8 / 22
第二章
久しぶりの再会
しおりを挟む「久しぶりだね、リリア」
「お久しぶりですね、レスト様」
レスト様との対談は雨が降りそうな天気の中行われた。朝は晴れ渡っていたのに、お昼になるにつれどんよりと曇ってきたのだ。
スレラン家のご当主様とお父様は、別室にてお話されるらしい。私とレスト様は客間で互いの距離を詰めるようお父様に指示されている。距離を詰めるも何も、アホシュア様よりよっぽどレスト様の方にいい感情を持っていると言うのに。アホシュア様と比べたらレスト様に申し訳ないくらいに。
レスト様がカップをソーサーに置く音が静かに響く。
「今日はごめんね。多分、俺のせいだろうから」
「あ……天気のことでしょうか?」
「そう。朝は晴れていたけど、もう雨が降りそうだろ?多分俺のせいだ。そのせいで庭園も回れなくなってしまったし」
「そんな……お気になさらないでください」
レスト様は【雨】を司る家のものだからか、彼がどこかに出かけようとすると高確率で雨が降るのだ。驚異的な雨男。スレラン家でも一番【雨】の力が強く出てしまったレスト様は、出かける度に雨が降り、豪雨になり、帰れなくなることもしばしばなのであまり外に出ることをしたがらない。
今日は王城に呼び出されて婚約の場を改めて整える運びになったが、王族からの呼び出しであったためレスト様も断ることは出来なかったのだろう。
「ホシュアとのこと、残念だったといえばいいのか、良かったと言うべきか?」
レスト様がやや迷うようにしながら言う。
「良かったでいいのです!ようやく私、あの人から解放されましたもの」
「そう。……なら良かった」
「はい!」
レスト様は、私がアホシュア様に散々意地悪をされ、暴虐を尽くされてきたことを知っている。何より、私がアホシュア様に髪を切られた時に髪を魔法で何とかしてくれたのはレスト様なのだ。
髪を長くする魔法はいわゆる【無魔法】と呼ばれる属性に分類されるのだが、これがなかなか難しい。難易度が高い魔法なのだ。
それが出来なくてしくしく庭の隅で泣いていた私に声をかけてくれたのがレスト様だった。
「それで、リリア。俺たちの婚約のことだけど」
「はい。………レスト様と、婚約になるのですよね」
今まではアホシュア様との婚約破棄が一番の目標だったせいで、実感が伴わなかった。だけど今になってじりじりと実感が湧く。
(そう……。私、レスト様と婚約するのね)
「俺にとっても、いい話だったんだ。リリアも知ってると思うけれど、俺とケイトの仲は壊滅的だった。彼女は奔放だし、俺の話を全く聞かない。時々、強制される茶会はなにかの罰かと思うほどだったよ」
そ、そんなに酷かったのね………。
レスト様とケイト様の仲は冷戦もかくやというほど冷え切ってるとは聞いたけれど、ここまでとは。レスト様の瞳に嫌悪する色が映る。
レスト様とケイト様は、ケイト様が生まれてすぐ婚約を結んだという。それからずっとの付き合いになると思うけれどどうやら心底さめきっているようだ。
「だから、不謹慎だけど嬉しいんだよ。リリアと婚約を結べることが」
「レスト様………」
「いや、不謹慎じゃないかな。ケイトは自分の意思でホシュアとの仲を選んだわけだし、ホシュアもリスクを知っての上で関係を結んだわけだから。彼らの望むようになったわけだ」
望んでいたわけじゃないと思うけれど……。あ、でもホシュア様は喜んでたわ。ケイト様はどうなのかしら。
「ずっと、心配だったんだ。ホシュアはいつまでたっても変わらない。きみに対する態度も。だから、本当に良かった」
「良かった………?」
「リリアと婚約を結べて、だよ。………絶対大切にする」
「……!」
レスト様の真っ直ぐな言葉が胸に響く。大切にする、なんて初めて言われた。言葉に迷う私に、レスト様が笑みを浮かべる。
「次は、リリアがレスラン家に来てくれ。そうすればきっと晴れるから。その日は庭園を回ろう。母上が花が好きな人でね。うちの庭園はちょっとした作品のようになってるんだ」
「そ、そうですね………。以前、お聞きした覚えがあります」
アホシュアに髪を切られてさめざめ庭園の隅で泣いていた私に、声をかけてくれたのはレスト様だ。その日は五貴族揃っての顔合わせがあって、レスト様も来ていたのだった。
庭園の隅で泣く私を気にかけてくれた彼は、魔法で髪を直してくれたあとに自分の庭園の話をしてくれた。
『きっとリリアも好きになるよ』
優しい声で言われて、髪が元通り元に戻って、私は酷く励まされたのを覚えている。
「………ありがとうございます。レスト様。これから、よろしくお願いします」
髪を切られた時のことも含めて、お礼を言う。頭を下げると、レスト様には「こちらこそ」と言われた。私の最悪な婚約の日々は終わりを告げたようだ。
26
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる