【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生

ごろごろみかん。

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2.罪を抱えた国

サミュエル殿下の恋人

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クリム・クライムの城は、どことなくセミュエル国王城と似た造りだった。
だけど、サミュエルから話を聞いた今ならわかる。
クリム・クライムはセミュエルの正当な血筋を受け継ぐ、王家だ。
だからこそ、セミュエルの王城と造りが似るのだろう。

サミュエルに連れられ、入室したのは謁見の間。
事前に知らせを出していたのだと思う。

玉座に座る王は落ち着いた様子で、私に視線を向けた。
僅かに、体が強ばった。
相手はあの、クリム・クライムの王。謎に包まれた国を統べる王。


「ご苦労だった、サミュエル」


「は」


「そちらの女性が、セミュエルの春を司る稀人……か。お前がなぜ、彼女を連れてきたのかは、分からないでもない。だが、だからこそ聞こう。お前は、何をしようとしている」


王は、重々しくも厳しい声で尋ねた。
跪き、顔を伏せるサミュエルは王からその質問をされることを予期していたかのように、すらすらと答えてみせた。


「私の独断です。彼女は、あの国にいてはならない。……何より、セミュエルの王子は、彼女に固執している。今後の動乱を思えば、彼女は間違いなくそれに巻き込まれる。そして、それは不幸を呼ぶことはあれど、幸福を招くことは、決してないでしょう」


……固執している?


セドリック様は、私を都合のいい駒のひとつとしか、見ていない。私自身に執着などは、していなかったはずだ。

だけど、だからこそ。

どのように扱っても構わないと、そう思っているのだろう。
王は、しばしの沈黙の後、鷹揚に頷いた。


「……なるほど。それでは、春を司る稀人。アマレッタ・ル・バートリー。バートリーの名を継ぐものよ」


捨てたはずの家名とともに名を呼ばれ、ワンピースの裾を持つ。貴族としての私は、死んだ。

それでも、王の前だ。自身にできる最大限の礼をとるべきだろうと考えた。


「お初に、お目にかかります。バートリーの名は、セミュエルを出る時に捨てました。どうぞ私のことはアマレッタ、と」


「では、春を司る稀人、アマレッタ。あなたは何をしたい?何がしたい。何を、望む?」


「それは──」


「いずれ、セミュエルという国は亡くなる。現王朝は滅ぶことになるだろう。その時、あなたはどこにいたい。この国──クリム・クライムか。それとも、現王朝亡き後の、セミュエルか」


その問いかけに、ほんの僅かに息を呑んだ。

今後の、こと。
これから、何をしよう、とか。
どうしよう、とか。

ここまで、何も考えていなかった。

成り行きのまま、サミュエルについてきて、クリム・クライムという国まで来た。
セミュエルの秘密を知り、現在のセミュエルが、とても歪な在り方をしていることも知った。

その上で、私は、どうしたいか。
どうしたいのだろう、と考える。

セミュエルに戻るか、この国で生きていくか。

あるいは、他国に出て、身を立てるか。
言葉を詰まらせた私に、しかし王はそれ以上のことを口にしなかった。

ただ、同情するように、私を案ずるように、サミュエルと同じ蜂蜜色の瞳を細める。


「悩むことは多いだろう。考えることも、また、多いだろう。……この国での滞在期間を、あなたの人生の分水嶺であることを願っている」


「……ありがたきお言葉に、感謝いたします」


「それでは、あなたは観光気分でこの国にいるといい。女官に案内させよう」


(観光気分)


王の言葉がチクリ、胸に刺さる。

クリム・クライムと、セミュエルの話を聞いた以上、ただ、のんびりと過ごすつもりはなかった。
私も、セミュエルの春を司る稀人として──決して、他人事では無いからだ。

だけど、では私に何が出来る?と聞かれたら、それは分からない。


(今のセミュエルは、在り方が誤っている。千年前の出来事を清算するためには──何をしたらいい?何をすればいい)


現王朝、現国王陛下が事実を公表すれば、それは約定の千年を果たしたと言えるのだろうか。

セミュエルがクリム・クライムの属国となり、クリム・クライム王家が、本来セミュエルを継ぐべき血筋の人間が、国を取り返せば、それで良いのだろうか。

千年前、現在の稀人の始祖であるサミュエルの復讐を果たす、とは一体、どういう形を示しているのだろう。
それは、サミュエルに聞けばわかるだろうか。


女官に案内されながら、私はひとり考え込んだ。

それに──。


(サミュエルは、私を気にしてくれるけど……それはどうしてなんだろう)


彼はあの事件──王城および三大公爵家の襲撃事件に関与しているという。
二度目の予知で、私と何らかの形で関わったのは間違いない。

そして、それがきっかけで、彼は自責の念に囚われている……?

女官に案内された部屋は、城内でも奥まった場所だった。


「後ほど、身の回りの世話をする侍女を手配いたします。それまでは、おくつろぎ下さい」


「ありがとう。でも、自分の世話は自分でできますから。気をつかっていただかなくても大丈夫よ」


急に押しかけて、何もかも任せるのはさすがに申し訳ない。
そもそも、今の私はもう貴族でもなんでもない。
国を捨てた、平民なのだから。

私の言葉に、彼女は少し困った顔を見せたけど、恭しく頭を下げて、その場を去った。


廊下の窓からは、青い海が見えた。
まるで切り取ったかのように美しい光景だ。夕日を浴びて、きらきらと光る海が一面に広がる。

セミュエルは、どの方角にあるのだろう。そんなことを考えてしまう。


(国内からは……国を覆う霧は見えないのね)


そんなことを考えた時だった。
複数人の足音と、はしゃいだような声が聞こえてきた。


「サミュエル殿下が恋人を連れてきたってほんとうなんですか!?」
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