24 / 48
2.罪を抱えた国
世捨て国【クリム・クライム】
しおりを挟む「わぁ……!ここが、クリム・クライム……」
船を漕いで半日ほどで、私たちはクリム・クライムの国土に降り立った。
(誰もが目指し、誰もが立ち入ることを許されなかった、幻の国。通称、世捨て国【クリム・クライム】……)
サミュエルの言った通り、クリム・クライムを覆う霧は人為的なものだったようで、私たちはあっさりとそれを通過することができた。
あまりにも簡単に霧を抜けられたので、少し拍子抜けだ。
諸外国が競うように、その謎を暴こうと躍起になったクリム・クライム。
誰もがその謎に興味を惹かれ、調べ、探ったけれど、結局国土すら見つけることが出来なかった。
その国に、今、私はいる。
なんだか、感慨深い、というか。
今も尚、夢を見ている気分だ。
クリム・クライムは、落ち着いた風が流れる、島国だった。
私たちが着岸したのは、広大な森林の広がる砂浜。あたりには人気がなく、誰もいない。
クリム・クライムの国周辺は、あれだけ霧に囲まれているというのに、空は澄んだ青色だ。
(そういえば、霧はどういう原理なのかしら……)
クリム・クライムを目指して船を進めても、気がつけば出発地点に戻っているという。
その摩訶不思議な現象は、彼の兄である王太子殿下の力によるものだとサミュエルは話していた。
彼の兄が持つという神秘。
(それは、冬を司る稀人が本来、持っているはずの神秘だとも……彼は話していた)
なぜ、セミュエル王家が、セドリック様がその神秘を持っていないのか。
彼はあの場では話さなかった。
『この件は、クリム・クライムの目的にも関連している。……長い話になるから、城に着いてからでもいいかな』
セミュエル国と、クリム・クライム。
その二国間が一体どういう関係なのか。
なぜ、冬を司る稀人の神秘を持つ人間が、クリム・クライムにいるのか。
それも、王族なのか──。
気になることは山のようにある。
だけど、サミュエルが言った通り、長い話になるのだろう。クリム・クライムの目的にも関連する、というのだから。
あの場で、無理を言ってまで聞く必要は無いと思った。
それに──。
(慣れている、と彼は言ってたけど……)
ちらり、と私は背後の彼を伺い見た。
半日、彼はオールを漕ぎ続けたのだ。
いつもは、休憩を挟みながら自由気ままに船を流しているとサミュエルは言っていたが、今回は私が同行しているからか、最短時間で国に着くよう取り計らってくれたらしい。
結果、彼は長時間オールを漕ぎ続けることとなり──。
「つ、疲れた……」
クリム・クライムの国土に降り立った時には、彼は疲労困憊、という有様だったのだ。
オールを漕ぎ続ける彼に長話をさせるのはさすがに申し訳なく、後でいいと答えた理由のひとつでもあった。
「大丈夫?ごめんなさい。やっぱり私が途中で変わった方が──」
「いや、それはさすがに情けない。これくらい、俺に任せて、と格好つけたはいいけど……はー。運動不足だったかな。さいきん、城に篭っていたから。城に戻ったら鍛錬の時間を増やすべきだな、これは……」
彼は呟くように言いながら、ぐっと伸びをした。
ポキポキと小気味いい音がする。ずっと座っていたし、ずっと漕いでいたし、疲れたのだと思う。
(お言葉に甘えてしまったけど……やっぱり私も手伝った方が良かった気がする)
またこんな機会があるかはわからないが、もしあったら、次は私も協力しよう。
そう思ったところで、私は森の向こう、木々の間に見える塔を示した。
「あれが、王城?クリム・クライムの」
「……ああ。クリム・クラムはちいさな国だ。国土も、セミュエルの半分ほどだよ」
大陸で見た時、セミュエル国もそう大きな国ではない。前世、私が住んでいた国より少し大きいくらいだ。
クリム・クライムは、霧の中に国土がある、という程度のことしかわかっていない国だ。
どのような地形をしているかすら分からない。
(セミュエルの半分ほどの大きさ……といっても、結構な広さだわ。ここから城が見えるということは、城にほど近い場所に着岸した、ということかしら……)
地図がないので判別が難しいが、城が見えていている以上、その方向に進めばいいというわけだ。
私はくるりと振り返って、彼に言った。
「では、行きましょう!目測だと、そんなに遠くなさそうだけど……ここから、どれくらいで着くものなの?」
「馬車で一日くらいかな。だけどまずは、近場で宿を取ろう。この長旅だ。きみは旅に慣れていないだろうし、僕も休みたい。この近くに、いい宿がある」
サミュエルが示した方向は、砂浜をずっと歩いた方向にある、赤い建物だった。
いくつかの建造物が並んでおり、人々が暮らしているようだ。
(クリム・クライムに住む人々……)
思わず、ごくり、と息を飲んでしまう。
サミュエルと話し、クリム・クライムは他の国同様に人間の暮らす国であることは既に知っている。
知っていても、構えてしまうものなのだ。
だって、誰もが目指し、誰もがその夢を諦めた──幻の国。
世捨て国とまで呼ばれた、謎に包まれた国なのだから。
1,984
あなたにおすすめの小説
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
婚約破棄されたので、戻らない選択をしました
ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた
貴族令嬢ミディア・バイエルン。
だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、
彼女は一方的に婚約を破棄される。
「戻る場所は、もうありませんわ」
そう告げて向かった先は、
王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。
権力も、評価も、比較もない土地で、
ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。
指示しない。
介入しない。
評価しない。
それでも、人は動き、街は回り、
日常は確かに続いていく。
一方、王都では――
彼女を失った王太子と王政が、
少しずつ立ち行かなくなっていき……?
派手な復讐も、涙の和解もない。
あるのは、「戻らない」という選択と、
終わらせない日常だけ。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる