「完璧令嬢」と言われた私が婚約者から「ハリボテ」と罵られてからの一週間

真岡鮫

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1.完璧令嬢

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 豊富な資源に恵まれ、小国ながらも人々が穏やかに暮らす王国レダール。
 そこには「完璧令嬢」と呼ばれ、若い女性達の憧れの的となっている一人の令嬢がいる。

 公爵令嬢、リリアージュ・ハインツベル。

 宰相である聡明な父と社交界の花と呼ばれた見目麗しい母を両親に持ち、五歳離れた兄もすでに第一王子の側近。
 そんな誰もが羨ましがるような家族の中において、とりわけ彼女だけが「完璧」と呼ばれるのは、置かれた家庭環境だけが理由ではない。

「リリアージュ様、おはようございます」
「あら……カーラさん、おはよう」

 振り向くだけで輝きを放つ金色の髪に、クラスメイトである彼女は思わず目を細めた。

「あっ、あの……リリアージュ様の髪飾り、とても素敵です」
「まぁ、ありがとう。教室までご一緒していいかしら?」
「ももももっ、もちろんです」

 情熱を溶かし込んだようなガーネットの瞳に見つめられ、カーラは不自然に目を逸らした。

「あの……ちょっといいかしら?」
「あっ、はい」

 声を上擦らせ顔を上げた彼女に、リリアージュは優しく微笑みかける。

「実はね、昨日少し夜ふかしをしてしまって……もしかしてクマ目立っていないかしら?」
「だっ、大丈夫です」

 リリアージュの白く細い指を、カーラはぎこちなく目で追っていく。
 
「本当に? ここ見て、少しだけお粉で隠してきたんだけど、どう?」
「……お綺麗です」
「まぁ、よかった。今日も一日頑張りましょうね」
「はっ、はい!」

 大きく頷いたカーラの顔は、ほんのりと赤く染まっていた。



「ほらご覧になって。今回の試験も一位はリリアージュ様だわ」
「まぁ、全科目満点……信じられない」

 口をあんぐりと開け掲示板を見つめていたソフィとミランダは、慌てて口を手で覆った。

「この前、ダンスの授業でもお手本として踊られていたけど、それはもう素敵だったわ」
「リリアージュ様のお相手なんて、男性も緊張してしまうわよね。私だったら絶対無理」
「そうなの、その方も体がガチガチで……」

 思わず目を見合わせた二人は、肩をすくめクスリと小さく笑い声を漏らした。

「……実はね、私もすごく緊張していたのよ」
「リッ、リリアージュ様!」

 振り向いた瞬間、飛び上がるように後退りしたソフィを受け止め、ミランダは慌てて頭を下げた。

「でも、あの方が難しいステップもしっかり支えてくださって……」
「そう、だったんですね」
「ええ。寡黙だけど、真面目で素敵な方ね」
「確かに……」
「だから、ここだけの話だけど」

 リリアージュは彼女達の耳にそっと唇を寄せた。
 
「実は、ああいう優しい方が——」

 目を丸くしたソフィとミランダを見て、リリアージュは一瞬だけ口元を緩め、もう一度二人の耳元に顔を寄せた。

「なんて、婚約者がいるのにこんなこと……ごめんなさい、できればここだけの秘密にしてくれるかしら」
「はい……もちろんです」
「ありがとう。それでは、ごきげんよう」

 軽やかにウインクを投げ微笑んだリリアージュは、手を振りながら去っていった。

「はぁ……なんてお美しいのかしら」
「本来なら私達なんて、話をすることすらおこがましいのに、本当にお優しいわ」

 リリアージュの背中を見送る二人の口から、同時に深いため息が漏れた。
 
「文字通り『完璧令嬢』よね。惚れ惚れしちゃう」
「本当に、リリアージュ様に欠点なんてあるのかしら」
「あら、忘れたの? ほら一つだけ」
「あっ、もしかしてガブ……」
「ちょっと、名前出しちゃダメだって」
「ごめん! 『あのお方』ね」

 慌てて口を押さえたソフィにため息を吐きながら、ミランダは靴音を鳴らし教室へ向かう。

「でも、本当にどうして『あのお方』がリリアージュ様の婚約者なのかしらね」
「ねぇ……同じ王子様なら絶対アラン様の方がお似合いなのに」
「だから、声が大きいわ。誰かに聞かれたら……ほら、行きましょう」
「ミランダ、ちょっと待って」


 完璧令嬢と称えられる彼女の唯一の欠点。
 それは、婚約者である第二王子ガブリエル・レダールだ。


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