【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。

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2.罪を抱えた国

どうして私のために、こんなに


『公爵家の娘なのだから、堂々としなさい』

『バートリーの血を継ぐものとして、強くなりなさい』

そう言われて、私は育った。


……幼い頃。
風邪を拗らせて、朦朧としていた私を見に来たお母様は、素っ気なくメイドに言った。

『あの子は稀人なのよ。風邪くらいで、情けない。放っておいて構わないわ』

実際、ただの風邪だったのでぐっすり眠ったことで翌日には回復した。

だけど、こころは。気持ちは。

とても苦しくて──悲しく、傷ついていた。


私は稀人だから、公爵家の娘だから。
心配されることすらない。

それがとうぜんなのだ、と思うようにしていた。
思い込むようにしていた。


……でも。


バートリー公爵邸宅で襲撃があった時、セドリック様は『守らなければならない』とその場を離れた。

私ではない。彼の恋人、エミリアのために。

その時に、言われた言葉が頭から離れない。


『アマレッタ、きみならひとりでも大丈夫だろう!?きみは稀人だ』


私は、ひとりでも大丈夫。
そう。ずっと思ってきた。
でも、ほんとうは。


「そうだ、アマレッタ。 さっき、軟膏とガーゼをもらってきたんだ。頬の怪我、そのままにしておいたらいけないだろ?──アマレッタ?」


彼に、ふたたび呼びかけられて。


私は、自身が泣いていることに気がついた。


「あ……。ごめなんなさい。どうしてかしら。気が緩んだのかな」


なぜ、自分が泣いているのかわからない。
悲しくはない。苦しくもない。寂しくもない。

今まで、どんなに辛いことがあっても。悲しいと思うことがあっても、泣かないようにしてきた。

だって、泣いても変わらないから。

泣いたら、次の日に響いてしまう。
目を腫らしていたら、お母様に叱責されてしまう。

だから、泣かないようにしてきたのに。


それなのに──どうして、今、私は泣いているの……?


ボロボロと、熱いものが頬を流れ落ちていく。

顎を伝って、それはシャツを濡らした。

慌てて、私は手に持っていていたタオルで目元を拭う。だけど、涙は収まらない。


「ごめんなさい。すぐ収まるから。気にしないで」


「そうは言っても」


「きっと、緊張が解けたからだわ。ここまで気を張ってきたから」


誤魔化すように言うと、私はぐい、とタオルで手荒く目元を拭った。
そして、ぎこちないかもしれないが──にこり、と微笑んでみせる。


「軟膏とガーゼ、貰ってきてくれたのね……。ありがとう。いただくわ」


涙の理由は、きっと負の感情からではない。


ただ、嬉しかったのだと思う。

誰かに心配されたことなど──今まで、あっただろうか?

守ってあげる、なんて……両親にも言われたことがなかった。

まさか、会ってすぐのひとに、そんなことを言われるなんて。
包帯と軟膏を受け取ろうとすると、また、彼に名前を呼ばれた。


「アマレッタ、俺を見て」


「…………?」


不思議に思い、顔を上げると。


「ッひゃ……!……!?」


頬に、ひんやりとしたものが触れる。

驚いて頬に触れたものを見ると──サミュエルの指には、いつの間にすくったのか軟膏がついていた。

ひんやりとしたのは、軟膏が塗られたからなのだろう。


「ここに座って。自分じゃやりにくいでしょう。俺がやるよ」


サミュエルは、軟膏瓶をテーブルの上に置くと、自身の隣を軽く叩く。

驚いて呆然としていると、何を思ったのか、さらに彼は言葉を続けた。


「あ。俺に触られるのが嫌なら──」


「い、いえ。そういうわけではないわ。……ありがとう」


私は戸惑いながらも彼の隣に腰を下ろした。

座ると、彼は少し安心したようだった。
そして私の頬に手を伸ばすと、先程のようにふたたび軟膏を塗ってくれる。


(……なんだか、くすぐったい)


メイドに手当をされたことは今までもあったけど。
男性に、それも公爵家の従僕や騎士でもないひとに手当をされるのは初めてのことで、なんだか落ち着かない。

意味もなく息を詰めていると、彼がふと、話し出した。


「きみは公爵家のご令嬢で、春を司る稀人だ。稀人として、使える神秘もあると思う。だけど──それでも、きみはまだ、十七歳の少女だ。大人に庇護され、守られるべき立場にある。……きみはもっと、甘えていい。他人ひとに、頼っていいんだ」 


「あなたは……」


あなたは、私の何を知っているの。

そう、聞こうと思った。

だって、彼の言葉はまるで私の過去を、生き方を、性格を、すべて知っているように聞こえたから。


(あなたは……私の何を知っているの?存在しなかった未来で、私と何があったの?あなたは……どうして)


どうして──私のために、こんなに必死になってくれるのだろう。


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