〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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3.伯爵令嬢リンシアは共同戦線を張る

8話:変質者なんて酷いですわ

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「死亡フラグ?いえ、とにかくこれはハッキリとした声です。恐らく──これは、違法魔道具に宿る悪魔のものなのではありませんか」

思わず前世の言葉を口走ってしまった私だが、ルーズヴェルト卿は聞き流してくれたようだ。このまま戦略的撤退すら視野に入れていた私だけど、彼の言葉にハタ、と思い当たる。

「悪魔の声……?」

私が静かになったことで、先程まで聞こえなかった声──恐らく、先程二人が言っていたものが、確かに私にも聞こえてきた。


『怖い、悲しい、寂しい……』
『ここから出せ、出せ、出せ、さもなくば……』
『人の愛を得る力が欲しくないかい、お嬢ちゃん』
『あなたが欲しいものは何?愛?権力?それともお金?』


嗄れた男性の声から、若い青年の声、老婆の声、妙齢の女性の声……老若男女問わず、様々な声が、語りかけるように私に話しかけている。
目を見開くと、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。

「……これは、それぞれ聞こえている内容が異なるのかもしれませんね」

「ああ。どおりで」

それに、クラインベルク様が納得したように答えた。もしかしたら、他人には知られていない秘密なんかも、悪魔には筒抜けなのかもしれない。
一寸先は闇の中、という状態で、四方八方から聞こえてくる悪魔の声。

それを聞いた私は、思わず大きな声を上げていた。

「ここ一体、違法魔道具が保管されてるんですの!?すごいですわ!!!!こんなに数を揃えるなんて流石エルドラシアね!!」

感極まって、その場を駆け出してしまいそうになる。しかし、流石にこの暗さだ。また先程のように転んでも良くないので、そこはぐっと我慢した。入室許可をいただいたとはいえ、不用意に触れるのはよろしくないだろう。

恐らく違法魔道具は、何かしらの箱かなにかに厳重に保管されているはずだ。

(それならつまり、声だけ聞こえている状況ってことかしら?)

どちらにせよ、こんな好機は滅多にない!
そもそも、違法魔道具というものはどこの国でも厳しく管理されている。私も、こんなに近くで実物を目にするのは初めてだ。
まさか、話しかけてくるとは思いもしなかったわ……!!感動……!!
私はブツブツと呟きながら思考の沼に沈んだ。

「この魔道具たちは一体誰が作ったのかしら?作成者は?ねえ、あなたたちはいつからここにいるの!?ここから出られないということは、何か魔封じでも受けているの!?それをかけたのは誰!?学院長かしら?先程、私に色々聞いたわね。あれは、私の心中を読んでのこと?それとも、思考に干渉する類い?あるいは、もしかして……」

知らず知らずのうちに、私はまくしたてる勢いで話していたのだろう。さながら弾丸のように違法魔道具に質問責めしていると、それを遮るように大きな咳払いが響いた。

「ンンッ……!レディ・リンシア!知的好奇心が疼く気持ちはわかりますが、今は調査を優先しましょう」

「…………あっ」

それにようやく、我に返った。
そうだったわ……今は、調査中。違法魔道具との対話を試みている場合ではない。ものすごく、すっごく悔しいけれど!!仕方ない。そのためにここに足を踏み入れたのでは無いもの。
私は殊勝に謝罪した。

「そうでしたわ……申し訳ありません、またしても恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ」

正気を失うほど興奮した姿を見せるのは、淑女以前の問題である。
魔法学院では伯爵令嬢として振る舞う必要がなかったためか、それもあって気が緩んでいたのかもしれない。

(でも、それにしたってまさか違法魔道具が話しかけてくるなんて思いもしなかったわ……!)

未だに興奮が冷めずにいると、先程よりずっと小さな、悪魔のボソボソ声が聞こえてきた。


『何あれ。また異常者?勘弁してよ。ここに入れられてから、変質者しかやってこない』
『気持ち悪いわね。さっさと消えてくれないかしら』
『魔法使いって言うんだっけ?今は違う呼び方なのかな。どっちにしろ、神経を疑うね。まともな人間じゃあないよ』


…………悪魔たちの悪口大会が始まった。
あれ、私に言ってるのよね??なんだか、散々なことを言われているような気がするのだけど。
憮然としていると隣のクラインベルク様が驚いたように言った。

「……おや。すごい言われようですね、レディ・リンシア」

「ふふふ、褒め言葉として受け取っておきますわ。調査を進めましょう」

ここを定期的に訪れる人間といえば、恐らく学院長か、それに準ずる人間だけ。つまり、世界屈指の天才ばかりだ。その人たちと同じ、と言われたのはそう悪くない気分だったので、私は悪魔たちの悪口を好意的に受け取ることにした。







そして、どれくらい降りただろう。
フロア表示を確認すると、そこにはB3と記されていた。つまり、ここは地下三階。

「地下一階から地下三階までは、違法魔道具が保管されておりましたわね……」

違法魔道具の数々は、四角い箱のような物体に収められていた。そして、それには黒い布がかけられており、呪符のようなものがびっしりと貼られていた。どこからどう見ても取り扱い注意の劇物だ。
本当は、間近で見てみたかったのだけど……!それは自重した。何せ、魔封じを施されているのだ。何の拍子でそれが外れるか分からないもの。
ここで私が問題を起こせば、マリア先生の面目を潰すことになる。
それだけは絶対に避けなければならない。

「しかし、急に悪魔が静かになりましたね」

ルーズヴェルト卿の言葉に、クラインベルク様も頷いて答えた。

「レディ・リンシアのおかげですね」

「褒められているのか褒められていないのか、複雑な気持ちですわ……。それはともかく、私としては不満です。違法魔道具とご対面なんて、滅多にありませんわ。貴重なサンプルを得る絶好の機会でしたのに、急に黙ってしまうなんて残念にも程があります」

「あなたの熱心さには、悪魔も敵わないということですね」

「それ、どういう意味ですの。ルーズヴェルト卿?」

ルーズヴェルト卿の言葉に、私は抗議の意味を込めて彼を見た。
先程のクラインベルク様と言い、ルーズヴェルト卿と言い……絶対褒められてないわよね!?淑女として、いやそれ以前に人として、ちょっと正常な反応ではなかったかもしれない。

(でも、それくらい気が昂ったのだもの……!!魔法を嗜むものとしては、正常な反応だと思うわ!!)

というか、興奮しないルーズヴェルト卿の方がおかしいのよ!!魔法管理部所属なのに!!

違法魔道具なんて、危険物すぎて今まで見ることが出来なかった。良くて、写真のようなもので確認するくらいだ。こんなハッキリと話しかけてくるなんて思わなかったもの……!
しかも、結構個性がありそうだった。

そう思いながら地下三階に降り立った私たちは、そこで見たものに目を丸くした。

「これは……蔵書室、ですね」

私たちの心の声を代弁するように、ルーズヴェルト卿が言う。地下三階は、今までの狭苦しさが嘘のように開けた場所だった。しかも明るい。魔力灯要らずだ。
円状の螺旋階段の壁際には、燭台が並べられて置かれており、それは火がごうごうと燃えている。……けれど恐らく、この火は本物ではないだろう。魔法かしら?
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