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俺とお前の快楽日記1-7-1
立花さんの運転する車は、駅前のロータリーを抜け山道へと分け入っていった。舗装もされているし、ちゃんと二車線あるので車もスムーズに走っていく。最初は住宅街だったが、それが短時間で人気の無い道路へと変わる。鬱蒼と茂る木々が陽光を遮り、車内は昼間だというのに薄暗い。窓の外を流れる景色は、緑一色に染まっていく。時折、木々の切れ間から見える空の青さが目に眩しい。
「結構、山の奥まで行くんですね」
後部座席で、エリアスが興味深そうに日本の田舎を眺めている。彼の隣に座る姉さんも、反応は同様。
「コンドーム工場へ続く道には見えないわよね」
まるで神様の通う湯屋への道だと言われれば信じてしまいそうだ。都会の喧騒は完全に消え去り、聞こえるのはエンジン音と、時折響く鳥のさえずりだけ。世界から切り離されたような静寂が、心地よくもあった。
「ナビによれば、あと十五分ほどで到着予定です。詩穂様、車内に備え付けのミネラルウォーターなどいかがでしょうか。長旅でお疲れでしょう」
「晶くん優しいのね。ありがとう」
運転中はふざけた言動を封印するのか、立花さんはその涼やかな横顔を正面に向け、常識的な速度で丁寧な運転を続けている。存在しない記憶が会話に上ることもない。こういう所は、ちゃんと執事なんだよなと内心で舌を巻く。
俺はというと、助手席でコナタと共に資料の最終確認に追われていた。移動時間こそ、情報を脳に叩き込む絶好の機会だ。動画内でのトークには瞬発力だけでなく、知識という名の基礎体力も求められる。使えそうな情報をコナタがピックアップし、俺はそれを暗記しながら、想定問答集を頭の中で組み立てていく。
「しかし、何故こんな山奥に工場を?」
エリアスの素朴な疑問に、コナタがスマホの画面から答えた。
「水が綺麗で豊富だからじゃないかな。どんな工場でも、製品の洗浄や冷却に大量の水が必要になる。この辺りは、丹沢水系の良質な天然水が豊富だから、工場を建てるには最適な場所だったんだろうね」
「なるほど。ボクの故郷も、水が美味しいことで有名でした。良質な製品作りには、良質な水源が不可欠ということですね」
「そういうこと。日本という国は、そうした点でも恵まれているだろうね。工業立国として成長したのには、国土の性質も大いに寄与しているんだろう」
コナタの豆知識に、エリアスが感心したように頷く。そんな雑談をしているうちに、木々の切れ間から、古びた建物が見えてきた。
「なあ、コナタ。あれが」
「目的地だね。相州ゴム製造所。1943年創業の老舗企業。近年の薄型化や多様化の波に乗り切れず、業界内でのシェアを落としている。影が薄い存在だ」
「製品自体は悪くないのよね。ただ、中年以上が使うメーカーというイメージがついちゃってるのよ。パッケージも渋めなデザインだし」
コナタによる解説と姉さんによる補足。
何度聞いても、有効な宣伝文句が思いつかない。俺、この案件どうやって成功させよう……。
目的の工場は、想像以上に年季が入っていた。コンクリートの壁は所々黒ずみ、全体の色合いがセピアというか、時代の流れを感じさせる。しかし、窓ガラスは一枚一枚丁寧に磨き上げられ、敷地内には雑草一本見当たらない。
「うわ、思ったよりレトロな感じね」
「ですが、手入れは行き届いているようですね。少なくとも衛生的な環境ではあるかと」
姉さんの感想に、立花さんがフォローを入れる。後部座席よりも、前に乗っている俺と立花さんの方が視界が開けている。その上で、細部を見れば、決して悪い状態ではないと判断出来る外観だった。
車が工場の駐車場に停まると、入り口の辺りから作業着姿の初老の男性が歩いてきた。
「お待ちしておりました。私が社長の茂竹です。遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」
「お世話になっております。株式会社アウトキャスト、プロダクション事業部の桜辻です。こちらは、弊社所属タレントの結弥。それと、撮影スタッフが二名。立花とローセンです」
真っ先に挨拶をしたのは姉さんだった。まず、茂竹さんと姉さんが名刺交換。次に俺と茂竹さん。で、エリアスには俺が名刺を渡しているから問題ないけど、立花さんは……、
「フリーランスの執事で立花と申します」
「……執事、ですか?」
臆面もなく自前の名刺を差し出している。
フリーランスなの? 視線でエリアスに問えば、彼は静かに首を横に振った。だよね、エリアスの家に正社員で勤めているとか言ってたもん。
説明面倒だし適当に言ったんだろうな。なら執事という設定も誤魔化せばいいのに、見た目が完璧に執事なのだから、もはやそこは変えようがない。
「私の後輩芸人でして。今は見習いがてら、こうして撮影の手伝いをして貰っています」
「ああ、成る程。私のような年寄りは、インターネットで活躍されている芸能人には疎くて。近頃の芸人さんは、皆さんお顔がよろしいのですなあ」
「何を仰いますか、茂竹社長も渋くて素敵なお顔をしていらっしゃる。真面目に仕事をされてきた誇りが刻まれているようです。若い頃は、さぞモテたのでは?」
「あっはっは、流石は売れっ子芸能人さん。結弥さんは、人を褒めるのがお上手だ」
俺は、とっさの話術で謎の執事の存在を煙に巻いた。
「私が、後輩芸人?」
俺の斜め後方、立花さんが小さな声で呟いていた。あー、これは始まったな、存在しない記憶の生成が。この人は、隙さえあれば現実を自分の都合の良いように書き換えて遊ぶのだ。付き合いは短いが、その強烈なキャラクターのせいで、嫌でも人間性を理解させられている。なんだか、もう旧知の仲のような気分だ。
「……焼き肉に連れて行ってもらったとき、確か私は上京したばかりで」
立花さんは、妙に細かいところまで妄想し始めていた。
「この度は、お仕事のご依頼ありがとうございます。誠心誠意、御社の宣伝をさせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします。では、事前の打ち合わせ通り、一度工場を見学させていただいた後、撮影に入らせていただきます。その際は、社長さんもご出演いただけるとのことですので、色々とお話を伺いたいと思っております」
「私ごとき老爺が役立てるなら、いくらでもお使いください。見ての通り、弊社も経営は厳しいものでして。新規顧客の開拓のために、結弥さんの知名度に縋る思いでおります。では、早速工場へご案内いたしましょう」
と、言うことで、工場内に連れて行かれた俺達だが、白衣、マスク、ヘアキャップの三点セットを着て、しっかりと衛生面に配慮。チンコにつける製品を作っているところだから、当然と言えば当然の装備。しかし、エリアスにはどうにも似合わない。フォーマルなスーツに不織布のヘアキャップという組み合わせは、ちぐはぐでどこか滑稽だ。美少年にも着こなせない衣装があるのだと、新たな一面を発見した気分。立花さんも似合っていないけど、そっちはキャラ的に許容されている感。姉さんは、こう化粧品工場のパートとかで居そう。で、俺は……。
「ぶっはっ、結弥の売りが全滅じゃないか。顔が見えないと、こうも商品価値が毀損されるものとはね」
コナタに爆笑されていた。
「でも、動画的には美味しい格好よね」
「詩穂様の言うように、コメントチャンスに思えます。サムネに使うのも一興かと。結弥が小学校で給食当番をしていたときも、こんな感じだったっけ」
「立花さん、幼なじみ属性まで手に入れようとしてる?」
「結弥さんは、どんなお姿でも素敵です」
「精一杯のフォローありがとなエリアス。俺もお前も似合ってないけど」
一歩足を踏み入れると、ゴムの独特な匂いと機械油の匂いが混じり合った不思議な香りが鼻をつく。工場内は、外観と同じく歴史を感じさせる空間だった。床はコンクリートの打ちっぱなし。天井は高く剥き出しの鉄骨が縦横に走っている。
何より目を引くのが、所狭しと並べられた巨大な機械の数々だ。どれもこれも、一目で旧式とわかるような武骨でアナログな機械ばかり。しかし、そのどれもがピカピカに磨き上げられ、今も現役で稼働している。
「それでは、コンドームが出来るまでの工程を順にご案内します。まず、あちらが原料となるラテックスを混ぜ合わせるタンクです」
「ラテックスですか」
「はい。こちらのドラム缶に入っているのがそれです」
社長さんが指差した先には、青いドラム缶が無数に積まれている。
「ラテックスとは、ゴムの木から採取された樹液のことですね。弊社では主に東南アジアから輸入したものを使用しております。これは、乳白色のものでして、加工することで優れた弾力性を持たせることが出来ます」
これが、コンドームの原料らしく、巨大な銀色のタンクの中で、ゆっくりと攪拌されているとか。
「天然ゴムのラテックスに、様々な薬品を加えて、均一になるように混ぜ合わせます。この配合が、コンドームの強度やしなやかさを決める最初の重要な工程です」
「ただ混ぜ合わせるだけなのでしょうか?」
「いえ、熱を加えて化学反応を促します。さらに攪拌した原料は、しばらく置いて熟成させます。この工程に各企業のノウハウが詰まっており、加える薬品の配合などで製品の性質が決まるわけです」
普通にコンドーム工場の見学楽しいな。エリアスも好奇心旺盛に質問を重ね、姉さんや立花さん達も社長さんの説明に頷いては興味深そうに設備を見ている。
「コナタ、撮影するときどこから見せた方が良いと思う?」
「入り口から入って真正面。薄緑に塗装された機械があるだろう。多分粉砕機だと思うけど、あれが並んでいるところ。それを引きで見せて、そこから加硫缶、銀色の設備へとパン。結弥は、設備の大きさに圧倒されるリアクションをしながら社長さんに解説を求める感じで行こうか」
俺とコナタは、各設備についてメモを取りながら撮影の計画を立てていく。こうして、何をどんな手順で撮影するかを決めるのが俺達のスタイル。
「撮影不可な場所はありますか?」
「そうですね。原料が積まれている一角は、ぼかしていただけると助かります」
「承知しました。動画につきましては、必要な箇所にモザイクを入れ、公開前にご確認いただく形で進めさせていただきます」
あと、工場という特性上企業秘密を守る必要がある。こうした所も確認しつつ準備するのが大切だ。
「確認の際は、うちのローセンを通してご連絡をいたしますので、よろしくお願いします」
で、クライアントとのやり取りはエリアスに任せることにする。
「真面目で優秀なスタッフですので、何なりとお申し付けください」
俺が、エリアスを引き寄せて社長さんに挨拶すれば、多少の緊張を見せながらもエリアスがスマートに話を引き継ぐ。
「スタッフさんの顔についても、ぼかしを入れましょうか?」
「そうですね。製品の性質上、私以外の社員につきましては配慮していただければと思います」
俺が聞きそびれた確認事項についても、エリアスが尋ねてくれて助かった。こうして、その場で必要な内容を詰めておけば、撮影や編集の際もスムーズに事が運ぶ。
大したものだ。経験を積ませるつもりで任せた役割を、即座に理解し自分のものにしている。元々、慈善事業で人をまとめていたというだけのことはある。いずれは、外部との折衝も安心して任せられるかもしれない。
今日はメンバーが優秀なので、仕事が円滑に進んで気分が良い。
次に案内されたのは、ガラス製の型が取り付けられた機械のある一角。コンドーム、つまりペニスに装着されるアレの形をしたブツが、整然と機械に並び、順番に白い液体に浸されていく。その光景は、なかなかにシュールだ。
「ここが、コンドームの成形をしている場所です。この施設につきましては、全体像の撮影はご遠慮ください。型が液体に浸されるところだけを、少し撮影する程度でお願いします」
「わかりました。それでは、撮影時は社長さんにご確認いただきながら映しても問題ない箇所だけを撮らせていただきますね。ここでは、どのような工程が行われるのでしょうか」
「はい、実際にコンドームを作る工程なのですが、機械の上からぶら下がるように生えた型が、下のプールに沈められていきます。プール内にあるのが、先ほどの工程で準備された原料のラテックスです。液体に浸された型に、薄く原料が付着することでコンドームが出来るわけです」
コンドームの型、ガラス管は当然だけどペニスが入るぐらいの大きさだ。円筒状で、亀頭の部分にくびれがある。先端の精液溜まりの部分がちょんと飛び出ているのが可愛いような。
「この機械に取り付ける型を交換することで、多様な形状を実現出来ます」
社長さんが見せてくれたのは、現在作られている製品以外の型だ。
「くびれが深いもの、お団子のように丸い凹凸が連なった形のもの……うわ、こんなに大きいものもあるんですね」
「なんか流石に照れくさいな」
「そうですか? エリアス様も結弥もウブですね。あ、この小さい型は子供の頃の結弥みたいで可愛いじゃん」
「立花さん見たことないだろ!?」
「まったくだよ。この人類、妄想で語るのやめてくれる? コナタは見たことあるけどね」
「そんなことで競うな!!」
「あ、お姉ちゃんも見たことある。そうねえ、確かにこれぐらいだったかしら?」
「やめて、姉さんまで乗らないで!」
「……ボクは見たことありません」
「じゃあ、エリアス様だけが見たことないんですね。可哀想に」
「哀れむようなことじゃないだろ! てか、立花さん見たことないよね??」
うっそだろ、この展開で俺のチンコサイズ過去編が始まることある?
実際、コナタと姉さんは見たことあるのが痛い。もはや、俺に味方はいないのか?
「弊社の製品は、どんなサイズでも取りそろえているので、ご安心なさってください」
「何が!?」
こんな話をしている横で、無数のガラス棒がラテックスの海に沈み、そして引き上げられていく。表面には、均一なゴムの膜が形成されている。こんな風に、コンドームって作られるんだな。
自分のチンコサイズ議論が交わされてなければ、もっと楽しめたと思うわ。絶対に許さない。
コンドームの成形過程が終わると、これで完成かと思えばどうやら違うらしい。
「これが、うちの工場が最も誇るピンホール検査機です」
成形後の工程がまだある。
社長さんが自信に満ちた表情で案内した一角、そこには金属製の筒が生えた機械があった。見た目は、なんか金属製ディルドが竹の子みたいに生えているようで異質。
「さて、皆さんコンドームで一番重要な機能は何だと思いますか?」
「避妊でしょうか」
社長さんのクイズに素早く答えたのは姉さん。まあ、そうだよな。快感を伝えるとか、デコボコしてるとかは付加価値でしかない。避妊とか、感染症の防止の方が重要だ。
「その通りです。なので、成形を終えたコンドームは全てこの機械でチェックされます」
「全部ですか!?」
「ええ。全数検査です。万が一があってはいけません」
この工程には、人手が居るようで沢山の人が働いていた。山のようなコンドームを前にしたパートさん達が、手作業で一つずつ金属製の筒にコンドームを被せていく。リアルにコンドームを装着するには、少なくとも数秒は必要だというのに、そこにいる熟練のパートさん達は、両手にコンドームを持ち、一秒に一つ、あるいはもっと高速に、機械にゴムを被せていく。その妙技は、もはや達人の域に達していた。
ベルトコンベアと言うのだろうか、金属の筒がレーンに沿って流れていく。コンドームを装着した金属の筒が向かったのは、お湯が入った水槽。
「コンドームを装着した筒を、お湯に浸し微弱な電流を流します。もし、コンドームに穴が開いていれば、そこから電流が漏れ機械が検知するという仕組みです」
「あ、ゴムだから電気を通さないわけですね」
「その通りです。この工程の際に外観などのチェックも行い、不良品を弾きます」
こうして、検査に合格したコンドームだけが、次の工程に進むことを許される。最後に巻き上げられ、潤滑剤が塗布され、包装に一個ずつ密封されて、ようやく製品として完成する。製品を箱に詰めるところとかも見学させてもらったけど、人手の作業が結構多い。
「一日にどれぐらいのコンドームを作るのでしょうか」
「大体六万個以上でしょうか。製品によっても製造出来る個数は異なっており、薄い製品や複雑な形状の製品は時間がかかります」
原料の混合から包装まで、実に多くの工程と人々の手間がかかっている。その一つ一つが、製品の安全性と品質を支えているのだ。
「こんなにも手間暇をかけて、一つ一つ作られていたんですね」
一連の工程を見終えたエリアスが感嘆の息を漏らす。その瞳は、尊敬の念に満ちていた。
「ええ。お客様に安心して使っていただくために、手は抜けませんから」
社長さんは誇らしげだ。その言葉には、製品への絶対的な自信と、お客様への誠実な想いが込められている。これを、如何に視聴者に伝えて売上げに繋げるのか。そこは、俺の腕の見せ所だろう。
ただ、製品の性能を語るだけでは足りない。会社の歴史、ここで働く人々の想い、そうしたものを動画にしないと、本当の魅力は伝わらないだろう。さて、どのように依頼を遂行していくか。
真剣に悩み始めたとき、姉さんの携帯が鳴った。
「ちょっと失礼します。……はい、桜辻ですが。え、梓くんが。ええ、わかりました。私が戻って対応します」
微かに聞こえる会話はトラブルの気配。チラッと出てきた名前、聞き覚えがあるな……。
俺と同じく、姉さんの事務所に所属するタレントの名前だ。
「あの変態人類、また何かやらかしたのかい?」
「別に毎度事件を起こしてるわけじゃないだろ。思い込みは良くないぞコナタ」
面識がある俺とコナタは、ある程度予想が出来ているのだが、エリアスと立花さんは不思議そうだ。
「おっと、私の方も電話が。ちょっと失礼しますね。……もしもし、爺ちゃんだけどどうした。なに、到着が遅れそう?」
なんの偶然か、ほぼ同時に社長さんの方も電話の応対をしているが、こっちは姉さんと違ってほのぼの感がある。端々に聞き取れる単語的に、多分お孫さんが相手だ。『ご馳走作って待ってるからな』とか、デレデレの顔で話をしているし。
「結弥ごめん。お姉ちゃん一足先に事務所に戻らないといけなくなっちゃった」
「ん、大丈夫。残りは、俺達でやっておくから」
姉さんの方は、嫌な予想が当たったのか、どうやらトラブル対応っぽい。それを察したエリアスが口を開く。
「立花さん、お義姉さんをお送りしてください」
「気持ちは有り難いけど私は大丈夫よエリアスくん。タクシーを呼ぶから」
「しかしお急ぎのご様子。ボク達は、時間的な余裕がありますから徒歩と電車でも問題ありません」
「エリアスの言葉に甘えれば? 別に姉さん達が居なくても仕事は俺とコナタとエリアスで進めておくし」
「うぅ~、じゃあ社長さんにご挨拶したら先に帰らせてもらうけど、困ったことがあったら遠慮無く電話してね。埋め合わせは今度するから」
「承知いたしました。では、詩穂様は私にお任せください」
俺達の間で話がまとまったタイミングで、社長さんも戻ってくる。
「申し訳ありません、茂竹社長。急用ができてしまいまして、一足先に失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
姉さんが深く頭を下げると、社長は柔和な笑みで頷いた。
「おやおや、それは大変だ。うちのことはお気になさらず。若い人は、色々と忙しいでしょう。道中、お気をつけて」
「ありがとうございます。結弥と、撮影のスタッフは残りますので、引き続きよろしくお願いいたします」
所属タレントが事件に巻き込まれたらしいと簡潔に事情を説明する姉さんの顔には焦りの色が浮かんでいる。社長は、様子を察してか、それ以上詳しいことは聞かずに優しく送り出してくれた。
立花さんと一緒に、先に帰路につく姉さんを見送った俺は、営業スマイルを浮かべて社長に向き直る。
「それでは、これから撮影に入らせていただきますね。まずは、会社の外観から。その後、工場内について社長さんと私が紹介する形で。撮影は、ここに居るエリアスが担当します」
ま、そこまで高度な技術を必要とするものでもない。コナタのサポートがあればエリアスでも問題なく撮影することは出来るだろう。ただ、ちょっと負担が増えるのも事実なのでエリアスに囁く。
「これ、貸しにしていいから」
「本当ですか!?」
その一言で、エリアスの顔がぱあっと輝いた。こういうところは、単純で可愛いなと思う。
「結構、山の奥まで行くんですね」
後部座席で、エリアスが興味深そうに日本の田舎を眺めている。彼の隣に座る姉さんも、反応は同様。
「コンドーム工場へ続く道には見えないわよね」
まるで神様の通う湯屋への道だと言われれば信じてしまいそうだ。都会の喧騒は完全に消え去り、聞こえるのはエンジン音と、時折響く鳥のさえずりだけ。世界から切り離されたような静寂が、心地よくもあった。
「ナビによれば、あと十五分ほどで到着予定です。詩穂様、車内に備え付けのミネラルウォーターなどいかがでしょうか。長旅でお疲れでしょう」
「晶くん優しいのね。ありがとう」
運転中はふざけた言動を封印するのか、立花さんはその涼やかな横顔を正面に向け、常識的な速度で丁寧な運転を続けている。存在しない記憶が会話に上ることもない。こういう所は、ちゃんと執事なんだよなと内心で舌を巻く。
俺はというと、助手席でコナタと共に資料の最終確認に追われていた。移動時間こそ、情報を脳に叩き込む絶好の機会だ。動画内でのトークには瞬発力だけでなく、知識という名の基礎体力も求められる。使えそうな情報をコナタがピックアップし、俺はそれを暗記しながら、想定問答集を頭の中で組み立てていく。
「しかし、何故こんな山奥に工場を?」
エリアスの素朴な疑問に、コナタがスマホの画面から答えた。
「水が綺麗で豊富だからじゃないかな。どんな工場でも、製品の洗浄や冷却に大量の水が必要になる。この辺りは、丹沢水系の良質な天然水が豊富だから、工場を建てるには最適な場所だったんだろうね」
「なるほど。ボクの故郷も、水が美味しいことで有名でした。良質な製品作りには、良質な水源が不可欠ということですね」
「そういうこと。日本という国は、そうした点でも恵まれているだろうね。工業立国として成長したのには、国土の性質も大いに寄与しているんだろう」
コナタの豆知識に、エリアスが感心したように頷く。そんな雑談をしているうちに、木々の切れ間から、古びた建物が見えてきた。
「なあ、コナタ。あれが」
「目的地だね。相州ゴム製造所。1943年創業の老舗企業。近年の薄型化や多様化の波に乗り切れず、業界内でのシェアを落としている。影が薄い存在だ」
「製品自体は悪くないのよね。ただ、中年以上が使うメーカーというイメージがついちゃってるのよ。パッケージも渋めなデザインだし」
コナタによる解説と姉さんによる補足。
何度聞いても、有効な宣伝文句が思いつかない。俺、この案件どうやって成功させよう……。
目的の工場は、想像以上に年季が入っていた。コンクリートの壁は所々黒ずみ、全体の色合いがセピアというか、時代の流れを感じさせる。しかし、窓ガラスは一枚一枚丁寧に磨き上げられ、敷地内には雑草一本見当たらない。
「うわ、思ったよりレトロな感じね」
「ですが、手入れは行き届いているようですね。少なくとも衛生的な環境ではあるかと」
姉さんの感想に、立花さんがフォローを入れる。後部座席よりも、前に乗っている俺と立花さんの方が視界が開けている。その上で、細部を見れば、決して悪い状態ではないと判断出来る外観だった。
車が工場の駐車場に停まると、入り口の辺りから作業着姿の初老の男性が歩いてきた。
「お待ちしておりました。私が社長の茂竹です。遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」
「お世話になっております。株式会社アウトキャスト、プロダクション事業部の桜辻です。こちらは、弊社所属タレントの結弥。それと、撮影スタッフが二名。立花とローセンです」
真っ先に挨拶をしたのは姉さんだった。まず、茂竹さんと姉さんが名刺交換。次に俺と茂竹さん。で、エリアスには俺が名刺を渡しているから問題ないけど、立花さんは……、
「フリーランスの執事で立花と申します」
「……執事、ですか?」
臆面もなく自前の名刺を差し出している。
フリーランスなの? 視線でエリアスに問えば、彼は静かに首を横に振った。だよね、エリアスの家に正社員で勤めているとか言ってたもん。
説明面倒だし適当に言ったんだろうな。なら執事という設定も誤魔化せばいいのに、見た目が完璧に執事なのだから、もはやそこは変えようがない。
「私の後輩芸人でして。今は見習いがてら、こうして撮影の手伝いをして貰っています」
「ああ、成る程。私のような年寄りは、インターネットで活躍されている芸能人には疎くて。近頃の芸人さんは、皆さんお顔がよろしいのですなあ」
「何を仰いますか、茂竹社長も渋くて素敵なお顔をしていらっしゃる。真面目に仕事をされてきた誇りが刻まれているようです。若い頃は、さぞモテたのでは?」
「あっはっは、流石は売れっ子芸能人さん。結弥さんは、人を褒めるのがお上手だ」
俺は、とっさの話術で謎の執事の存在を煙に巻いた。
「私が、後輩芸人?」
俺の斜め後方、立花さんが小さな声で呟いていた。あー、これは始まったな、存在しない記憶の生成が。この人は、隙さえあれば現実を自分の都合の良いように書き換えて遊ぶのだ。付き合いは短いが、その強烈なキャラクターのせいで、嫌でも人間性を理解させられている。なんだか、もう旧知の仲のような気分だ。
「……焼き肉に連れて行ってもらったとき、確か私は上京したばかりで」
立花さんは、妙に細かいところまで妄想し始めていた。
「この度は、お仕事のご依頼ありがとうございます。誠心誠意、御社の宣伝をさせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします。では、事前の打ち合わせ通り、一度工場を見学させていただいた後、撮影に入らせていただきます。その際は、社長さんもご出演いただけるとのことですので、色々とお話を伺いたいと思っております」
「私ごとき老爺が役立てるなら、いくらでもお使いください。見ての通り、弊社も経営は厳しいものでして。新規顧客の開拓のために、結弥さんの知名度に縋る思いでおります。では、早速工場へご案内いたしましょう」
と、言うことで、工場内に連れて行かれた俺達だが、白衣、マスク、ヘアキャップの三点セットを着て、しっかりと衛生面に配慮。チンコにつける製品を作っているところだから、当然と言えば当然の装備。しかし、エリアスにはどうにも似合わない。フォーマルなスーツに不織布のヘアキャップという組み合わせは、ちぐはぐでどこか滑稽だ。美少年にも着こなせない衣装があるのだと、新たな一面を発見した気分。立花さんも似合っていないけど、そっちはキャラ的に許容されている感。姉さんは、こう化粧品工場のパートとかで居そう。で、俺は……。
「ぶっはっ、結弥の売りが全滅じゃないか。顔が見えないと、こうも商品価値が毀損されるものとはね」
コナタに爆笑されていた。
「でも、動画的には美味しい格好よね」
「詩穂様の言うように、コメントチャンスに思えます。サムネに使うのも一興かと。結弥が小学校で給食当番をしていたときも、こんな感じだったっけ」
「立花さん、幼なじみ属性まで手に入れようとしてる?」
「結弥さんは、どんなお姿でも素敵です」
「精一杯のフォローありがとなエリアス。俺もお前も似合ってないけど」
一歩足を踏み入れると、ゴムの独特な匂いと機械油の匂いが混じり合った不思議な香りが鼻をつく。工場内は、外観と同じく歴史を感じさせる空間だった。床はコンクリートの打ちっぱなし。天井は高く剥き出しの鉄骨が縦横に走っている。
何より目を引くのが、所狭しと並べられた巨大な機械の数々だ。どれもこれも、一目で旧式とわかるような武骨でアナログな機械ばかり。しかし、そのどれもがピカピカに磨き上げられ、今も現役で稼働している。
「それでは、コンドームが出来るまでの工程を順にご案内します。まず、あちらが原料となるラテックスを混ぜ合わせるタンクです」
「ラテックスですか」
「はい。こちらのドラム缶に入っているのがそれです」
社長さんが指差した先には、青いドラム缶が無数に積まれている。
「ラテックスとは、ゴムの木から採取された樹液のことですね。弊社では主に東南アジアから輸入したものを使用しております。これは、乳白色のものでして、加工することで優れた弾力性を持たせることが出来ます」
これが、コンドームの原料らしく、巨大な銀色のタンクの中で、ゆっくりと攪拌されているとか。
「天然ゴムのラテックスに、様々な薬品を加えて、均一になるように混ぜ合わせます。この配合が、コンドームの強度やしなやかさを決める最初の重要な工程です」
「ただ混ぜ合わせるだけなのでしょうか?」
「いえ、熱を加えて化学反応を促します。さらに攪拌した原料は、しばらく置いて熟成させます。この工程に各企業のノウハウが詰まっており、加える薬品の配合などで製品の性質が決まるわけです」
普通にコンドーム工場の見学楽しいな。エリアスも好奇心旺盛に質問を重ね、姉さんや立花さん達も社長さんの説明に頷いては興味深そうに設備を見ている。
「コナタ、撮影するときどこから見せた方が良いと思う?」
「入り口から入って真正面。薄緑に塗装された機械があるだろう。多分粉砕機だと思うけど、あれが並んでいるところ。それを引きで見せて、そこから加硫缶、銀色の設備へとパン。結弥は、設備の大きさに圧倒されるリアクションをしながら社長さんに解説を求める感じで行こうか」
俺とコナタは、各設備についてメモを取りながら撮影の計画を立てていく。こうして、何をどんな手順で撮影するかを決めるのが俺達のスタイル。
「撮影不可な場所はありますか?」
「そうですね。原料が積まれている一角は、ぼかしていただけると助かります」
「承知しました。動画につきましては、必要な箇所にモザイクを入れ、公開前にご確認いただく形で進めさせていただきます」
あと、工場という特性上企業秘密を守る必要がある。こうした所も確認しつつ準備するのが大切だ。
「確認の際は、うちのローセンを通してご連絡をいたしますので、よろしくお願いします」
で、クライアントとのやり取りはエリアスに任せることにする。
「真面目で優秀なスタッフですので、何なりとお申し付けください」
俺が、エリアスを引き寄せて社長さんに挨拶すれば、多少の緊張を見せながらもエリアスがスマートに話を引き継ぐ。
「スタッフさんの顔についても、ぼかしを入れましょうか?」
「そうですね。製品の性質上、私以外の社員につきましては配慮していただければと思います」
俺が聞きそびれた確認事項についても、エリアスが尋ねてくれて助かった。こうして、その場で必要な内容を詰めておけば、撮影や編集の際もスムーズに事が運ぶ。
大したものだ。経験を積ませるつもりで任せた役割を、即座に理解し自分のものにしている。元々、慈善事業で人をまとめていたというだけのことはある。いずれは、外部との折衝も安心して任せられるかもしれない。
今日はメンバーが優秀なので、仕事が円滑に進んで気分が良い。
次に案内されたのは、ガラス製の型が取り付けられた機械のある一角。コンドーム、つまりペニスに装着されるアレの形をしたブツが、整然と機械に並び、順番に白い液体に浸されていく。その光景は、なかなかにシュールだ。
「ここが、コンドームの成形をしている場所です。この施設につきましては、全体像の撮影はご遠慮ください。型が液体に浸されるところだけを、少し撮影する程度でお願いします」
「わかりました。それでは、撮影時は社長さんにご確認いただきながら映しても問題ない箇所だけを撮らせていただきますね。ここでは、どのような工程が行われるのでしょうか」
「はい、実際にコンドームを作る工程なのですが、機械の上からぶら下がるように生えた型が、下のプールに沈められていきます。プール内にあるのが、先ほどの工程で準備された原料のラテックスです。液体に浸された型に、薄く原料が付着することでコンドームが出来るわけです」
コンドームの型、ガラス管は当然だけどペニスが入るぐらいの大きさだ。円筒状で、亀頭の部分にくびれがある。先端の精液溜まりの部分がちょんと飛び出ているのが可愛いような。
「この機械に取り付ける型を交換することで、多様な形状を実現出来ます」
社長さんが見せてくれたのは、現在作られている製品以外の型だ。
「くびれが深いもの、お団子のように丸い凹凸が連なった形のもの……うわ、こんなに大きいものもあるんですね」
「なんか流石に照れくさいな」
「そうですか? エリアス様も結弥もウブですね。あ、この小さい型は子供の頃の結弥みたいで可愛いじゃん」
「立花さん見たことないだろ!?」
「まったくだよ。この人類、妄想で語るのやめてくれる? コナタは見たことあるけどね」
「そんなことで競うな!!」
「あ、お姉ちゃんも見たことある。そうねえ、確かにこれぐらいだったかしら?」
「やめて、姉さんまで乗らないで!」
「……ボクは見たことありません」
「じゃあ、エリアス様だけが見たことないんですね。可哀想に」
「哀れむようなことじゃないだろ! てか、立花さん見たことないよね??」
うっそだろ、この展開で俺のチンコサイズ過去編が始まることある?
実際、コナタと姉さんは見たことあるのが痛い。もはや、俺に味方はいないのか?
「弊社の製品は、どんなサイズでも取りそろえているので、ご安心なさってください」
「何が!?」
こんな話をしている横で、無数のガラス棒がラテックスの海に沈み、そして引き上げられていく。表面には、均一なゴムの膜が形成されている。こんな風に、コンドームって作られるんだな。
自分のチンコサイズ議論が交わされてなければ、もっと楽しめたと思うわ。絶対に許さない。
コンドームの成形過程が終わると、これで完成かと思えばどうやら違うらしい。
「これが、うちの工場が最も誇るピンホール検査機です」
成形後の工程がまだある。
社長さんが自信に満ちた表情で案内した一角、そこには金属製の筒が生えた機械があった。見た目は、なんか金属製ディルドが竹の子みたいに生えているようで異質。
「さて、皆さんコンドームで一番重要な機能は何だと思いますか?」
「避妊でしょうか」
社長さんのクイズに素早く答えたのは姉さん。まあ、そうだよな。快感を伝えるとか、デコボコしてるとかは付加価値でしかない。避妊とか、感染症の防止の方が重要だ。
「その通りです。なので、成形を終えたコンドームは全てこの機械でチェックされます」
「全部ですか!?」
「ええ。全数検査です。万が一があってはいけません」
この工程には、人手が居るようで沢山の人が働いていた。山のようなコンドームを前にしたパートさん達が、手作業で一つずつ金属製の筒にコンドームを被せていく。リアルにコンドームを装着するには、少なくとも数秒は必要だというのに、そこにいる熟練のパートさん達は、両手にコンドームを持ち、一秒に一つ、あるいはもっと高速に、機械にゴムを被せていく。その妙技は、もはや達人の域に達していた。
ベルトコンベアと言うのだろうか、金属の筒がレーンに沿って流れていく。コンドームを装着した金属の筒が向かったのは、お湯が入った水槽。
「コンドームを装着した筒を、お湯に浸し微弱な電流を流します。もし、コンドームに穴が開いていれば、そこから電流が漏れ機械が検知するという仕組みです」
「あ、ゴムだから電気を通さないわけですね」
「その通りです。この工程の際に外観などのチェックも行い、不良品を弾きます」
こうして、検査に合格したコンドームだけが、次の工程に進むことを許される。最後に巻き上げられ、潤滑剤が塗布され、包装に一個ずつ密封されて、ようやく製品として完成する。製品を箱に詰めるところとかも見学させてもらったけど、人手の作業が結構多い。
「一日にどれぐらいのコンドームを作るのでしょうか」
「大体六万個以上でしょうか。製品によっても製造出来る個数は異なっており、薄い製品や複雑な形状の製品は時間がかかります」
原料の混合から包装まで、実に多くの工程と人々の手間がかかっている。その一つ一つが、製品の安全性と品質を支えているのだ。
「こんなにも手間暇をかけて、一つ一つ作られていたんですね」
一連の工程を見終えたエリアスが感嘆の息を漏らす。その瞳は、尊敬の念に満ちていた。
「ええ。お客様に安心して使っていただくために、手は抜けませんから」
社長さんは誇らしげだ。その言葉には、製品への絶対的な自信と、お客様への誠実な想いが込められている。これを、如何に視聴者に伝えて売上げに繋げるのか。そこは、俺の腕の見せ所だろう。
ただ、製品の性能を語るだけでは足りない。会社の歴史、ここで働く人々の想い、そうしたものを動画にしないと、本当の魅力は伝わらないだろう。さて、どのように依頼を遂行していくか。
真剣に悩み始めたとき、姉さんの携帯が鳴った。
「ちょっと失礼します。……はい、桜辻ですが。え、梓くんが。ええ、わかりました。私が戻って対応します」
微かに聞こえる会話はトラブルの気配。チラッと出てきた名前、聞き覚えがあるな……。
俺と同じく、姉さんの事務所に所属するタレントの名前だ。
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「別に毎度事件を起こしてるわけじゃないだろ。思い込みは良くないぞコナタ」
面識がある俺とコナタは、ある程度予想が出来ているのだが、エリアスと立花さんは不思議そうだ。
「おっと、私の方も電話が。ちょっと失礼しますね。……もしもし、爺ちゃんだけどどうした。なに、到着が遅れそう?」
なんの偶然か、ほぼ同時に社長さんの方も電話の応対をしているが、こっちは姉さんと違ってほのぼの感がある。端々に聞き取れる単語的に、多分お孫さんが相手だ。『ご馳走作って待ってるからな』とか、デレデレの顔で話をしているし。
「結弥ごめん。お姉ちゃん一足先に事務所に戻らないといけなくなっちゃった」
「ん、大丈夫。残りは、俺達でやっておくから」
姉さんの方は、嫌な予想が当たったのか、どうやらトラブル対応っぽい。それを察したエリアスが口を開く。
「立花さん、お義姉さんをお送りしてください」
「気持ちは有り難いけど私は大丈夫よエリアスくん。タクシーを呼ぶから」
「しかしお急ぎのご様子。ボク達は、時間的な余裕がありますから徒歩と電車でも問題ありません」
「エリアスの言葉に甘えれば? 別に姉さん達が居なくても仕事は俺とコナタとエリアスで進めておくし」
「うぅ~、じゃあ社長さんにご挨拶したら先に帰らせてもらうけど、困ったことがあったら遠慮無く電話してね。埋め合わせは今度するから」
「承知いたしました。では、詩穂様は私にお任せください」
俺達の間で話がまとまったタイミングで、社長さんも戻ってくる。
「申し訳ありません、茂竹社長。急用ができてしまいまして、一足先に失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
姉さんが深く頭を下げると、社長は柔和な笑みで頷いた。
「おやおや、それは大変だ。うちのことはお気になさらず。若い人は、色々と忙しいでしょう。道中、お気をつけて」
「ありがとうございます。結弥と、撮影のスタッフは残りますので、引き続きよろしくお願いいたします」
所属タレントが事件に巻き込まれたらしいと簡潔に事情を説明する姉さんの顔には焦りの色が浮かんでいる。社長は、様子を察してか、それ以上詳しいことは聞かずに優しく送り出してくれた。
立花さんと一緒に、先に帰路につく姉さんを見送った俺は、営業スマイルを浮かべて社長に向き直る。
「それでは、これから撮影に入らせていただきますね。まずは、会社の外観から。その後、工場内について社長さんと私が紹介する形で。撮影は、ここに居るエリアスが担当します」
ま、そこまで高度な技術を必要とするものでもない。コナタのサポートがあればエリアスでも問題なく撮影することは出来るだろう。ただ、ちょっと負担が増えるのも事実なのでエリアスに囁く。
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