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初恋のジンクス
しおりを挟む虚しい。
はじめにやってきた感情はそれ。
目の前で謎の正義を振りかざし私を納得させようとする夫。
あまりの馬鹿馬鹿しさに怒りどころか悲しみすら湧いてこなかった。
「離婚してほしい」
ファミレスに呼び出した夫の第一声を、私は彼の横で綺麗に微笑む女を見つめ聞いていた。
「浮気してたってこと?」
聞くだけ野暮は百も承知で、それでも冷静に振る舞った私の努力はテーブルを叩く音で一瞬にして崩れる。
「そんな言い方しないでくれ! 僕にとってこれが初恋なんだ」
声を荒げた夫は目を輝かせ、逃さないとばかりに女の手を握る。
「僕は彼女と出会って、自分が恋をしたことがないことを思い知らされたんだ」
夫が私に恋愛感情を持っていなかったとは初耳だ。
たかが一年、されど一年。
この先の何十年を想像しながら暮らした日々は今日であっけなく幕を閉じる。
「初めて人を好きになってやっと僕は息ができている気がする。だから、どんなに君に罵られようとこの愛を貫きたい」
「……ならご自由にどうぞ」
「え?」
心底マヌケな顔でこちらを見つめる夫の顔は非常に愉快だ。
「だから、どうぞ貫いてくださいって言ってるの」
「怒ってるのか?」
「まったく……まぁ、何の感情も湧かないわけじゃないけど、好きでもない女のことなんて気にしないで」
こんなに優しく微笑んでいるのに、夫には般若にでも見えているのだろうか。
「好きでもない妻と一年も一緒にいていただきありがとうございました」
深々と頭を下げ満面の笑みで彼を見つめる。
「これからはぜひそちらの方と愛を育んでいってください」
そうはっきりと言葉にして微笑めば、やっと安心したのか夫は笑顔で女と去っていった。
「伝票くらい持ってけよ」
次の朝。
ありえないチャイムの連打にドアを開けると、そこにいたのは夫だった。
「すまなかった!」
床に頭を擦り付け必死の土下座。
こんなやつのどこがよかったのだろう。
「……騙されてたんだ」
聞いてもいないのにベラベラと。
初恋が聞いて呆れる。
「もしかして知らなかった? 初恋は叶わないって」
ケラケラと笑いながら、情けなく這いつくばる男に向かって言い放つ。
「だから、私達も上手くいかなかったんだよ」
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