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恋とはなにかしら?

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調べるものが多すぎて、そして肝心の欲しい情報は手に入らない。何冊目かの本を本棚に戻して、軽く目頭をおさえる。もうどれくらい時間が経過しただろう。横を見てみれば、少し離れたところでジェイクも本を見ているようだった。かなり集中してくれているようだ。

(ここの本棚もはずれ……かしら)

予想はしていたが、こうまで手応えがないと心細さが先にたってくる。諦めそうな気持ちを奮い立たせて次の本棚へと視線を向けた時ふと隣に誰かがたった。
白のシンプルなデイドレスに身を包んだ女性は見るからに華奢で、肌が真っ白だった。

(わ……妖精みたい)

思わず目を奪われると、その女性は本を一冊手に取って、ぱらぱらとページをめくりながら言った。

「神殿の図書館、なのに……全く神殿っぽさがありませんよね」

「え?」

「そう思いませんか?」

どうやら私に話しかけているようだ。にこり、と笑った女性は眩しいほど美しい女性で、可愛らしい、という言葉がしっくりとくる。おまけに声まで可愛い。鈴がなる声、というのだろうか。
驚いて目をぱちぱちしていると、その女性は本を閉じて、表紙を指でつ、と触れた。

「神殿図書館、と名前がついているのに全く神殿っぽさがない理由は、ただこの図書館を管理しているのが表向き神殿で、実際管理しているのは、どこかの商会だから、と聞いたことがあります」

女性が手に取った本は建国に関わるもののようだった。古代語でずいぶん昔の王の名前が書いてある。女性はこちらを見て、またひとつ笑った。

「私はレベッカ、といいます。なにかお探しものですか?私はここの図書館に少しだけ詳しいから、お役に立てるかもしれません」

「レベッカ……。ありがとう、私はリリアンナというの。デスフォワードの国についての本を調べているのだけど、どこにあるか分かるかしら」

レベッカ、と名乗った女性は柔らかな赤髪を胸元でひとつに結んでいた。緑の瞳は穏やかで、優しげな印象を受ける。とてもいいひとだ。

(こんなに綺麗で優しいなんて、聖母みたいなひとだわ……)

レベッカは「デスフォワード……」とひとつ呟くと頷いた。

「デスフォワード関連……と言うより、他国の本はまとめて置いてあるんです。3階なので、少し歩きますね」

「!ありがとう。助かるわ」

ジェイクの方をちらりと見ると、ジェイクが頷いたのが見えた。後ろからついて行く、ということだろう。
私はレベッカに案内され、3階へと向かった。2階、3階には神殿【らしさ】を表すためか、聖職者の大きな絵画が飾られていた。

「でも、デスフォワードの本を探しているなんて珍しいですね。興味があるのですか?」

(えーと……。『呪術に関する本を探している』なんてあきらかに怪しいから、ついデスフォワードと答えてしまったけど、なんて言おうかしら)

回答に困っていると、レベッカがぽん、と手を打った。

「好きな人がデスフォワードに?」

「えっ?好きな人?」

思わぬ言葉に顔を上げる。びっくりしてレベッカを見ていると、違ったかしら、というふうにきょとんとされる。きょとんとしたいのは正直こちらだ。

「好きな人……は、いないわ。デスフォワードに興味があるのは、神秘的な国だから、かしら。なにかと不思議じゃない?」

デスフォワードの国の建国自体、あまりはっきりと伝わっていない。おとぎ話のようなものが多すぎるのだ。
それに加え、王族は代々【癒しの力】という秘技が使える。【癒しの力】というとかなり漠然としているが、その実態はマイナスの加算だ。5を4に、3を2に。
そういう形で、本来ある形を、一つ前の状態、ーーその事象を過去軸に戻すことが出来る。

もっと簡単に言うと、怪我をした時、皮膚の状態を一時間前、あるいは一日前に戻すことが出来る、ということだ。

もちろん条件はあって、自分の力を大幅に超えた【癒しの力】の効力は使えない。
自分の力がどれくらいか、というのを正確に理解している王族の人間はきっといないだろう。それを知るためには、故意に傷ついた人間を用意し、実験しなければならない。
そんな非人道的な実験は出来るはずがないし、そもそも王族の力は秘匿されるものだ。
私も自身の力がどれほどか知らない。

(この【癒しの力】が、呪いに効けば良かったんだけど……どうして使えないのかしら。やっぱり物理的な再生しか出来ないの?)

そんなことを考えていると、レベッカの声に引き戻された。

「じゃあ、リリアンナは好きな人はいないの?」

「好きな人?考えたこともなかったわ……」

(私は、いずれお父様に決められた相手と結婚するのでしょうし)

恋愛というものは知っているけど、自分がするものだとは思っていなかった。だから、少しびっくりした。

(でも……もし、結婚するのだとしたら、そしたら) 

ふと、思い出すのは短くも楽しかった時の記憶で。
その記憶を楽しい、と感じている私は、よほどの馬鹿なのか。それとも危機感が足りていないのか、倫理観にかけているのか。
そのどれかだとしても、不適切極まりない。
気持ちを払拭するように息を吐いた。

「好き、ってどんな気持ちなのかしら。その感情を知ったら、幸せって感じるの?」
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