悪役令嬢は鼻歌を歌う

さんごさん

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悪役令嬢5

趣味

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 あの日から一年の月日が経った。

 ロイド様とは手紙で交流を深め、何度か共に出かけた。

 楽しい時間を過ごせたし、関係は悪くないと思う。
 けれど、進展は何もなかった。

 私はロイド様を好意的に思っているけれど、それが恋なのかは分からないまま。

 ロイド様もどこか他人行儀なままで、婚約して一年も経った関係としては、淡泊なのかもしれない。

 一年が経って、私は十四歳になった。もうすぐ十五歳になる。
 来年の春からは学園に通うことになる。

 通うのはルインクルード王立学園で、国内唯一の王立学園でありながら、王都唯一の学園でもある。

 少し前から学園に通うための準備を始めていたのだが、思ったよりもあっさりと準備が整ってしまった。

 入学のために必要な勉強は全て終わっていたし、必要な備品も揃えた。
 あとは学園で使うドレスと制服が必要だが、まだ身体が育ち切っていないので、それは直前に発注した方が良いだろう。

「時間が余ってしまったわね」

 学ばなければならないことがほとんどなくなったので、教師に指導される時間が大幅に減った。

 たまに呼ばれて出席しなければならないお茶会などはあるが、それ以外の時間は余っている。

 まだ学園に通うには半年ほどあるのに、少し準備を急ぎ過ぎたかもしれない。

「それでは、何か始められたらいかがですか?」

 マリアが私の髪を整えながら言った。

 マリアは侍女として一流だと思う。
 私の専属に付けられているのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれど、一人で負担が大きいのに、私が何の支障もなく生活出来るのは、彼女が何でも卒なくこなしてしまうからだ。

 それに報いることが出来ているのか自信はないから、感謝だけは欠かさずにするようにしている。

「何かって……?」

「お嬢様は、趣味らしい趣味がありませんから、新しい趣味を作ってみては?」

「趣味、ね……」

 私は考える。
 言われてみて、私の趣味が何なのか、自分でも分からない。

 刺繍は好きだ。本を読むのも好き。
 紅茶を飲むのも、甘いものを食べるのも。

 好きなものは結構たくさんあると思う。

 けれど、趣味と呼べるほど熱中している物があるかというと、微妙だ。

 確かに、これだけ時間が空いているのだから、趣味の一つくらい見つけてみても良いのかもしれない。

「そうね、何をやろうかしら?」

 今まで、挑戦したことはいくつかある。
 勉強も頑張ったし、使えもしない魔法を習ったりもした。

 けれどそれは全てナリアに対抗するためで、自分でやりたくて何かをやったことがあっただろうか。

 自分から何かをやるというのは新鮮で、考えるだけでもワクワクする。

「お嬢様は何をしたいですか?」

 マリアに言われて考える。
 私がしたいこと。

 それを考えるだけでも楽しくて、自然と鼻歌が浮かんでくる。
 あれ以来、私は気が付くと鼻歌を歌っていることがよくあった。

 自分でも意識していないのに、気づくと勝手に漏れてくるのだ。

 ふふ、とマリアの小さな笑い声に首を傾げると、「また歌ってますよ」と指摘されて気づく。
 そんなことを何度も繰り返した。

 マリアは、私の歌声が好きだと言ってくれる。

 だから私も、歌うのが好きになった。

「歌を、歌いたい」

 好きだから、やりたいと思った。

「ちゃんと歌を習って、もっと上手に歌ってみたい」

 たぶんこれが、人生で初めて、自分から何かをやりたいと思った瞬間だ。

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