29 / 48
2.悪妃は余暇を楽しみたい
誰か殺めてしまったのですか?
竜だ。
竜が、空を駆けていた。
☆
私は、竜というのは精霊以上に非現実的な、空想上の存在だと思っていた。
(だって、そうじゃない)
誰が、本当にいると思うだろうか。
ケヴィンも、カインも呆気に取られているようだった。その様子に、私だけが見えている幻ではないと知る。
竜──水の気配を纏った青い竜が、空を駆ける。
晴天の、雲ひとつない空を駆けた竜が身をくねらせて──
(この湖の上を……飛んでる?)
それに気がついた時、私は点と点が線で繋がったような感覚に襲われた。
(魔法は無効化されたのではないわ)
魔法は正常に行使できたのだろう。
だけど、そもそもの話。
この地──この環境では魔法を使えない、あるいは魔法では、どうにもできない状況にあったのなら。
そういった特殊環境下、あるいは縛りがあったのなら、魔法が無効化されてもおかしくない。今までそう言った話を聞いたことがないのでこれは完全に私の推測になるのだけど、例えば、精霊が関与している……とか。
神秘的なあれそれが関わったことによる異変だというなら、文字通りお手上げだ。
竜が、現れた。
なぜ、このタイミングで?とか。
竜に思考があるならその考えを知りたい、とか。
様々な疑問点が波のように襲いかかるがそれ以上に──私は、その光景に目を奪われていた。
(……綺麗)
そう、竜は美しかった。
それが空を駆ける度に、雨のように水が降るのに、それは空中で弾け、地上には落ちてこなかった。きらきらとしたそれは太陽の光を弾き、
まさに物語の存在をそのまま体現したかのよう。
唖然とする私と、空駆ける竜の青い目が、ばちりとぶつかった、気がした。
それから、どれくらいの時間が経過しただろう。
ハッと気がつくと竜は空の彼方に消えていた。それで、ようやく我に返る。
慌てて、私は背後を振り返って、騎士ふたりに尋ねた。
「い、今の!今の、竜よね!?」
私の見間違いではないことを確信したくて問うと、ふたりは夢でも見たような顔で怖々、頷いた。
「今のは……」
ケヴィンが恐々と尋ねる。
カインが、冷静に答えた。
「竜、ですね」
「……いたの!?」
「私たちが白昼夢を見たのでなければ、仰る通りかと」
慇懃にカインが頷き、答えた。
それに私は唖然としたが、ハッとして口元を手で抑える。
(竜が実在するなんて思いもしなかったわよ……!さすが異世界ってやつ?いやでも、異世界は異世界でも、魔法は科学みたいなものだし、メルヘンチックなファンタジー要素は今の今まで無かったじゃないの……!)
竜、すなわちドラゴンがいる世界など、想像もしていなかった。
正直、まだ驚きが冷めていないが、このことはとにかくルーンケン卿に報告するべきだろう。
そう思って私が騎士ふたりに声をかけようとしたところで、奥の木々がざわめいた。
それは、先程のような、竜が出現する際の音とは異なり、人為的なものだった。
ハッとして私たちがそちらを見ると、現れたのは。
「…………ルーンケン卿」
まさに、今私が思い浮かべていたひとが、そこにいた。
彼は少し困ったような顔をしながら、私たちの方に歩み寄ってくる。ジャケットは、腕の中ほどまでまくりあげられていた。
どうして彼がここに?という思いと、先程の見ました!?という困惑が合わさって、私は彼に勢いよく尋ねた。
「お聞きしたいことがありますの!」
問いかけると、ルーンケン卿は僅かに沈黙してから、諦めたようにため息を吐く。
そして、私に答えた。
私の、想像もしていない回答を口にして。
「……見られたなら仕方ありません」
…………殺人現場を見られた、犯人?
あまりにそのセリフが、ミステリー小説に出てくる犯人そのものだったので、状況も忘れ、そんな感想を抱いた。
「このことは、どうぞご内密に。王妃陛下はもちろん、後ろの騎士たちも、他言無用です」
「誰か殺めてしまったのですか?」
「何を言ってるんです?」
竜が、空を駆けていた。
☆
私は、竜というのは精霊以上に非現実的な、空想上の存在だと思っていた。
(だって、そうじゃない)
誰が、本当にいると思うだろうか。
ケヴィンも、カインも呆気に取られているようだった。その様子に、私だけが見えている幻ではないと知る。
竜──水の気配を纏った青い竜が、空を駆ける。
晴天の、雲ひとつない空を駆けた竜が身をくねらせて──
(この湖の上を……飛んでる?)
それに気がついた時、私は点と点が線で繋がったような感覚に襲われた。
(魔法は無効化されたのではないわ)
魔法は正常に行使できたのだろう。
だけど、そもそもの話。
この地──この環境では魔法を使えない、あるいは魔法では、どうにもできない状況にあったのなら。
そういった特殊環境下、あるいは縛りがあったのなら、魔法が無効化されてもおかしくない。今までそう言った話を聞いたことがないのでこれは完全に私の推測になるのだけど、例えば、精霊が関与している……とか。
神秘的なあれそれが関わったことによる異変だというなら、文字通りお手上げだ。
竜が、現れた。
なぜ、このタイミングで?とか。
竜に思考があるならその考えを知りたい、とか。
様々な疑問点が波のように襲いかかるがそれ以上に──私は、その光景に目を奪われていた。
(……綺麗)
そう、竜は美しかった。
それが空を駆ける度に、雨のように水が降るのに、それは空中で弾け、地上には落ちてこなかった。きらきらとしたそれは太陽の光を弾き、
まさに物語の存在をそのまま体現したかのよう。
唖然とする私と、空駆ける竜の青い目が、ばちりとぶつかった、気がした。
それから、どれくらいの時間が経過しただろう。
ハッと気がつくと竜は空の彼方に消えていた。それで、ようやく我に返る。
慌てて、私は背後を振り返って、騎士ふたりに尋ねた。
「い、今の!今の、竜よね!?」
私の見間違いではないことを確信したくて問うと、ふたりは夢でも見たような顔で怖々、頷いた。
「今のは……」
ケヴィンが恐々と尋ねる。
カインが、冷静に答えた。
「竜、ですね」
「……いたの!?」
「私たちが白昼夢を見たのでなければ、仰る通りかと」
慇懃にカインが頷き、答えた。
それに私は唖然としたが、ハッとして口元を手で抑える。
(竜が実在するなんて思いもしなかったわよ……!さすが異世界ってやつ?いやでも、異世界は異世界でも、魔法は科学みたいなものだし、メルヘンチックなファンタジー要素は今の今まで無かったじゃないの……!)
竜、すなわちドラゴンがいる世界など、想像もしていなかった。
正直、まだ驚きが冷めていないが、このことはとにかくルーンケン卿に報告するべきだろう。
そう思って私が騎士ふたりに声をかけようとしたところで、奥の木々がざわめいた。
それは、先程のような、竜が出現する際の音とは異なり、人為的なものだった。
ハッとして私たちがそちらを見ると、現れたのは。
「…………ルーンケン卿」
まさに、今私が思い浮かべていたひとが、そこにいた。
彼は少し困ったような顔をしながら、私たちの方に歩み寄ってくる。ジャケットは、腕の中ほどまでまくりあげられていた。
どうして彼がここに?という思いと、先程の見ました!?という困惑が合わさって、私は彼に勢いよく尋ねた。
「お聞きしたいことがありますの!」
問いかけると、ルーンケン卿は僅かに沈黙してから、諦めたようにため息を吐く。
そして、私に答えた。
私の、想像もしていない回答を口にして。
「……見られたなら仕方ありません」
…………殺人現場を見られた、犯人?
あまりにそのセリフが、ミステリー小説に出てくる犯人そのものだったので、状況も忘れ、そんな感想を抱いた。
「このことは、どうぞご内密に。王妃陛下はもちろん、後ろの騎士たちも、他言無用です」
「誰か殺めてしまったのですか?」
「何を言ってるんです?」
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。