2 / 42
悪役令嬢
マリア
しおりを挟む
朝目覚めると頭痛がして、体がどっしりと重たかった。
私の体重は身長に対して軽いはずだが、数十キロの贅肉でも付いてしまったんじゃないかと思うくらい、体が重苦しい。
憂鬱な気分で溜息をついて、枕もとのベルを鳴らすとメイドのマリアが入って来た。
マリアが部屋のカーテンを開けると、そこから差し込んでくるのはけたたましいまでの雨音だ。
心の模様を映しているよう、と言ったら毎日が曇天になってしまうので、今日はたまたま雨だったに過ぎない。それでもただでさえ暗い気分を沈ませるには十分だった。
「お水をちょうだい」と言うと、マリアが頭を下げて出ていく。
マリアは私の専属侍女だ。私だけに仕えている。
本当のところはどう思っているのか知らないが、他のメイドのように冷たさは感じないので、一緒にいても唯一リラックス出来る相手だ。そんなことは口が裂けても言わないけれど。
マリアが水を持って戻ってくると、そっと口に含んで飲み下す。
気合いを入れるようにパンと軽く頬を叩くと、起き上がって着替えさせてもらう。
雨音を聞きながら、ぼんやりと窓から空を見上げていると、ぴたり、と私を着替えさせる手が止まった。
「どうかしたのかしら?」と聞くと、マリアは少し躊躇った様子を見せた後、「……お嬢様が、鼻歌を歌われるのは珍しいと思いまして」と言って手を動かす。
鼻歌? 鼻歌……?
歌っていたかしら? と思いながら、再び空を見上げると、自然とこみあげてくる曲を、下手くそな声で、歌う。
どこで聞いた曲だろう。タイトルも思い出せない。
でも、好きな曲だ。
歌うと、久しぶりに笑顔になれるような曲で、私は微笑んで、歌いながら、何の曲だったかを思い出そうとする。
着替えが終わって、振り返ると、そこにはマリアがいて、何故か顔を伏せていた。
「…………泣いているの?」
私が慌てて歌うのをやめて、問い掛けると、マリアは鼻を啜り、顔を背ける。
目元をこすって取り繕ってるけれど、明らかにその目は赤く染まっていて……。
きょとんと首を傾げた私が、マリアを見上げていると、マリアは私の視線に合わせるように少しだけ膝を曲げると、決意を秘めた目で、告げる。
「私が、おります。いつまでもマリアは、お嬢様にお仕えします」
何故か、決意表明をされて。
専属侍女なんだから、そりゃそうだろと思わないわけでもなかったけれど、ずっとマリアが一緒にいてくれるというのが、想像したら思った以上に幸せだった。
ストンとどこかにぴったりと嵌ったような感覚があって……。
そっか、マリアはいなくならないんだ。
お母様のようにいなくなることも、お父様のように見捨てることも、マリアはしないんだと思ったら、「……あれ?」
自分でもなんだか分からない感情で、私の可愛くない吊り上がった目から、ぽろぽろと、ぽろぽろと涙がこぼれてしまって、子供みたいにマリアの胸に飛び込んでいた。
「マリアのせいよ!」
私は叫ぶ。
「はい」と頷くマリアが、その返事がどうにも腹立たしくて、「マリアのせいよ!」と再び責めるような口調で叫ぶのに、マリアはただ、「はい」と頷くだけだった。
私の体重は身長に対して軽いはずだが、数十キロの贅肉でも付いてしまったんじゃないかと思うくらい、体が重苦しい。
憂鬱な気分で溜息をついて、枕もとのベルを鳴らすとメイドのマリアが入って来た。
マリアが部屋のカーテンを開けると、そこから差し込んでくるのはけたたましいまでの雨音だ。
心の模様を映しているよう、と言ったら毎日が曇天になってしまうので、今日はたまたま雨だったに過ぎない。それでもただでさえ暗い気分を沈ませるには十分だった。
「お水をちょうだい」と言うと、マリアが頭を下げて出ていく。
マリアは私の専属侍女だ。私だけに仕えている。
本当のところはどう思っているのか知らないが、他のメイドのように冷たさは感じないので、一緒にいても唯一リラックス出来る相手だ。そんなことは口が裂けても言わないけれど。
マリアが水を持って戻ってくると、そっと口に含んで飲み下す。
気合いを入れるようにパンと軽く頬を叩くと、起き上がって着替えさせてもらう。
雨音を聞きながら、ぼんやりと窓から空を見上げていると、ぴたり、と私を着替えさせる手が止まった。
「どうかしたのかしら?」と聞くと、マリアは少し躊躇った様子を見せた後、「……お嬢様が、鼻歌を歌われるのは珍しいと思いまして」と言って手を動かす。
鼻歌? 鼻歌……?
歌っていたかしら? と思いながら、再び空を見上げると、自然とこみあげてくる曲を、下手くそな声で、歌う。
どこで聞いた曲だろう。タイトルも思い出せない。
でも、好きな曲だ。
歌うと、久しぶりに笑顔になれるような曲で、私は微笑んで、歌いながら、何の曲だったかを思い出そうとする。
着替えが終わって、振り返ると、そこにはマリアがいて、何故か顔を伏せていた。
「…………泣いているの?」
私が慌てて歌うのをやめて、問い掛けると、マリアは鼻を啜り、顔を背ける。
目元をこすって取り繕ってるけれど、明らかにその目は赤く染まっていて……。
きょとんと首を傾げた私が、マリアを見上げていると、マリアは私の視線に合わせるように少しだけ膝を曲げると、決意を秘めた目で、告げる。
「私が、おります。いつまでもマリアは、お嬢様にお仕えします」
何故か、決意表明をされて。
専属侍女なんだから、そりゃそうだろと思わないわけでもなかったけれど、ずっとマリアが一緒にいてくれるというのが、想像したら思った以上に幸せだった。
ストンとどこかにぴったりと嵌ったような感覚があって……。
そっか、マリアはいなくならないんだ。
お母様のようにいなくなることも、お父様のように見捨てることも、マリアはしないんだと思ったら、「……あれ?」
自分でもなんだか分からない感情で、私の可愛くない吊り上がった目から、ぽろぽろと、ぽろぽろと涙がこぼれてしまって、子供みたいにマリアの胸に飛び込んでいた。
「マリアのせいよ!」
私は叫ぶ。
「はい」と頷くマリアが、その返事がどうにも腹立たしくて、「マリアのせいよ!」と再び責めるような口調で叫ぶのに、マリアはただ、「はい」と頷くだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる