1 / 42
悪役令嬢
私の妹
しおりを挟む
私には妹がいる。
一つ年下の十一歳。
金髪碧眼の私に対し、妹は黒髪碧眼。
吊り上がっていてきつい印象の目元が私なら、妹は垂れ下がっておっとりした印象を与える目つき。
瞳の色が同じなだけで、見た目も、性格も、何もかも違う。
本当に彼女が妹なのか、疑いたくなるほど私たちは似ていなかった。
それにはもちろん理由があって、私たちの血は半分しか繋がっていない。
正妻の子が私で、側室の子が妹。
公爵家とかいう、王家に連なる血筋を持ったのが私たちだった。
こんな家に生まれてしまうと、プライドというものが増長して膨れ上がり、自分よりも優れたものが許せなくなる。
特に、同じ家で、同じ父を持って生まれ育った妹に対して、私は強く対抗心を燃やしていた。
しかし、まあ、私はそれほど優秀な方ではなく、逆に妹は幼い頃から優秀さを発揮していたので、期待されるのはいつも妹ばかり。
私の母は早くに他界してしまったので、妹が母親に可愛がられているのを見るたびに、憤りにも近い嫉妬心が、メラメラと燃え上がったものだった。
けれど私には妹をぎゃふんと言わせるほどの能力はなく、最後の砦である『正妻の子』というところに縋っていた。
何かに付けて『側室の子のくせに!』だとか、『私の母と比べてあなたの母は』というような言葉で罵倒したのを覚えている。
彼女自身にさしたる欠点がなかったから、生まれという、本人にはどうしようもない要素に縋るしか、私は私を保つ方法を知らなかった。
本当は母のことなんて、私もよく覚えていないのに。
次第に父も私の疳癪に呆れたような表情を見せるようになって、家の中で唯一の味方であったはずの父も、妹の方を可愛がるようになった。
私は孤立し、使用人たちからも避けられ、いつか見返してやると、馬鹿みたいに馬鹿なりの勉強を続けていた。
才能というのは残酷なもので、私が五時間かけて理解したことを妹は一時間で理解出来る。私が一生かけても解決出来ないような問題を、数日で片付けてしまう。
私に残ったのは孤独だけで、愛も、期待も、全てを妹が独占するようになった。
妹が幸せそうに、当り前みたいに笑っているのが許せなかった。
死んじゃえば良いのにと何度思ったことか。
お茶会に向けて彼女の馬車が出発するたびに、盗賊にでも襲われて帰ってくるなと歯ぎしりをしながら睨みつけていた。
数年前、妹が本当の天才であることが発覚した。
魔法の適性が判明したのだ。
魔法というのは百人に一人使えるかどうか。
多いような、少ないような微妙な数字ではあるが、希少なことには変わりないし、何より妹はすぐに魔法を使いこなせるようになったので、魔法を使える子供の中でもとりわけ才能があるのではないかと言われていた。
貴族にとって魔法使いはステータスだ。
それだけで一目置かれるし、遺伝との相関関係は発覚していないが、次代に期待して婚約の打診などもひっきりなしに訪れる。
私は妹がちやほやされているのが許せずに、私にも魔法の才能があるんだと思い込んで、家庭教師まで呼んでいた。
今思うと黒歴史なのだが、魔法適性のない私が、使えるはずのない魔法を必死に勉強する様は周囲からは寒々しい目で見られるだけだった。
当然、何年たっても魔法なんて使えず、妹との差は離れるばかりだ。
姉でありながら、妹を何一つ上回ることの出来ない私は、周囲からは出来そこないにしか見えていなかったことだろう。
一つ年下の十一歳。
金髪碧眼の私に対し、妹は黒髪碧眼。
吊り上がっていてきつい印象の目元が私なら、妹は垂れ下がっておっとりした印象を与える目つき。
瞳の色が同じなだけで、見た目も、性格も、何もかも違う。
本当に彼女が妹なのか、疑いたくなるほど私たちは似ていなかった。
それにはもちろん理由があって、私たちの血は半分しか繋がっていない。
正妻の子が私で、側室の子が妹。
公爵家とかいう、王家に連なる血筋を持ったのが私たちだった。
こんな家に生まれてしまうと、プライドというものが増長して膨れ上がり、自分よりも優れたものが許せなくなる。
特に、同じ家で、同じ父を持って生まれ育った妹に対して、私は強く対抗心を燃やしていた。
しかし、まあ、私はそれほど優秀な方ではなく、逆に妹は幼い頃から優秀さを発揮していたので、期待されるのはいつも妹ばかり。
私の母は早くに他界してしまったので、妹が母親に可愛がられているのを見るたびに、憤りにも近い嫉妬心が、メラメラと燃え上がったものだった。
けれど私には妹をぎゃふんと言わせるほどの能力はなく、最後の砦である『正妻の子』というところに縋っていた。
何かに付けて『側室の子のくせに!』だとか、『私の母と比べてあなたの母は』というような言葉で罵倒したのを覚えている。
彼女自身にさしたる欠点がなかったから、生まれという、本人にはどうしようもない要素に縋るしか、私は私を保つ方法を知らなかった。
本当は母のことなんて、私もよく覚えていないのに。
次第に父も私の疳癪に呆れたような表情を見せるようになって、家の中で唯一の味方であったはずの父も、妹の方を可愛がるようになった。
私は孤立し、使用人たちからも避けられ、いつか見返してやると、馬鹿みたいに馬鹿なりの勉強を続けていた。
才能というのは残酷なもので、私が五時間かけて理解したことを妹は一時間で理解出来る。私が一生かけても解決出来ないような問題を、数日で片付けてしまう。
私に残ったのは孤独だけで、愛も、期待も、全てを妹が独占するようになった。
妹が幸せそうに、当り前みたいに笑っているのが許せなかった。
死んじゃえば良いのにと何度思ったことか。
お茶会に向けて彼女の馬車が出発するたびに、盗賊にでも襲われて帰ってくるなと歯ぎしりをしながら睨みつけていた。
数年前、妹が本当の天才であることが発覚した。
魔法の適性が判明したのだ。
魔法というのは百人に一人使えるかどうか。
多いような、少ないような微妙な数字ではあるが、希少なことには変わりないし、何より妹はすぐに魔法を使いこなせるようになったので、魔法を使える子供の中でもとりわけ才能があるのではないかと言われていた。
貴族にとって魔法使いはステータスだ。
それだけで一目置かれるし、遺伝との相関関係は発覚していないが、次代に期待して婚約の打診などもひっきりなしに訪れる。
私は妹がちやほやされているのが許せずに、私にも魔法の才能があるんだと思い込んで、家庭教師まで呼んでいた。
今思うと黒歴史なのだが、魔法適性のない私が、使えるはずのない魔法を必死に勉強する様は周囲からは寒々しい目で見られるだけだった。
当然、何年たっても魔法なんて使えず、妹との差は離れるばかりだ。
姉でありながら、妹を何一つ上回ることの出来ない私は、周囲からは出来そこないにしか見えていなかったことだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる