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反省しました。
しおりを挟む狙い通りになるのは癪だった、そう。ただそれだけ。
私は馬車に揺られながらため息をついた。お願いしたとおり、馬車は結構な速度で走っていて車体は何度も揺れ動いていた。
私と一緒に同じ馬車に乗り込んだミーナからの視線が痛い。とてもいたい。ひしひしと突き刺さってくる………。
「予定を変更されるとお聞きした時はたいへん、それはもう、とても驚きました」
「だからごめんねって言ってるじゃない」
「リリアンナ様はあまりにもこういうことが多すぎます!」
ごもっともだわ。
ミーナがぷんぷんしているのももちろん理由はあって、それは私が帰国ではなく、この国で調べ物がしたい、と言ったから。この国、エルヴィノアは広大な土地を有していて、物流や人の動きもさかんだ。母国でも調べ物はするつもりだが、せっかくエルヴィノアにいるのだからこの機会は逃したくない。
(神殿図書館や、民間図書館あたり……量は凄まじいけど呪術に関する本も置いてあるかもしれない)
これこそ、まさしく賭けのようなものだ。だけどもう、ここまできたら死にものぐるいで探すしかない。
フェアリル殿下の体液を摂取する、というのは根本的な解決にはならない。ただの時間稼ぎにしかならない。
それは私にもわかっていた。
ただ、私に覚悟がなかった。
(生きるために、体を交えるべきか)
ひとをーー。
必ず【誰か】を傷つけることになる。
それをわかった上で、私は生に執着するのか?
国民に支えられ、国民のために生きるべき王女がそれでいいのか。
同じことを考えては思考が停滞し、解決の糸口など見つかってもいないのに【時間稼ぎ】を選んでいた。このままではずるずる、解決もせずに泥沼化するだけなのは目に見えていた。
例の公爵令嬢の逃走は、ある意味私に現実を思い起こさせた。
考えてみれば、生涯の呪い、だなんてとんでもないものをつけられたことで私も混乱していたのだろう。
初対面の王子に精液をねだり、人助けを強要し、理不尽につきまとう。冷静に思い起こせばどれも王女の行動ではない。
「……………」
「?リリアンナ様?」
「ミーナ……いま、私は深く反省しているの。生きていると悔いることが沢山あるわね」
「……そうですね。特にリリアンナ様は考えるより先に体が動くくせをどうにかした方がよろしいかと思います」
「根に持ってるわね……」
「それはもちろん」
だんだんフェアリル殿下の態度が変化してきたのも納得できるものだ。あんなに失礼な態度を取られて、変わらず接することの出来る人間がいたらそれは人間ではない。いたとしても、きっとすごく感情が希薄なのだろう。
怒って当然。国に叩き返されなかっただけ、ありがたい話ではある。
(どうして私をエルヴィノアの王妃に、なんて話が出て来たのかは分からないけど)
きっとフェアリル殿下も私に振り回されてやけになったのだろう。自暴自棄を起こさせてしまうくらいストレスの種になっていたことがとても申し訳ない。こうして、城から離れると自分の行動をとても落ち着いて見返すことが出来て、私は何度もため息をついた。
十六歳になって、少しは頭が回るようになった……と自負していたけれど、そんなことはなかったかもしれない。
フェアリル殿下の婚約者にことの次第が伝わればまず間違いなく嫌な気分にさせるだろう。
(秘密はお墓まで持っていくつもり。だから……うん。やっぱり、なかったことにするべきなのよね。きっと)
残された日数は本当に短いが、その短い間に呪いを解決しなければ。私に先はない。
まず先に着いたのは神殿の大図書館だ。
見上げるほど大きな建物に入ると、螺旋状の階段と、円形に本棚が置かれていた。外から見た通り、とても広いようで3階まで階段は続いているようだ。天井はステンドガラスとなっていて、虹色の光が柔らかく降り注いでいる。
「どれから調べようかしら……」
「呪いに関するもの、ですよね。私も調べます」
「ありがとう、ミーナ。ジェイクも良かったら手伝ってくれると助かるわ。こんなに広いと、ひとりじゃ厳しいもの」
私の護衛として後ろに立つジェイクに言うと、僅かに眉を寄せる。
「俺は殿下の護衛ですので、離れることはできません。特にここは、王城ではないのですから。誰でも入ることが出来るんです、ご自分の身分を考慮してください」
耳に痛い。ジェイクの言葉は正論だった。正論は時として強い攻撃力を持つ。
「………それじゃあ、少し離れてジェイクも調べ物を手伝って?本当にひとりじゃ絶対終わらないわ。私が呪いで死んだら守る守らない以前の話よ、元も子もないもの」
「分かりました」
渋々、と言った形ではあるが、ジェイクも調べ物を手伝ってくれることとなった。これで、手分けして本棚に向き合ってそれらしい本を探していく。ミーナは反対方向へと向かい、私は入口に近い場所から攻めていく。
本の多さを見ると、怯みそうになるが諦めないことが解決への糸口になると信じている。
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