さらに追加で一人入りまーす」


 そんな呑気な声が聞こえてきて、落とし穴の中、奥底へ落ちていることに気付いた。翔は咄嗟に【創造権能】を行使する。


 「【創造『技能:天駆』】」


 一回しか使ってないはずなのに、自然に使えた。さすが、能力。自分の手足のように使いこなすことができる。


 『天駆』の能力は至って、シンプル。空を駆けることができる。空気中でも足場があるように駆けあがる。


 (ふぅ。危なかった)


 翔は溜息を吐いた。


 「あの、お願いしたいんだけど、猿、ぶっ殺せない?」


 助かったと確信し、華麗に美少女にお願いした。


 だがしかし、美少女は言った。


 「じゃあ、その穴に飛び込んで、落ちた人を助けてきてね」


 そう言って、トンっと突き飛ばす。


 「はぁーーー」


 急な攻撃、不意打ちは翔を驚かせるに値し、技能の発動が遅れてしまった。






 「やぁ、こんにちは」


 なるべく、全力の笑顔で落ちていた三人に声をかけた。


 一人は少女。黄緑色の髪……うん? と思い翔はもう一度眺める。身長は高い。180はあるのではないか。彼女、いや彼、男だ。間違いなく。驚くべきほどの美少年だ。一瞬、少女と見間違えた。


 一人は少女。銀髪のショートカット。可愛いげのある美少女だった。今度はあってるはずとよく見る。胸は貧乳と呼ばれる大きさだろう。ホットパンツにフレンチスレーブを着ている。


 一人は少年。背中に黒い翼を生やしている。刀を持ち、幼げな雰囲気を放っている。


 それがアンドレイ・ミヤ・カケルとの出会いだった。
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