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24.2人きりの食卓
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「カミロ様、こちらのお肉お食べになりました? もう柔らかくてあっという間になくなってしまいましたわ」
「あぁ、噛む必要すらなかったな。それなのにコクも深くしっかりとした味わいも感じられる」
「それを言うなら先ほどのスープも素晴らしかったですね。口に入れた途端、いくつものお野菜の旨みが感じられて」
「この中にベリーナが育てたものも入っているのか?」
「ええ。この前収穫したものを使ってくださっているはずです」
「新鮮だからより旨みが感じられるんだろうか……これもか」
付け合わせの野菜を口に入れ、カミロはゆっくりと噛み締めしっかりと飲み込むと、満足そうに大きく頷いた。
「……まさかカミロ様とこんなふうにお料理の話ができるようになるなんて、あの時は思いもしませんでしたわ」
息を漏らすように穏やかに笑いながら、ベリーナもまたナイフで小さく切った野菜を口に入れた。
「今思えば、我ながらひどい無礼者だと反省してる。すまなかった」
「いえ。私の方こそ腹が立ったとはいえ公爵様に向かって、あんな熱弁を奮ってしまって。思い出すだけで、顔から火が出そうですわ」
慌てて顔を押さえるベリーナを見つめながら、カミロは嬉しそうに頬を緩めた。
「だが、貴女があの時ああいう反応をしなければ、私はきっと契約結婚なんて絶対に提案しなかっただろうな」
「それはどういうことですか?」
「……ベリーナ、そろそろ私の話を聞いてもらっていいだろうか」
ナプキンで口元を拭ってから、カミロはナイフとフォークを静かに皿に置いた。
それに倣い、ベリーナもそっと口元を拭いまっすぐ彼を見つめた。
「あの日、私は一つ嘘をついていたんだ」
「嘘?」
「あぁ。私が貴女に話しかけた時、偶然部屋に入ったら貴女がいたと言っただろう。本当は会場での見事な啖呵を聞いて、貴女の後を追ったんだ」
『話題のお味ではなく、私は貴方が美味しいと思うものが知りたかったのに……。申し訳ございませんが、お誘いはなかったことにしてくださいませ』
「相手は決して悪くなかった。家格もそれなりだし、容姿も整っていて振る舞いも実にスマートだった……でも、そんな彼に見向きもせず貴女はすぐに会場を出ていった。そして、あれだけ不機嫌だったにも関わらず料理を見るなり目を輝かせた。しかも信じられない量を皿に乗せて、嬉しそうに部屋から出てくるんだから驚いたよ」
「まぁ、そうだったんですね」
自分の行動を思い出したのか、ベリーナは少し恥ずかしそうに顔を背けた。
「正直に言えばあらぬ誤解も受けそうだと思い咄嗟についた嘘だが、貴女を騙したことには変わりない。すまなかった」
「そんなことで謝らないでください。私がカミロ様のお立場でもご令嬢があんな山盛りの料理を持って歩いていたら、気になると思いますもの」
「山盛りという自覚はあったのか……?」
「あるに決まってますわ! もう私だって一応は伯爵令嬢ですのよ」
「申し訳ない」
そう言いながらも笑い声が止められず口を押さえるカミロに、ベリーナは大袈裟に顔を背けた。
「それからもう目が離せなくなってしまって……気付いたら、声までかけてしまっていたわけだ」
「でも、それなら普通に声をかけてくれたらいいではありませんか。あんなところからいきなり声をかけるなんて、少し無作法じゃありませんこと?」
まだ機嫌を損ねているのか、ベリーナはカミロと目も合わせずお肉を一口。
「いや、あれは完全な不可抗力だ。言っただろう? こちらが見えていないことに気付いていなかっただけだ」
「それにしたって、いきなり挨拶もなしに女性に『貴女は何を言っているんだ?』なんて、あんな怖い顔で言ったら、普通のご令嬢なら震え上がって泣いておりますわ」
「でも、貴女は怯まなかった……そうだろう?」
得意げにそう言いながらカミロもまた肉を一口。
負けじとベリーナも大きく切った肉を口に入れ、十分味わってから勢い静かに飲み微笑んだ。
「あら、私をそうさせたのは、他でもないカミロ様自身でございましょう?」
「私が?」
「ええ……だって、あの時カミロ様が食事を軽んじるような発言さえなさらなければ、私もあんなふうに振る舞う必要などなかったではありませんか」
「確かに、そうだが……」
「それに、カミロ様が幼い私に『食べることの幸せ』を教えてくださったあの日がなければ、私はあそこまで熱くなることはきっとなかったと思います」
「ベリーナ……」
「あぁ、噛む必要すらなかったな。それなのにコクも深くしっかりとした味わいも感じられる」
「それを言うなら先ほどのスープも素晴らしかったですね。口に入れた途端、いくつものお野菜の旨みが感じられて」
「この中にベリーナが育てたものも入っているのか?」
「ええ。この前収穫したものを使ってくださっているはずです」
「新鮮だからより旨みが感じられるんだろうか……これもか」
付け合わせの野菜を口に入れ、カミロはゆっくりと噛み締めしっかりと飲み込むと、満足そうに大きく頷いた。
「……まさかカミロ様とこんなふうにお料理の話ができるようになるなんて、あの時は思いもしませんでしたわ」
息を漏らすように穏やかに笑いながら、ベリーナもまたナイフで小さく切った野菜を口に入れた。
「今思えば、我ながらひどい無礼者だと反省してる。すまなかった」
「いえ。私の方こそ腹が立ったとはいえ公爵様に向かって、あんな熱弁を奮ってしまって。思い出すだけで、顔から火が出そうですわ」
慌てて顔を押さえるベリーナを見つめながら、カミロは嬉しそうに頬を緩めた。
「だが、貴女があの時ああいう反応をしなければ、私はきっと契約結婚なんて絶対に提案しなかっただろうな」
「それはどういうことですか?」
「……ベリーナ、そろそろ私の話を聞いてもらっていいだろうか」
ナプキンで口元を拭ってから、カミロはナイフとフォークを静かに皿に置いた。
それに倣い、ベリーナもそっと口元を拭いまっすぐ彼を見つめた。
「あの日、私は一つ嘘をついていたんだ」
「嘘?」
「あぁ。私が貴女に話しかけた時、偶然部屋に入ったら貴女がいたと言っただろう。本当は会場での見事な啖呵を聞いて、貴女の後を追ったんだ」
『話題のお味ではなく、私は貴方が美味しいと思うものが知りたかったのに……。申し訳ございませんが、お誘いはなかったことにしてくださいませ』
「相手は決して悪くなかった。家格もそれなりだし、容姿も整っていて振る舞いも実にスマートだった……でも、そんな彼に見向きもせず貴女はすぐに会場を出ていった。そして、あれだけ不機嫌だったにも関わらず料理を見るなり目を輝かせた。しかも信じられない量を皿に乗せて、嬉しそうに部屋から出てくるんだから驚いたよ」
「まぁ、そうだったんですね」
自分の行動を思い出したのか、ベリーナは少し恥ずかしそうに顔を背けた。
「正直に言えばあらぬ誤解も受けそうだと思い咄嗟についた嘘だが、貴女を騙したことには変わりない。すまなかった」
「そんなことで謝らないでください。私がカミロ様のお立場でもご令嬢があんな山盛りの料理を持って歩いていたら、気になると思いますもの」
「山盛りという自覚はあったのか……?」
「あるに決まってますわ! もう私だって一応は伯爵令嬢ですのよ」
「申し訳ない」
そう言いながらも笑い声が止められず口を押さえるカミロに、ベリーナは大袈裟に顔を背けた。
「それからもう目が離せなくなってしまって……気付いたら、声までかけてしまっていたわけだ」
「でも、それなら普通に声をかけてくれたらいいではありませんか。あんなところからいきなり声をかけるなんて、少し無作法じゃありませんこと?」
まだ機嫌を損ねているのか、ベリーナはカミロと目も合わせずお肉を一口。
「いや、あれは完全な不可抗力だ。言っただろう? こちらが見えていないことに気付いていなかっただけだ」
「それにしたって、いきなり挨拶もなしに女性に『貴女は何を言っているんだ?』なんて、あんな怖い顔で言ったら、普通のご令嬢なら震え上がって泣いておりますわ」
「でも、貴女は怯まなかった……そうだろう?」
得意げにそう言いながらカミロもまた肉を一口。
負けじとベリーナも大きく切った肉を口に入れ、十分味わってから勢い静かに飲み微笑んだ。
「あら、私をそうさせたのは、他でもないカミロ様自身でございましょう?」
「私が?」
「ええ……だって、あの時カミロ様が食事を軽んじるような発言さえなさらなければ、私もあんなふうに振る舞う必要などなかったではありませんか」
「確かに、そうだが……」
「それに、カミロ様が幼い私に『食べることの幸せ』を教えてくださったあの日がなければ、私はあそこまで熱くなることはきっとなかったと思います」
「ベリーナ……」
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