終末のボクたちは、スカイリアで待ってます〜仲間に振り回されて女装させられたりしつつVRMMOで生活するやつ〜

aoringo12

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ウサギはとても強かったよ

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「おおー」

 街唯一の出口から外に出てみれば、見渡す限りの草原だった。遠くに森も見える。
 どうやら最初の街は本当に田舎らしく、街が大きいのも、ボクたちプレイヤーが最初に訪れる受け皿、ということで用意されたような雰囲気がある。道も広場も大きく、けれど住人の人口も店も最低限。敵も比較的平和。

 ゲームだから、と片付けるのは簡単だけれど、この世界の住人達がプレイヤーに対して良くも悪くもどれだけ意識しているのか、というのがなんとなくわかる気がするよね。

 さて、大きな門を抜けると、道がひたすら伸びていて、草原の向こうに見える森に向いているのがわかる。多分、この道をまっすぐ進めば次の街につくのだろう。
 このへんで経験を積んで、色々な要素は次の街から利用できる、といった感じのお約束になっているのだろうなって勝手に考える。

「とはいえ、とりあえず人がいないところに行こう」

 街の入口から見える範囲は人でぎっしりだ。皆、それぞれの武器でモンスターたちを追い回してる。こう、へっぴり腰の人たちが剣やら槍やらを振り回している光景は狂気的だ。

 「弓が当たらないいいい!!」「体が勝手にうごくうううーー!!」って感じで、それぞれが何かを叫びながら武器に振り回されてる。
 多分こういう光景も、ゲーム開始時のお約束なって感じなんだと思う。

 さあ、ボクたちもその洗礼を受けようじゃないか。
 楽しみだね?

 初めから全てがうまくいくなんて、そんな甘い考えを持っているはずもない。
 何事もコツコツと。
 色々触っていって、最終的に結構いい感じになればいいんじゃないかな。

 そんなわけで、ボクたちの取り分を探すためにも、できるだけ人がいない場所にいこう。
 はーいみなさん、キョロキョロしてないでついてきてくださいねー。
 はい手をつないでー。
 いいですよー。
 こっちですよー。



 さて、街は円形状になっている。
 周囲は壁で囲まれていて、頑丈そうだ。周りは平原で、大陸の端に位置している。
 そんなわけで、門から続く道以外の方向に進んでいけば大陸の端に当たる。この世界の大陸の端ってのは、つまり海じゃなくて、どこまでも続く崖が広がっているはずだ。
 ここからは見えないけれど、その方向へ向かっていけば見えるはず。
 まあ、流石に今すぐ見に行ってみよう、なんてことはしない。
 何日かかるかもわからないし。

 街を壁伝いに歩いていれば、なんとなく人が少なくなってくる。
 マップ上で門の反対側あたりまで来れたのを確認して、街壁から離れ始める。

 うん、ここなら十分走れ回れそうだ。

 周りには、かなりでかいウサギや虫がウロウロしている。
 ポンって感じで後から後から湧いてくるので、狩りつくすなんてこともないだろう。
 ここらへんはゲームしているね。
 遠くには薬草も見える。

 ウサギは歯がとても発達していて、あれで噛まれたら痛いだろう。
 虫も移動速度は遅いが、どんな攻撃をしてくるのか分からない怖さがある。毒とかもっていそうだ。

 ボクたちはとりあえず、アイテムを確認することにした。
 ゲーム開始時にざっと確認して、武器は持っていることは確認しているので、とりあえずをれを使ってみるつもり。
 インベントリに入っているアイテムは、ポーション類、見本用の薬草、ナビさんからの手紙、特殊スキルスクロール、携帯食料、初期武器として短剣、槍、剣、盾、弓、杖、ハンマー。

 皆のインベントリも公開表示で見せてもらって、内容が同じなことを確認する。

 ナビさんからの手紙をさっそく開いてみる。

~~~~
 他プレイヤーの皆様は、初期スキルとして、様々な基本スキルから武器スキルや鑑定といったものを獲得した状態から始まります。
 しかし、この手紙を読んでいる方々はそういったスキルもなく、完全な初期状態でゲームを開始していることと思います。

 インベントリに、本人のみ使用可能な特殊スキルスクロールがあると思います。
 これは、あなた方の脳波を読み取り、これまでのリアルでの人生の、その道程を表したスキルとなります。
 とはいいましても、特別強力なものでもありませんし、他プレイヤーも獲得条件が整えば獲得できるスキルになります。
 お気軽にご使用ください。

 また、武器はそれぞれ、スキルレベル10相当の武器スキルが付与された物になっています。
 これは、武器スキルを選ぶことができなかった皆様への、ちょっとしたプレゼントになります。
 一通り試してみて、気に入ったものがあれば、その道を極めるのも良いかと思います。

 どうか、リアルでの人生の、その続きとして、この世界の人生がより良いものとなりますように。

 ナビ
~~~~

 読み終わると、手紙はしゅわしゅわと光になって分解されて、ログへと回された。
 確認のために自身のステータスを見てみる。

~~~~
名前:ルイ
職業:冒険者

左手:なし
右手:なし
胴:なし
腰:なし
足:なし
腕:なし
外装:なし
アクセサリー1:なし
アクセサリー2:なし
アクセサリー3:なし
アクセサリー4:なし

スキル:
なし
称号:
なし
~~~~

 うーん、見事になにもないっすね。
 まあ初期状態だからしょうがないよね。
 装備がなしでもボクたちが服をきているのは、ゲーム上の仕様だろう。

 今ボクたちは見た目上は服を着ているけれど、防御力的には裸の状態ってわけだ。
 ためしに脱ごうとしてみても、なんか見えない何かにぬるっと滑る感じ。
 ふむふむ。

 早速、特殊スキルスクロールを使用する。

――スキル<デバッグ>を習得しました。

 ふむん? 詳細を確認。

~~~~
<デバッグ> Lv1
光系統を主とした魔法体系によって世界基盤にアクセスし、様々な現象を数値表示化する世界魔法の1つ。消費魔力は無視できるレベルだが、表示に使用するウィンドウの数だけ微増し、カスタマイズするほどその量は増えていく。

個人で使えるように最適化されており、本人とそのパーティーメンバーの身体状態を主とした様々な情報をリアルタイムで閲覧することができる。レベルが上昇するごとに、そのカスタマイズ領域は広がっていく。

※特殊スキルとして獲得されたので、前提スキルを持つ必要がありません。
使用可能魔法:【デバッグ】
~~~~

「【デバッグ】」

 説明だけだと、ちょっとよくわからないので早速使ってみる。
 消費魔力はゲージが若干減った程度。というかゲージ自体が少し削れた。
 リアルタイムで表示するというから、最大魔力自体が一時的に削れるタイプなんだろう。

 ボクの前には沢山のウインドウが表示される。
 ボクのステータス画面から、体の各部位の損傷度と疲労度、VR上での最適化率、計算領域の使用率などなど。
 面白いのは獲得期待スキルの習得度や、スキルレベルアップのための経験値まで見えることだ。
 ちなみに、ボクのVR体最適化率は10%ちょっとだ。
 かろうじて歩ける程度、多分タックルされたらバランスくずしてすっ転ぶだろう。
 早く慣れる必要がある。

 パーティーリンクという項目があるので、それを起動する。
 そうすると、周りの皆にパーティーリンク承認の表示が出る。
 承認してもらうと、ギュッとボクのMP最大値が削れて皆の状態も見れるようになった。
 まだ空腹度程度しか見ることができない。
 が、感覚の中で皆がどこにいるのか、どこを見ているのかがなんとなくわかる。

 なるほど、これが【デバッグ】。
 うん、たしかにボクのこれまでを表すスキルだと思う。
 直接ゲームに影響を及ぼすものじゃないってところも含めてボクらしい。

 多分、今後はスキルのクールタイムとか、指示出しとかができるようになっていくんだと思う。
 どれだけスキルレベルを上げれば良いのかはわからないけれど……。
 カスタマイズもまだできないし。

「うーん、これはかなり便利なのでは?」
「ほほう、ルイらしい。こう、体中を撫で回されている気がするな」
「やめてよね、気持ち悪い」
「私はルイになら何をされても大丈夫よ」
「私も」
「やめて、愛が重い」

 皆の評価は上々といったところ。
 ボクはとりあえず、ウインドウを自身の周りでくるくるさせて見たり、大きさを変えてみたりと一通り操作をする。
 他に魔法も持ってないし、最大MPが減少しようがどうでも良い。

 次、モミジくん。
 多分一番やばいスキルを持ってると思うので、精神衛生上のために先に見ておこうと思う。

「ふむ、これだな」

~~~~
<悪食> Lv1
全てのモノを食す者に与えられるスキル。その歯は欠けず、舌は全てを伝え、胃は鋼になる。対象物の抵抗値を無視して部位欠損させることができる。このスキルは対象を口に入れることで自動的に発動する。

満腹度減少速度増加:極大
満腹度90%以上で身体能力上昇
満腹度50%以下で身体能力半減
満腹度0%で即死亡
アーツ、魔法、身体運動によって満腹度減少
味覚鋭敏化
スキル対象者の痛覚感度20%増加
スキル対象者を見た敵対者に[恐怖]効果付与:確率小
飲食による状態異常無効
~~~~

 色々とエグくないっすかね?
 良いスキルなのか悪いスキルなのか、よくわからない。
 デメリットが全体的にひどすぎる。満腹度周りについては、完全にデメリットのフルコースだ。
 ヘルプによると、基本的に満腹度が0%になってもすぐ死ぬことはなく、身体能力が著しく下がって数日放置してたら死ぬ程度だ。
 
 けれどモミジの場合すぐ死ぬ。

 うーんお腹がすいたなあ。――し、死んでる。みたいな。

 満腹度の減少速度も上がってるし。
 多分、普通のプレイヤーの2倍とか3倍とかの速度で減るんだと思う。
 常に何か食べてないと死ぬのではないか? さらに体動かしてるとガンガン満腹度減るみたいだし。
 どんだけの燃費だ。

 その他は一応メリットではある。
 「スキル対象者の痛覚感度20%増加」っていうのは、多分だけれど、モミジに噛まれるとめちゃくちゃ痛いってことなんだろう。
 ボクたちはゲーム内でどれだけ痛みを通すのかの設定ができる。

 ボクたちは基本的に最大値の50%だ。
 所謂マゾ仕様ってやつ。
 オススメ設定だと10%とか20%らしい。それだと体が切られても、思いっきりビンタされた程度の衝撃しかないんじゃないかな。

 ボクたちは別に痛いのが好きってわけじゃないけれど、痛くないと、「生きている」って実感できないタイプの、変なこじらせ方をした人たちだ。
 まあこれも脇に置いておこう。

 基本的にはなんでも食べられて、敵に対して有効な攻撃手段が1つ持てたって感じかな。
 [恐怖]付与ってのも面白いと思う。見ただけで発動も、これまたエグい。
 モミジなら有効的に使うだろう。
 レベルも上がれば燃費も良くなると思うし。……よくなるよね?
 さらに悪くなるとかないよね?

「食費は自分で稼いでよね」
「しばらくは土でも食べるとしよう」

 こいつはこういうやつだ。
 
 冗談でもなんでもなく、そのうち土を食べ始めるだろう。
 どっかで見られて、遠巻きにその変態ぶりを観察されるがいいよ。
 ……いや? <悪食>っていうくらいだから、普通の食事をしていてもレベルあがらないかも。

「よし、土食べろ」
「おう」

 筋肉は、さっそく地面に座って土を掘って食べ始める。
 ははは、こいつ土食ってやがる。

 筋肉が
    土を
       食ってる

 字足らず。

「うまいか?」
「食えなくはない」

 もう放っておいて、ウヅキとシオンの方を向く。
 別に彼女らが引いている様子とかない。
 モミジの変な行動はいつものことだ。
 たとえばボクが指示しなくても、モミジは近いうちに土を食っていた。

「ん」

 ウヅキがウィンドウを見せてくる。

~~~~
<身体制限解除> Lv1
身体がその限界値を超えて稼働する。思考速度によって物理的制限を超えることも可能。制限がなくなるため、無理な動作をするとHPダメージや部位欠損の状態異常を起こす。また、制限を超えた時点で[出血]状態異常になる。

※このスキルによって発生する状態異常は予防できない。
~~~~

 シンプルに強い。
 ウヅキはこれまで、思考速度にアバター体がついて行かず、もどかしい状態になることが多かったか。それをフォローするピッタリのスキルだと思う。
 これまたレベルあがあがればデメリットが小さくなっていくんじゃないかな。
 もしくはダメージを受け始める閾値がどんどん上がっていくのか。
 どちらにせよ、今の状態だとデメリットが相当でかい状況になっているのは想像に難くない。
 予防できないってのは、アクセサリーで耐性上昇とか無効とかが意味無いってことだと思う。

「無理しないようにしなよ」
「ん」

 撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
 返事だけは良いのよね、この子。困ったわ。
 筋トレとかさせると身体強化とか筋力強化とか、そういったスキルを覚えるだろうか。

「はい! 私も見てください!!」

 最後はシオンだ。経験上、シオンも相当なスキルを持っていると思われる。

~~~~
<傀儡術> Lv1
<マリオネット><死霊術><深淵魔法>など、生物を操り制御するための魔法技術体型における1つの極地。それぞれの魔法や魔術体系からモノを操る技術に特化している。

魔力を消費して対象を操る。スキルレベルに応じて対象にできる範囲が広がり、同時傀儡数が増える。魔法抵抗力の強い対象には術がかかりにくい。

使用可能魔法:【傀儡化】【部位傀儡】
~~~~

「シンプルにやばそう」
「やっぱりこの系統なんだって私も思っちゃった」

 どうしましょ~、なんて体をくねくねさせているが、スキルからしてシオンの本性がむき出しになっている。
 まあボクたちも今更なので気にしない。
 あと、隙あらば俺を抱きかかえようとしないでよね。

 不満そうにしてもダメ。

 また皆の収まりつかなくなる。
 今日中にとりあえず、今あるクエストくらい終わらせたいんだけど? ボク。

「まあ、総評としては、ほっとけば皆なんだかんだで獲得してたであろうスキルって感じだね」
「だろうな」
「ん」
「私もそう思う。<マリオネット>なんて完全に私の趣味ど真ん中だもの」

 はい、確認も終わったところで、ウサギと虫狩りじゃあーーー!!

 ボクはおもむろに短剣を装備して、身近にいたウサギに飛びかかる。
 こういうのは勢いが大切だ。
 意外とでかいウサギにビビっているなんて、そんなことは勿論ないんだよ?
 体が勝手にギュンッと動いてウサギに刃が吸い込まれていく。
 おお、これがスキルによる補正なのか。

「ギュイ―!!」

 ウサギがびっくりしてこちらを見る。
 HPのゲージが目にみえてぎゅぎゅっと縮まる。
 あと何回か繰り返せば――。
 
 おお!?

 スキルの補正が終わり、体が自由になったところでボクは体制を立て直せずに、ずっこけてしまった。

 地面にへばりついていると、顔面めがけてウサギが突っ込んでくる。

「ぎゃあーーー!!」

 視界いっぱいの巨大動物の突進はかなりの恐怖映像だ!

「ルイ!?」
「ルイ!!」
「――!!」

 ボクが転んだのに驚き、すぐに動き出したのはモミジとウヅキだ。
 ただ、モミジは体をひねろうとしてバランスを崩して転倒。
 適合率、まだ低いからね。
 ウヅキの方はというと、ギュンッとウサギへと距離を詰め、その腕が見えない速度で唸る。

 パァンッ!!

 風船が割れるような音がして、ウサギのHPが削れる。
 割れたのはウヅキの腕だった。
 振り切った腕はズタズタになったように血が流れて、曲がっちゃいけない方向に曲がってる。

「ッ――!!」

 パァンッ!!

 また音がする。ウサギはまだ死んでない。
 ウヅキの両腕が動かなくなる。

「ウヅキ!」

 ボクは短剣を握り直し、ウサギへと短剣を突き出す。
 そこへ追いついたシオンとモミジも短剣と拳を振り下ろした。

 ウサギが断末魔を上げて光になって消えていく。
 それを確認して、ウヅキはへたり込んだ。

「ウヅキ、大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄って、ウヅキの両腕を確認する。
 血が流れているが、骨が出ているって感じではない。
 一応全年齢のゲームだから、そこらへんはマイルドに描写されているんだろう。
 【デバッグ】のウヅキの表示には、両腕に[欠損]、さらに[出血]と[貧血]の表示が出ている。
 HPも結構やばい。

「――久しぶりだったから、加減間違えちゃった」

 痛いのも、久しぶり、と弱々しく笑う彼女の頭を撫でつつ、とりあえず幹部にポーションをかてみる。
 じわじわと回復していくHP。
 これでHPは問題ない。
 [出血]でじわじわと削れて入るが、今すぐ死亡とはならないだろう。

「ゴメンな、ウサギくらい大丈夫だと思って」
「ううん、私が勝手に取り乱した。大丈夫なのはわかってるはずなのに」
「そうだな。俺も動きが遅れてしまった」
「私も」

 皆それぞれ、ちょっと反省だ。
 ちょっと舞い上がっていた。
 次はもっとうまくやろう。

 それにしても、[欠損]はどうすれば治るんだろう。
 お医者さんかな?

「あのー、大丈夫ですか?」

 振り返ると、心配そうにこちらを見ているお兄さんがいた。

「ああ、大丈夫なんですけれど、この子が[欠損]と[貧血]の状態異常になっちゃって」
「[欠損]……。ええと、大体の状態異常は、戦闘状態じゃなければ、しばらくじっとしていると治ると思います。[欠損]はわからないけれど。あ、俺ベータテスト参加してたんですけれど、腕がなくなってもきちんと治りましたし。多分大丈夫だと思います」
「なるほど、ありがとうございます」

 見ていると、ウヅキの腕にゆっくりと白い光が集まり、カウントが表示される。
 200。
 なるほど、よっぽど特殊な状態異常ではないかぎり、ゲーム的な処理で状態異常が解除されるのか。
 知れてよかった。
 このカウントが終わればウヅキの腕も治るんだろう。

「大丈夫そうです。ありがとうございます」
「いやいや、俺はなにもしてないですし。ちなみにだけれど、彼女は何か特別なスキルとか持ってたりします?」

 お兄さんは興味深そうな顔でウヅキを見る。まあ、別に見せても良いんだけど……。

 うーん。

「ああいや、そのスキルが知りたいわけじゃないんだ。いや、すごく興味があるのは確かなんだけれど、デメリットすごそうだし。自分のスキルは隠す人も多いし。えっと、俺がいいたいのは、スキルはそれぞれ発動させないように設定できるんだ」

 ボクが考えてたのが出し渋りに見えたんだろう。
 お兄さんはスキルの設定について説明してくれる。
 うん。良い人だね。
 
 慌てて口調も砕けてしまっている。なんとも愛嬌がある人だと思う。

「いえ、別に教えるのは良いんですけれど。……良いよね?」

 ウヅキを見ると、頷いてくれる。

「彼女のスキルは<身体制限解除>って言います。といっても、多分そんなに使い勝手はよくありません。筋肉の動きとか、そういうのを全部無視して、考えた通りに体が動くってスキルです。下手に動くとそれだけで体が壊れますし、さっきも二回殴ってウサギが倒れなかったんで、多分ウサギを殴る前に腕が壊れてダメージが出なかったんだと思います」
「へ、へぇ……。凄いスキルだね……。ユニークスキルなのかな? いや、種族スキル? そんなのすぐに覚えられものなのかな……」
「どうでしょう。彼女だけの能力ではないと思います。体が壊れるのを無視して素振りでもしていれば覚えられるんじゃないですかね」
「そ、そうか……。聞いただけだと、デメリットしかないように思えるんだが」
「今のところはそうですね。ただ体を壊すだけのスキルになってます。『使える』って言えるようになるまで、かなり時間がかかるんじゃないですかね」

 この<身体制限解除>を使いこなすには色々と、他のスキルも獲得していく必要がある。身体強化みたいな補助的なスキルだ。確認させてみたところ、ウヅキの<身体制限解除>のスキルレベルはまだ上がっていない。

「なるほど……。俺としては、そのスキルは今のところオフにしておく事をオススメするよ」

 お兄さんがウヅキを見る。
 ウヅキはしばらく考える素振りをして、最終的には首を横に降った。

「私の力だから、使いこなせるようにがんばる」
「そうか。将来楽しみだと思っておくことにするよ。あ、このこと掲示板に書いていい?」
「掲示板ですか。ボクは攻略情報とか掲示板とかあんまり見ないんですが、見たり書いたりした方がいいですか?」

 さっき鬼ごっこしているときも、動画を上げていいかとか言われた。多分、他の皆もそういう掲示板とか攻略サイトに興味ないタイプだ。

 あれ? そういうばその時の人にちょっと似ているような?

「ひょっとして、動画を上げたのもあなたでしたっけ?」
「え? いや、あー。そうだね。そう。別に隠すつもりじゃなかったんだ。人がいないところを探しながらモンスター狩ってたら君たちを見つけて。で、怪我したみたいだから声かけたんだけれど。覚えてもらってるとも思ってなくて」

 と、ペコペコ謝るので、別に気にしていないと伝えて、互いに自己紹介。
 お兄さんの名前はライズ。
 赤髪と白い歯が眩しい爽やかさんだ。

 ライズさんに話を聞くと、知らないスキルとかがあったら、その効果をまとめたりして、攻略に役立つように情報を交換しあう事があるそうだ。
 あんまりレアなスキルとかは、隠したりするほうが良いとか。
 ただ、スキル名はヒントにしかならないから、このゲームで取得条件とかが開示されてもそんなに意味はないとも教えてくれる。
 ボクたちのスキルの場合、隠し通すのは難しいだろうし、下手に勘ぐられて追い掛け回されるより、さっさと開示した方がいいように思えた。

「ゲーム開始時に変なスキルを持っていることは多いですか?」
「うーん、持っている人もいるのは間違いない。ただ、ウヅキちゃんみたいに凄まじいデメリットを持ってるのは初めて見た。獲得条件はわからないんだけれど、クエストかもしれないし。例えば、俺は種族スキルってので<幸運>っていうのを最初から持ってる。使うと絶対攻撃が当たってクリティカルって強力なスキルだ。ただ使用間隔も長いし、格上には発動しなかったりもする。生まれつきのタレント、才能、そういうのに近い」
「なるほど」

 つまりライズさんは、ウヅキのスキルはその種族スキルだと勘違いしてくれてるってことか。
 <幸運>スキルの効果を教えてくれたのも、ウヅキのスキルの説明をしたお返しなんだと思う。
 
 うーん。
 
 ……うん。
 今後色々説明するのも面倒くさいし、ここはライズさんに任せちゃおう。

「取得条件とかわかりませんし、ウヅキもいつの間にか持ってたって言うし。それでもよければ、その掲示板ってのに書いても問題はないですよ。ただ、ボクたちはゲームを楽しみたいと思っているので、迷惑がかからないようにしていただければと思います」

 どうせウヅキとかモミジが、破茶目茶するのは目に見ている。情報が出るのは早いか遅いかだ。
 適当に言葉を濁せばライズさんが勝手に解釈してくれるだろう。
 ここは掲示板とやらでの対応をライズさんに任せてしまおう。

「そうか。ありがたいよ。良い情報をだすと、それから話が弾んだりするんだ」
「へぇ。そうなんですか。よくわからないけれど……。あ、よかったらフレンド登録とかしてもらっていいですか?」
「お、良いのかい? いやあ美人さんとか強そうな人とフレンドになれるのはとても嬉しいよ」

 そのまま皆でフレンド交換。
 嫌味なく、純粋に嬉しそうな感じだ。
 大人だねライズさん。

 だけど、シオンのおっぱいをあからさまに見るのは良くないと思うよ、ライズさん。
 気持ちはわかるけれどね。
 あっはっは。

「じゃあボクはちょっと遠くでラビットでも狩ってるよ。何かあったらなんでも聞いてくれ。できるだけ答えるよ」
「はい、ありがとうございます」

 やあ、社交的な人とは積極的に交流を持っておきたい。
 怪我している人へと、心配そうに近寄ってくる程度には彼は優しい人だ。

 ボク以外の皆は対人能力は壊滅的だからね。こういう機会を逃しちゃいけないのだ。
 今だってライズさんはボクとしか喋ってない。
 シオンとか見た目お姉さんで優しそうだが一切口を開かない。
 ボクまかせだ。

「ウヅキは感覚をつかむまで試行錯誤する必要があるね。他はまあ、自分のスキルを使ってみたり武器の練習って感じで行こう」

 元気よく返事をする仲間たち。
 ボクは【デバッグ】を発動して、ウインドウを周りに浮かべながらウサギへと突撃した。
 さあリベンジだ!

 あ!?
 モミジの満腹度が凄い勢いで減ってる!?
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