【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。

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1.春を司る稀人と、冬の王家

お別れしましょう

「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」

そう、言われた瞬間。
その言葉の意味よりも先に、強烈な違和感を覚えた。

どこかで、聞いたような言葉。
覚えのある場面シーン

(エミリアを支え──)

目の前には、困り顔の少女、エミリアと、私の婚約者である、セドリック様。セドリック様は、私が頷くと信じて疑っていないようで、彼女に微笑みかけたり……などしていた。

そのふたりの姿になにか思うよりも先に、強烈な衝撃が、駆け巡った。




私の名前は、アマレッタ・ル・バートリー。
バートリー公爵家の長女として生まれた。生まれながらに私は、王太子殿下との婚約を結んだ。


『僕は、アマレッタを好きになろうと思う』


初めて出会った時、彼は私にそう言った。
そして、婚約というものがどういうものかまだ分からない、幼い私に、彼はこうも言った。


『僕らは、恋をするんだ。お互いに』


幼い私は、その言葉を信じた。
彼の言葉を信じて、彼に恋をしようと思った。慣れないながらも、恋人とはどういうことをするのか、恋愛小説で学んでは、彼と手なんか繋いだりして。一緒にオペラを見に行って、ピクニックにだって行った。
楽しかった。これが、恋なんだ、とも思った。
 

だけど、いつからだっただろうか。
お茶会も、お出かけも、だんだんと数は減っていった。私が、希望を出しても彼の返答は歯切れが悪くなり、気まずそうな顔になっていった。

 
やがて──彼に、セドリック様に言われたのだ。


『恋人が出来た。婚約者のきみにも、会って欲しい』


と。最初は、何を言っているのか分からなかった。
冗談だろう、と思った。でも、冗談なんかではなかったのだ。彼はほんとうに、彼の恋人であるエミリアと私を、引き合わせたのだから。


どうして?なぜ?


私とセドリック様は……。
あなたは、私と恋をするのではなかったの?


あなたの、恋の相手は私ではないの?


驚いた。ショックだった。
裏切られた、と思った。……悲しかった。



だけど、私の気持ちなんか関係なく、事態は変わっていった。


セドリック様は、エミリアを日陰の存在にはしておきたくないと考えたようで、公の夜会やパーティーにも彼女を連れてくるようになった。
私のエスコートではなく、彼女を連れて入場するようになった。



苦しかった。
それでも、好きだった。


苦しさと彼への恋心に挟まれて、毎日どう過ごせばいいかすら、分からなかった。
このまま彼と結婚して王太子妃になったところで、状況が良くなるとも思えない。

……そもそも、もう、私には、彼の妃になりたいという気持ちが、なくなっていた。そのことに気がついて、愕然とする。

それでも、彼に【婚約を解消したい】と言うだけの勇気も、覚悟もなく、ずるずるここまで来てしまった。



そこにきて、彼の言葉だ。

唖然とする私の前で、セドリック様が困ったように肩を竦めて見せた。その腕に、エミリアを抱きながら。

「きみももう知ってると思うけど……僕が愛しているのは、彼女だ。でも、僕は、長年尽くしてくれたきみを無碍にしたくない。それで、考えたんだよ。きみには二妃となって、エミリアを支えて欲しい」

「エミリアを、支え……?」

彼の言葉を繰り返した私に、セドリック様がホッとしたように表情を和らげた。
私が受け入れると、そう思っているのだろう。

「うん。そうだよ。きみは、長年王太子妃として教育を受けてきただろ?エミリアは、元は平民だからしきたりやマナーに疎い。だから、彼女を支えて欲しいんだ。アマレッタ。きみになら、出来るでしょう?」

私が頷くと、信じて疑わない、彼の言葉。
まるで、空気のない水の中にいるかのように、息苦しい。
咄嗟に、私は胸元を抑えた。



そして──それ以上の驚きに見舞われていた。

(えっ?嘘、これって……)

この場面、彼のセリフ、この状況。
全て、全て覚えてる──!!


その作品の名前は『冬の王と、春の愛』という恋愛小説だった。

主人公は、力を持たない平民のエミリア。
そして、ヒーローは──今、私の前に立つ、私の婚約者である、セドリック様だったはずだ。

私こと、アマレッタは、エミリアを害する悪役ヒールとして、途中退場する公爵令嬢。

それを思い出して、頭がくらくらした。

この場面は、物語の序盤だったはず。
それならまだ、まだ間に合う……?



この物語で、アマレッタわたしは、重罪を犯して、処刑されるのだ。

「きみは、春を司る稀人だ。平民が、神秘を使えるようになった……という話は、過去に例はないが、もしかしたらうまくいくかもしれない。きみの力を貸してほしい」

「……それを、あなたが言うのですね」

ぽつり、私は呟いた。
彼女のために。あなたの、恋人のために、役に立て、とあなたは言う。

私が、セドリック様あなたを愛している、好きだ、と、あなたは知っているから。私の想いを利用して、言うことを聞かせようとしている。

彼への愛を捨てきれずに、頷くと、そう彼は確信している。だから、こんな提案ができるのだ。

(……軽んじられたものだわ)

いつから、こんなに見下されていたのだろう。
いつから、こんなに足元を見られていたのだろう。

それに気が付かなかった私も愚かだけど、でも、仕方ないとも思う。
だって、あなたの愛は、私への洗脳だった。
あなたを愛すること、それが、私の義務になっていたから。
私は、短く息を吐いた。



「お断りします、セドリック様」

「は……?」

「お断りします、と言いました」

私の返答に、彼が目を見開いた。
きっと、私が断るとは思ってもみなかったのだろう。

「私は愚かでした」



私は、自身の胸元に手を当てる。
まつ毛を伏せた。思い出すのは、彼との思い出。私がずっと……ずっと大切にしていたもの。
彼はもう、何の価値も見出していないのだろうけど。

「あなたが、エミリアを恋人だと私に紹介した時。あなたが、彼女を夜会でエスコートするようになった時……機会はいくらでもあったのに、なぜ早く私はこうしなかったのだろう、と今となっては思います」

「アマレッタ、きみは何を言ってるの?それに、断るってなんだい?」

彼が、戸惑ったように声を出す。
エミリアを抱く手を離し、私に手を伸ばしてきたから──私は、その手を振り払った。

パシン、と音がする。
それが、私と彼の決別を決定づけた。
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