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畑と品質

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 次の日も元気にギルドと訓練場に顔を出し、新たな日課へと加わった畑へ。
 魔法の訓練がなくなったため、訓練場の時間は少し短くした。
 変わりに、暇があれば体の中で魔力を流したり、ルーンを使わず属性魔力を放出する練習を魔法の先生に教えてもらう。
 戦闘ほどはスキル経験値を得られないが、暇な時間にできる練習なので大変ありがたいと思う。

 特に、ボクたちは根を詰めて戦闘に明け暮れているわけではないので、特に。

 昨日の疲労もなく、ボクたちは元気いっぱいである。筋肉痛とかにならないのは嬉しいね。

「おおー」
「おや、よく来たね」

 昨日、耕した畑は結構な量の雑草が葉を出していた。
 凄まじい生命力だ。
 まあ土を掘り返しただけで、根が残っているから当然だとも言えるかもしれないが。

「これからしばらくは、雑草を取って土を掘り返す必要があるよ」
「大変なんですねえ」

 おじいちゃんは自分の畑の作業を止めてふぃー、と汗を拭く。
 草むしり中だったようだ。
 ボクたちも早速手伝う。

「そういえば、骨粉を使うと肥料になるって聞いたんですが」
「そうだね。品質が良くなるよ。とはいえ、毎回骨粉を使うわけにもいかない。意外と高いんだ」
「<錬金術>が必要だからですか。素材代と技術料ってところか」
「おや、よく知っているね。骨をただ砕いてもダメなんだ。魔力が逃げるとかなんとか。それに、今は正直、品質より量だからねえ。ギルドが野生の薬草採取のクエストを発行しているだろう?」
「なるほど……」

 昔はどうにか良いものを作ろうと四苦八苦したもんだ、と笑うおじいちゃんと会話しながら、草むしりを続けていく。
 ぐ、ぐふ、中腰きつい。
 流石に<魔力操作>の練習をしながら、とか言ってられない。
 根性でどうにかお手伝いを終わらせて、自分たちが担当する場所へ。

 ここもまた草むしりだ。
 その後耕して、今日中にもう一面は手を入れたいところ。
 昨日よりは手際がよくなっている気がする。
 <体術>のスキルもコンスタントにレベルアップしている。
 体を動かす訓練に丁度いいと思おう。
 腰が、腰が……。

 1面終わったところで少し休憩する。街の露店で買った串焼きが美味い。

「実際に植えるのはもうちょい先かの」
「ある程度雑草を抜いてからですか」
「そうさの」

 ふうむ。
 耕したら、即、植えて水やり、みたいなものだと思っていたが。
 上手くいかないものだ。
 しかし、日数がかかるなら、その間に<錬金術>と<調合>を覚えておくのはありかもしれない。

 薬草は今のところ、全てポーションにしているようだし、薬草をそのまま納品するよりも、ポーションにしてしまったほうが喜ばれそうだ。
 稼ぎも良さそうだ。

「<錬金術>と<調合>の道具は道具屋で買えます?」
「おや、興味あるのかい?」
「はい。どうせやるなら<錬金術>も<調合>もできちゃう方が良いと思いまして」
「ふむふむ……。それだったら知り合いの調合師を紹介しようかの」
「良いんですか?」
「人手が足りないとヒィヒィ言っとったわ。<錬金術>も使えたはずだし、ちょうどいいじゃろ」
「それはありがたいですね」

 明日までに話を通しておくらしい。
 本当にありがたいことだ。
 ギルド貢献度や報酬は低いかもしれないが、この仕事、ボクは得るものが多くて大満足だ。



――<農耕>スキルを取得しました。

「お」

 自分たちが手を入れている畑二面目の草むしりが終わったところで、スキル習得のアナウンス。
 これでもっと作業が楽になるだろう。うれしいね。
 わかってはいたけれど、未習得スキルを獲得するのは基本的にとても労力と時間がかかるらしい。
 あれこれ手を出してると、いつまでも先に進めないのは間違いない。

 とはいえ、ボクは今の生活を気に入ってるし、皆も特に嫌がっていないので問題ないだろう。
 最終的にそれぞれのスキルが役立ってくれると……いいなあ。

~~~~
<農耕>
農耕関係の作業が効率よくなるスキル。スキルレベルが上がると、植樹や水耕といった様々な農法が可能になる。また、植物の成長が早くなり、品質が向上する。
~~~~

 農業するなら必須のスキルだね。自分たちでほしい素材を増やせるから、これは嬉しいスキルだと思う。レアな植物は入手頻度が限られるだろうし、スキルを上げておいて損は無い。

「おほー!!」

 モミジが奇声をあげながら畑を耕していく。
 凄まじい速度だ。
 ボクたちも負けていられないなっ!

「うりゃー!!」
「やー」
「や、やー!」

 今日の成果としては、新たな畑を一面耕すことができた。
 明日で全部の畑を耕すことが出来るだろう。
 あとは順次薬草畑化していけるか。

 きりが良いので今日は切り上げる。
 明日また来ると約束して、いつものウサギ狩りへ向かおう。



「あ!? 解体道具買ってない!!」
「「「あ」」」

 ウサギを一匹倒した所で、いつまでも消えない死体に首をひねってしばらくして、ボカミスをしていたことに気づく。
 そうか、<解体>を獲得したから死体が消えないのか。
 うーむ、道具屋に行くか、どうするか。

 とりあえず手に持ってみる。
 あ、インベントリに入った。

「うーんどうしようか」
「買ってくるしか無いんじゃないかしら」
「だよねえ」

 しかし、いかんせん面倒くさい。
 今は、前と同じように街の裏側に来ている。

「ふうむ。道具屋の場所はどこだ?」

 お、モミジが行ってくれるのかな? ボクはマップにマーカーをつける。
 このマーカーは、パーティー全員が自分のマップで確認することができる。指示を出したり集合したりする時にとても便利な機能となっている。
 ボクたちは基本一緒に行動するのでこれまで使うことがなかったのだ。

「ふむ、ふむ。ではいってくる」
「ありがとー」

 手を降ると、ブンブンと元気よく筋肉質な腕が振り返される。
 そのまま奴は街壁へと向かっていく。
 まっすぐと走っていく。

 突然ロープを出して上へ投擲。

 すさまじい速度で登って街の中へと消えていった。

 うん、ボクは何も見なかったよ☆



「よし、じゃあ早速やってみよう」

 モミジはきちんと解体ナイフを買ってきてくれた。
 道具扱いで消耗しない。

 インベントリからウサギの死体を出して、解体ナイフを突き刺す。
 そうすると、体が勝手に動いて作業をし始める。
 ゲージが現れて、それが削れ始める。
 なるほど、これがなくなるとアイテム獲得か。
 まだレベルは低いからか結構時間がかかる。
 
「んー数十秒かけてウサギ一匹……。今のところは割に合わないね」
「得られるアイテムが増えるのであろう?」
「まあ、そうなんだけれどね」

 とりあえず今回は皮2枚と肉2つ。普通のウサギの単純に二倍ほどアイテムが取れた。
 ……と?

「品質って項目が見える」
「なんと」

~~~~
ラビットの肉
品質:普
ラビットの肉。癖がなく、食べやすい。
~~~~

 これが今までの物。
 今回解体したのは別でスタックしていて品質は「良」になっていた。

「解体をすると、痛めずに素材を回収できるってことなのかな」
「つまり美味いってことなのだな……あ」

 モミジは上機嫌だ、と思ったら自分のインベントリを見て呆然とした顔をし始める。

「品質『劣』の肉が結構あるのだが」
「へ?」

 ボクのインベントリにはそんなものはない。
 いや、皮のスタックが別れていて、「劣」になっているものがある。

「ボクのは皮が幾つか『劣』になっている。シオンとウヅキはどう?」

 二人もさっそく自分のアイテムを確認し始める。

「私のは普通のものしかなかったよ」
「同じく」

 あれー? 二人とボクたちの違い……。
 モミジの分についてはすぐに思いつく。

「モミジは<悪食>で食ったモンスターのアイテムが品質悪くなるんだろうな」
「なんと」

 つまり食べかけの肉ってことだ。そりゃ品質悪くなる。
 じゃあボクは?

「……もしかして<火魔法>?」

 ウサギや虫はもう各自一人で対処できるから、それぞれで倒している。
 つまり獲得アイテムは独占状態ってことだ。
 このゲームでは、一体のモンスターに対しての戦闘でどれだけ貢献できたかでアイテムが分配される。

「今後モンスターと戦う時は攻撃手段も考えろってことなのか。……<解体>を持っていないのと見れない隠しステータス。これは生産職からすると死活問題かもしれないな」

 ドッさんはまだログインしていない。
 こちらと向こうでは時間の流れが違うから、お互いに時間が合うのは2日か3日に一回なのだ。

 とりあえずログインしたらフレンドコールをしてもらえるよう、フレンドメールを送っておいて、この件は保留にしておく。

 多分品質が見えるようになるスキルはいくつかある。
 最も汎用性が高いのが<鑑定>だろう。ボクたちはまだそれを持っていない。
 習得するには色々な物を見たり観察していく必要があるんじゃないかな。
 図書館にこもって図鑑系を片っ端から見ていこうか……?

「まあとりあえず今のところは何も変わらないな。いつも通りやっていくってことだ」
「おう」
「はい」
「ん」

 そんなわけで各自自由に行動する。ボクは【ライト】を浮かべながら、【ファイヤーボール】をばらまいていく。
 うーん、どうにか皮を傷つけず火で攻撃できないものか。
 何度か試行錯誤する。……ダメだ。今あるルーンだとどうにもならないな。
 合致しないルーンを並べると不発になるし、魔力をガッツリと消費する。

 座標指定して、ウサギの頭だけ小規模爆発させるとか、そういう器用なことができないと無理だ。
 【指定】のルーンはあるが、ウサギの体内は指定できなかった。近づいても無理だったので、おそらく体内は不可なのだろう。

 結局は練習していくしかないってことだ。
 もどかしいが、今後に期待だ。他の魔法も覚えてルーンを増やしていくか。
 いやー、でもなあ。
 完全に器用貧乏への道を歩きそうな予感がヒシヒシとするんだよなあ。
 うーんうーん。

 あ、ちなみに薬草の品質もきちんと見ることが出来た。
 これはおそらくだが<農耕>スキルのせいだと思う。<解体>で薬草の品質が見れるのはいくらなんでもおかしいからだ。
 <植物知識>で見れなかったのはなんでだろうか。
 あくまで補正スキルとして役割が違うとかなのか。
 考えてもしょうがないね。



 考え事をしながら黙々とウサギたちの相手をして、いいくらいになったらギルドへと納品。

 ウヅキとモミジを図書館に放り込んで教会へとお祈り。
 その後、図書館へと合流して何冊か本を読んでみて宿へと戻った。

 明日は調合師へと顔合わせが出来るだろうか。
 ギルドには顔を出すが、クエストを受けるのは畑仕事だけにしようと思う。

 それでは、おやすみなさい。
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