第1章 いずれ呑舟之魚となるために

東郷春幸

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第6話

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あれからざっと20分ぐらい経って、ようやく全身の再生が完了した僕は何とか辛くも母艦に帰ってこれた。服をものの見事にボロ布にされてしまったので、死体から野伏のように追い剥ぎをして、それを着込んで帰ってきた。
結構防寒性に優れていたけど、流石に加齢臭とか煙草臭さが酷い軍服だった。ああいうものは自分じゃ中々気がつかないものだ。僕はそう思いながら煙草を燻らせた。
これから団長に今回の件について報告に行かなければならない。だが、今回は正直言って負け戦だった。どこぞの何某が水を差さなければ無事完遂できたのだけど、そうらならなかったのだから仕方がない。
失敗。どんなに筋が通った言い訳で着飾ってもその事実は消えない。
団長は僕の師匠にあたる存在で、6年前、僕が兵役に就いたばかりの14歳の頃から色々と懇意にしてもらっている。僕に兵士としてのイロハとそれらを応用する術、更にはあらゆる僕の才能を開花させる手助けをしてくれた。
団長は当時の僕をこう激励した。

「お前は一般社会には向いていない。お前の瞳の奥で赤黒く燻る熾火はカタギの世界では無用の長物だからだ。俺はお前のような男に会ってしまった以上、お前のその熾火を仰がねばならない」

また、当時痩せていた僕を初めて1発で男と見抜いたのはこの人だ。
僕が今まで出会った人間で最も尊敬し、崇拝している方だ。当然軍人としても極めて優れており、軍人の家系でもない小市民の出から中将にまで上り詰めた男。戦禍の夜と殺伐の昼を数え切れないほど超えた一騎当千の代名詞とすら言える兵士だ。
そんな闘争の神のような人間に鍛えられた僕は、団長にもちろん恩義は感じているが同時に畏怖も抱いていた。
何故なら団長は、兵士の育成についてかなり古典的な古い考えを抱いていたからだ。団長は人殺しを生業とする軍隊という職業に、世間の一般常識の定義を当てはめる必要は皆無として、若い兵士の養成には徹底的な暴力路線を貫いた。それしかやり方を知らなかったのかもしれないが。
いくら軍人といえど訓練中に身体を壊してしまえば元も子も無い。それらに投資した金も水の泡になる。だから訓練では主に激しい罵詈雑言が用いられるのだけど、団長はそれと同時に体罰も欠かさなかった。
教師だったら初日で免職になるような悪逆非道な体罰を、団長は悪酔いした上司が部下の尻を蹴り回すように平気で行なったのだった。健全な精神は健全な肉体に宿るというが、あれは明らかに人格が歪む教育だったと思う。
噂では、陛下から直々に乱暴な行いは窘めるように注意されたらしいが、涼しい顔で軍の実情も知らない人間が余計な口を挟まないで頂きたいと言ったらしい。
倉庫で眠っていた暴徒鎮圧のゴム弾を見つけた際には、何か不手際をした訓練兵をしばしそれで撃ったが、基本的には手製の凹凸が付いた警棒と骨董品の革の鞭を愛用していた。
僕はそれが嫌で、訓練と平行して影を薄くする努力を惜しまなかった。それでも50回は殴られた。団長は見えるところには傷を付けないのが幸いでもあり、そこに陰湿を感じた。
中将の立場から敵の捕虜は自由に扱えたので、それらを連れてきては実弾で一人一人に撃ち殺させて、殺人への抵抗感を薄れさせた。
上手く仲間同士に軋轢を作らせて切磋琢磨を促したが、カーストには常に目を光らせていた。鬱憤を貯めさせすぎて内乱なんか起こされたら自分の沽券に関わるからだ。
生まれついてかは知らないが、団長は重度のサディストだ。心から尊敬はしているけどああはなりたく無いという典型的な人間。仮に裏切った場合はどんな目に合うか分かったもんじゃない。
そういう意味では僕は団長に牙を抜かれている。多分僕は団長には一生逆らえない。
団長がしたことは精鋭兵を多く輩出する同時に自分の手足となる駒を量産した。僕はその中でビショップかルーク辺りを目指した結果、今は団長付きの護衛となっている。
さて、失敗の報告に行こう。どんな制裁が与えられるか分からないのが嫌だ。こういう時だけ僕は自分の不死性を恨む。団長の場合はそれを逆手に取るんだ。
付け足しておくが僕は団長の腹心であり、それ以上でもそれ以下でも無い。ただ、団長みたいな有能な人物の下にいれば、飢凍に伏すことは無いからね。
僕は吸い殻を鉄板の壁に押し付けて、それをゴミ箱に入れた。
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