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「そんなわけで、この家に一人暮らしになる。」
「ゴメンね。蒼空。」
 両親の突然の告白に困惑したものの、いないのは2週間かそこらの話のようだった。
「一人暮らしだなんて大げさな表現使わないでよ。長めの留守番なだけじゃん。」
「それもそうだな。」
 両親の顔は突然に明るくなって、安堵したように笑顔になった。
 過保護にも程があるよ…。僕はそう思いながらも、
「いってらっしゃい。」
心配をかけないために、笑顔を見せた。

「羽嶋様。」
「びっくりするから突然に話しかけないでよ。」
 部屋に入ってすぐ、スマホから声が聞こえてきた。努めて冷静に返答したつもりだったが、少し自分の声はいつもよりテンションが高かった。
「戦闘。あらためてお疲れ様でした。」
 僕はなんといってよいのか返答に困る。
「明日。楽しみにしといてください。」
「何を?」
 僕の質問に、答えは返ってこない。

「そらー。」
 両親の呼び出し声に、僕は思考を止めざるおえなかった。
 突然のことではあるが、2週間家族がいないことは、好機ともとらえることが出来る。
「問題ごとがあったらすぐに連絡するのよ。」
 そう言い残して両親は出かけて行った。

 家の中が突然に静かになる。自分のいる部屋以外にこの家で電気がついている場所はない。一人暮らしと言われた感覚がなんとなく実感できた。部屋に戻っても、もう声は聞こえない。ベットに仰向けになったまま、僕は疲れて眠ってしまった。
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