〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。

文字の大きさ
7 / 48
1.城を出ていった悪妃

気を許してはいけない


「……はい?」

首を傾げると、ベロニカはぽろぽろと涙を零しながら言った。

「ウィルにリリー、ミルキー、ピンキー、ブラン、マロン……。みんな、クレメンティーナ様に取られました。返してください……!!」

「…………」

私は数秒沈黙した後、混乱した頭を整理するためにゆっくり、細く息を吐いた。

(そうよ。そうだわ、ベロニカがこういう子だってこと、私知ってるじゃない……)

私は涙を零すベロニカを見ると、まず初めに、この場において最も大切なことを口にした。

「私は、あなたに名で呼ぶ許可を与えた覚えはありません」

「以前、呼んでもいいって言ったじゃないですか!!ううん、そんなことはどうでもいいんです」

良くないのだけれど????

ベロニカは勝手にその話を終わらせると、またしくしく泣き出した。顔を手で覆い、しゃくりあげながら悲しみを零す。

「庭園にあの子たちの姿がないんです……!!クレメンティーナ様が猫ちゃんたちを持って行ってしまったんでしょう?悪さをする猫には躾が必要だって……!」

「あれは──」

ベロニカは、私の言葉を遮って言った。

「今、あの子たちはどこにいるんですか!?もしかして処分──」

「していません。いい加減にしてちょうだい、ベロニカ様。猫はあなたが連れてきたけど飼育放棄したんじゃない。だから私が貰ったのでしょう」

ベロニカのひとり劇場にサラサやメアリーは慣れたものだけど、あまり関わりのなかったリリアは驚きを隠せないようだ。

(それもそうよね。だって、あんなに騒いでいたのだから)

ベロニカは私の強い口調に驚いたようだけど、すぐに私をキッと私を睨みつけた。

「あげてません!!返してください!」

「あなたに返したらまた放置するでしょう。生き物は可愛がるだけでは育たなくてよ?ご存知ない?」

「……っ私に子供が産めないのを知ってそう言ってるんですか!?私に子供を産ませたくないから……!!」

「何を言ってるのかしら。とにかく、そういうわけであなたがあちこちから連れ帰ってきた猫はクラウゼニッツァー公爵邸で面倒を見ています。話はそれだけですか?」

ベロニカの相手はするだけ無駄だ。

何せ彼女は、自分の都合のいいようにしか取らない。しかも、本当にそう思っているのだから手に負えない。まともに相手をするだけ時間の無駄だ。


三年前。
私は、ベロニカのことを友人だと思っていた。







陛下から愛人だと紹介を受けた彼女は当時、社交界デビューしたばかりの少女だった。
彼女は心細そうに私を見ていた。明らかに場馴れしていない様子だった。

私は、突然愛人を紹介されて戸惑ったし、驚いていた。だけど、こうなった以上はもう仕方ないとも、割り切っていた。

両親のように愛のある結婚をしたいと思ったことは、もちろんある。

だけど、私がクラウゼニッツァー公爵家の娘である以上、それは難しいのかもしれないと次第に思うようになった。

強く自覚したのは、王家との婚約が決まり、その背景を知った時だ。その時から、私はクラウゼニッツァー公爵家の人間であることを、強く意識するようになったように思う。

私は陛下と結婚して、王家の人間となる。
クラウゼニッツァー公爵家わたしと結婚することで得られる利──つまり、王家の信頼回復に、私も努めなければ、と思ったのだ。

『……初めまして。よろしく、ベロニカ様』

意識して優しい声を出す。
年下の少女は、私の様子に安堵したようだった。
それから、私と彼女は、度々お茶会をするようになったのだ。仲は、極めて良好だと、そう思っていた。

……あの日までは。

三年前。
私は十九歳。ベロニカ様は十五歳だった。



彼女に気を許してはいけないのだと知ったのは、それから半年後のことだった。
久しぶりに夜会で会った、ルーンケン公爵家の令嬢、ルシアから忠告を受けた。

『ベルネット伯爵家の令嬢……ベロニカ様だったかしら。あまり彼女に近づかないほうがいいわよ』

『彼女が……何か?』

尋ねると、ルシアは困ったように眉尻を下げた。
それから、周囲を気にするようにさらに声を小さくして、囁くように、彼女は言った。

『……彼女、あなたに無理に付き合わされてる、ってあちこちの夜会で言っているわ。最近、よくお茶会をしているのでしょう?……それが苦痛だって彼女、泣いたそうよ」
感想 52

あなたにおすすめの小説

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。