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離縁ってどう思う? 2
日付けを超えるとさすがに眠くなってきた。
だけどまだ寝ない。
時間は沢山あった。考える時間、悲しむ時間、自嘲する時間。今日は紅茶をゆっくり飲んで、今までの事を思い返していた。
深夜を回るとさすがに体が冷えてきた。それでも寝ずに待つ。セルカについでもらったウイスキーは飲み口が柔らかくて寝酒にはちょうど良かった。ちびちびと飲んでいたウイスキーは既にグラスをからにしていた。だけどこれ以上飲んだら酔ってしまう気がする。
でも寒いから、飲もうかしら。どうしよう。
そう考えていた矢先。
キィ、と扉が小さく音を立てた。私の心臓は跳ねるように驚いた。
「………あれ?リーフェ、まだ起きてたんだ」
その声に、喉が張り付いたように動かなくなった。レイルの本心を知れば、もう言葉通りにとることは出来ない。まだ起きてたんだ、という言葉に『さっさと寝てくれればよかったのに』というニュアンスを感じてしまう。怖かった。レイルが、本当はどう思ってるのか。それを悟られたくなくて、私はぐ、と手をきつく握るとレイルを見上げた。レイルは相変わらず綺麗な顔立ちをしている。長い髪が鬱陶しいのか右側の髪を耳にかけ、私を真っ直ぐに見つめている。
その夏の海のように透き通った青色の瞳に映るのも、もう最後なのだろう。その瞳に愛されたかった。誰を想うでもなく、私を想って欲しかった。
最後にそう思うのは欲深いことなのだろうか。
ああ、きっと今から。私は浅ましい願い事をする。それを口にするのは、とても躊躇われた。だけど、どうしても最後の思い出が欲しかった。私は浅ましい女だ。
「あの………レイル。お願い。私を、抱いて欲しいの」
言ってしまった。
口にしてしまった。女性から誘うなんて本来であればとんでもないことだ。女性から強請るなんて、貴族女性ではありえない。娼婦であれば女性から誘ってもいいのだろうが、私たちはその立場が許さない。心臓がどくどくと波を打つ。レイルに抱かれるのは一週間ぶりほどだった。レイルは私を最後に抱いてから、あまり夜帰ってきていない。私を抱くのが嫌になった?でも、今日で最後にするから。だからどうか。今だけは。
私が俯き気味に黙っていると、不意にレイルがこちらに歩いてくるのがわかった。はっとして息を飲む。
そうすると、そっと頬にレイルの手がかけられた。…………冷たい。
「リーフェ?その申し出はとても嬉しいけど………どうしたの。何かあった?」
「あ………」
ことわ、られた。
直感的にそう思い、頬が熱くなる。恥ずかしい。はしたない。羞恥とショックで鼻の先がつんとするのがわかる。でも、ダメだ。絶対に泣かない。泣いてはいけない。泣いて、情をねだる浅ましい女になりたくない。そんな卑怯なこと、したくない。レイルはきっと優しいから泣いて頼めば抱いてくれる。だから、そうはしたくなった。私は口内の粘膜をぐっと噛むと、涙をこらえた。
「あの…………疲れてるなら、いいの。その…………ただ、私は、」
言葉が上手くまとまらない。視線がさまよう。口の中から血の味がして、自分が思った以上にきつく噛んでいたのに気づいた。これじゃあ口付けしたら気づかれてしまう。私はだんだんと気分が沈んでいくのがわかった。最後に、と望んでも、ダメなのか。どうしてこうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうすれば、私は。
「………わかった」
「え…………」
不意に、レイルの声が響いた。
おもわず顔を上げると、息を吐いて前髪をかくレイルがいた。レイルはふと私を見た。その力強い瞳に、おもわず縫いとめられたように動けなくなる。
「きみを、抱くよ。リーフェ。だけど容赦しない。正直、溜まってるんだよね。だから今抱いたら大変なことになるけど………いい?」
噛み付くような、そんな視線だった。
太陽の光が反射した海面のようで、私は息を飲む。だけどレイルのこの言葉も偽りかもしれない。そう思うと悲しくなってきて、私は泣き笑いみたいな顔をしてレイルに言った。
「うん。………ありがとう」
言うと、レイルは僅かに目を見開いた。そして、次にどこか苦々しそうな顔をして、私の前髪に触れた。
「ありがとう、って何?俺がきみを抱きたいんだから抱くんだよ」
優しく前髪をすかれる。その感触が優しくて、愛おしくて、切なくて、涙が滲む。そして、レイルは小さく、本当に零すようにぽつりと「ああ………しくじったな」と言った。それを聞いて、私の心臓は凍りついた。
ーーーしくじった、
それは、つまり。
あまり、もう考えたくなかった。だけどどうしても脳は思考を止めてくれなくて。きっと、レイルは私を抱きたくなかった。だけど私に強請られたから仕方なく。そう、仕方なく抱くのだ。苦しかった。切なかった。この気持ちを全て忘れたいと思った。だから私はレイルに、最後に乞うように言った。
「好き。とても………好きなの。愛してる、レイル」
言うと、レイルはぴくりとまつ毛を震わせた。そして、私の座るソファの膝を乗せると、深いため息をついて私の肩に頭を載せた。そのため息に心臓が酷くうるさくなる。嫌がられたかもしれない。嫌なのかもしれない。押し付けがましかった?それでも、最後だから、どうかーーー。拒まないで。
「…………俺も。愛してる。リーフェは俺の生きる意味で、理由だよ」
そう、小さく声が返ってきた時は、言葉が帰ってきたことに心底安堵した。
だけどまだ寝ない。
時間は沢山あった。考える時間、悲しむ時間、自嘲する時間。今日は紅茶をゆっくり飲んで、今までの事を思い返していた。
深夜を回るとさすがに体が冷えてきた。それでも寝ずに待つ。セルカについでもらったウイスキーは飲み口が柔らかくて寝酒にはちょうど良かった。ちびちびと飲んでいたウイスキーは既にグラスをからにしていた。だけどこれ以上飲んだら酔ってしまう気がする。
でも寒いから、飲もうかしら。どうしよう。
そう考えていた矢先。
キィ、と扉が小さく音を立てた。私の心臓は跳ねるように驚いた。
「………あれ?リーフェ、まだ起きてたんだ」
その声に、喉が張り付いたように動かなくなった。レイルの本心を知れば、もう言葉通りにとることは出来ない。まだ起きてたんだ、という言葉に『さっさと寝てくれればよかったのに』というニュアンスを感じてしまう。怖かった。レイルが、本当はどう思ってるのか。それを悟られたくなくて、私はぐ、と手をきつく握るとレイルを見上げた。レイルは相変わらず綺麗な顔立ちをしている。長い髪が鬱陶しいのか右側の髪を耳にかけ、私を真っ直ぐに見つめている。
その夏の海のように透き通った青色の瞳に映るのも、もう最後なのだろう。その瞳に愛されたかった。誰を想うでもなく、私を想って欲しかった。
最後にそう思うのは欲深いことなのだろうか。
ああ、きっと今から。私は浅ましい願い事をする。それを口にするのは、とても躊躇われた。だけど、どうしても最後の思い出が欲しかった。私は浅ましい女だ。
「あの………レイル。お願い。私を、抱いて欲しいの」
言ってしまった。
口にしてしまった。女性から誘うなんて本来であればとんでもないことだ。女性から強請るなんて、貴族女性ではありえない。娼婦であれば女性から誘ってもいいのだろうが、私たちはその立場が許さない。心臓がどくどくと波を打つ。レイルに抱かれるのは一週間ぶりほどだった。レイルは私を最後に抱いてから、あまり夜帰ってきていない。私を抱くのが嫌になった?でも、今日で最後にするから。だからどうか。今だけは。
私が俯き気味に黙っていると、不意にレイルがこちらに歩いてくるのがわかった。はっとして息を飲む。
そうすると、そっと頬にレイルの手がかけられた。…………冷たい。
「リーフェ?その申し出はとても嬉しいけど………どうしたの。何かあった?」
「あ………」
ことわ、られた。
直感的にそう思い、頬が熱くなる。恥ずかしい。はしたない。羞恥とショックで鼻の先がつんとするのがわかる。でも、ダメだ。絶対に泣かない。泣いてはいけない。泣いて、情をねだる浅ましい女になりたくない。そんな卑怯なこと、したくない。レイルはきっと優しいから泣いて頼めば抱いてくれる。だから、そうはしたくなった。私は口内の粘膜をぐっと噛むと、涙をこらえた。
「あの…………疲れてるなら、いいの。その…………ただ、私は、」
言葉が上手くまとまらない。視線がさまよう。口の中から血の味がして、自分が思った以上にきつく噛んでいたのに気づいた。これじゃあ口付けしたら気づかれてしまう。私はだんだんと気分が沈んでいくのがわかった。最後に、と望んでも、ダメなのか。どうしてこうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうすれば、私は。
「………わかった」
「え…………」
不意に、レイルの声が響いた。
おもわず顔を上げると、息を吐いて前髪をかくレイルがいた。レイルはふと私を見た。その力強い瞳に、おもわず縫いとめられたように動けなくなる。
「きみを、抱くよ。リーフェ。だけど容赦しない。正直、溜まってるんだよね。だから今抱いたら大変なことになるけど………いい?」
噛み付くような、そんな視線だった。
太陽の光が反射した海面のようで、私は息を飲む。だけどレイルのこの言葉も偽りかもしれない。そう思うと悲しくなってきて、私は泣き笑いみたいな顔をしてレイルに言った。
「うん。………ありがとう」
言うと、レイルは僅かに目を見開いた。そして、次にどこか苦々しそうな顔をして、私の前髪に触れた。
「ありがとう、って何?俺がきみを抱きたいんだから抱くんだよ」
優しく前髪をすかれる。その感触が優しくて、愛おしくて、切なくて、涙が滲む。そして、レイルは小さく、本当に零すようにぽつりと「ああ………しくじったな」と言った。それを聞いて、私の心臓は凍りついた。
ーーーしくじった、
それは、つまり。
あまり、もう考えたくなかった。だけどどうしても脳は思考を止めてくれなくて。きっと、レイルは私を抱きたくなかった。だけど私に強請られたから仕方なく。そう、仕方なく抱くのだ。苦しかった。切なかった。この気持ちを全て忘れたいと思った。だから私はレイルに、最後に乞うように言った。
「好き。とても………好きなの。愛してる、レイル」
言うと、レイルはぴくりとまつ毛を震わせた。そして、私の座るソファの膝を乗せると、深いため息をついて私の肩に頭を載せた。そのため息に心臓が酷くうるさくなる。嫌がられたかもしれない。嫌なのかもしれない。押し付けがましかった?それでも、最後だから、どうかーーー。拒まないで。
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そう、小さく声が返ってきた時は、言葉が帰ってきたことに心底安堵した。
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