12 / 33
2.処刑宣告
3話:あの夜の目撃者
ルヒトゥルス国を守る魔障壁。
あれがあるからこそ、他国はルヒトゥルス国に侵攻することができない。
だけど、この魔障壁を維持するには莫大な魔力を必要とする。
そのため、魔法使いは日常的に魔障壁に魔力供給を義務づけられるのだ。
体感で、奪われる魔力は全体数の八割程度。
それでも、残りの二割で一般人と同程度なのだから、それだけで魔法使いの魔力の高さ──異常さというものがわかるというものだろう。
(体内から魔力を奪われる感覚は、いつになっても慣れなかった)
不自然に魔力を消費するために、慢性的に体調が悪かった。
ブレスレットを嵌めた右手首は常にどくどくと、うるさく脈打っていた。
幼少期は、あまりにその音──感覚がうるさくて、眠れない時もあったほどだ。
血を吸い上げられる感覚は、採血を思わせた。
ずっと、ずっと嫌だった。
呪いのブレスレット──。
密かに、私が呼んでいた名前だ。
そんな呪いじみたブレスレットが、壊れた……。
呆然としていると、リュンガー伯爵が壊れたブレスレットを拾い上げる。
「……私がなぜ、これを知っているのか気になる、という顔ですね」
いえ、呪いのアイテムを手放せた喜びで茫然自失していただけです。
……とは言えなかった。
実際、どうして彼が魔力封じの存在を知っているのか、気になったから。
(もしかして彼は──)
果たして、私の推測の答えは、彼の口から得られた。
「魔法使いが現れない時は、教会に勤める聖職者が、その任を担います。と言っても、1人あたりの提供量などたかが知れていますがね。それでも、塵も積もれば山となる。今までは……あなたが生まれるまでは、そうして魔障壁を維持してきたのです」
「……やっぱり、リュンガー伯爵は聖職者だったのですね」
「昔の話です」
彼はあっさりと流してしまった。
その様子からして、あまり深く聞かれたくないことなのだろう。
そう察した私も、それ以上聞くことはしなかった。
「まず、今のあなたには選択肢がふたつあります。ひとつめは、今すぐこの場を離脱して、海外に出ること。魔法使いなら、空間魔法を応用すれば、どこにでも行けるでしょう。しかし、この場合、問題点がひとつあります」
「……何でしょう?」
リュンガー伯爵は、得体の知れない人間だ。
元聖職者なのに、今は伯爵という立場になる。彼がどうやってその地位まで上り詰めたかは不明だし、先程の彼の様子からして、あまり楽しい話でも無さそうだ。
そして、伯爵という立場にありながら彼は、私を逃がそうとしている。
ルヒトゥルス国において、魔法使いの重要さを理解した上で、だ。
リュンガー伯爵の声は淡々としていた。
本当に含みなく、ただすべきことをしている、というような──。
「魔障壁の近くには魔力探知機が隙間なく配置されています。まず、それに引っかかるでしょう。その場合、魔力探知機を壊し、追っ手を徹底的に打ちのめす必要がある」
「…………」
「レディ・キャロライン。あなたは、自分の都合で関係の無い人間を傷つけることは出来ない」
「……随分、知ったように話すのですね。あなたとはあまり、お話したことがなかったと思うのですけれど」
「もちろん、私の憶測に過ぎません。ですが、関係の無い人間を次から次に……おそらく、彼らは捨て身で向かってきます。『何としてでもあなたを捕縛しろ』と命令を受けるでしょうからね。殺す覚悟で、足や目を潰さなければならない。…………出来ますか、レディ・キャロライン?」
「……何か、試されてます?」
「まさか」
「なら、その答えはNOですわ。私にはできない」
私の答えに、一瞬リュンガー伯爵はホッとした様子を見せた。
だけどすぐに、真剣な表情でまた話を続ける。
(このひとは、何?何を考えているの……?)
「では、二つ目の選択。これが、先程の私の提案に繋がるのですが──他国に出れない、となると、あなたはほとぼりが冷めるまで、この国で潜伏しなければならない。だけど、そうするにはあなたの容姿は……非常に目立ちます」
「容姿、というよりこの目でしょう?」
私の指摘に、リュンガー伯爵は頷いて答えた。
私は珍しい色違いの瞳だ。
ルヒトゥルス国において、オッドアイは魔力の高さの象徴と言われている。
陛下に尋ねたことはないけれど、おそらく過去の魔法使いも同様にオッドアイだったのだろう。
「王家も、まさか思わないでしょう。あなたを匿う貴族がいる、とは」
「……確かに」
灯台もと暗し、とはよく言ったものだ。
絶対にあり得ない、と思うその思い込みを逆手にとる。
だけど──全てを賭けるには、あまりにも私はリュンガー伯爵を知らなすぎる。
(でも……さっき、リュンガー伯爵は私の魔力封じを壊したわ)
それが露見すれば、彼とて無事では済まされない。
魔法使いの魔封じを壊すなど、国家転覆罪で逮捕されてもおかしくない。
それを、彼はいとも容易く行ってしまった。
その前に彼は私のすることを『応援している』と言っていたので、態度で示して見せたのかもしれない。
それに──
「……どうして、あなたはそこまで親身になってくれるのですか?」
それが、一番気になる。
魔法使いを逃がす、つまりそれは国家転覆罪に当たる。
バレたら、タダでは済まない。
普通、人はリスクを避けるものだろう。
貴族がメリットもなしに危ない橋を渡るとは思えない。
社交界では、思いやりは搾取される一方なのが常だ。
私の言葉に、リュンガー伯爵は驚いた顔をした。
それに何か、予想外のことを口にしたかしら?と首を傾げた。
彼は僅かな沈黙の後、呟くように言った。
「私は、あなたのことを知っていました。あの夜、私はあの会場にいたんです。最初にあれを目撃したのは、私です」
あれがあるからこそ、他国はルヒトゥルス国に侵攻することができない。
だけど、この魔障壁を維持するには莫大な魔力を必要とする。
そのため、魔法使いは日常的に魔障壁に魔力供給を義務づけられるのだ。
体感で、奪われる魔力は全体数の八割程度。
それでも、残りの二割で一般人と同程度なのだから、それだけで魔法使いの魔力の高さ──異常さというものがわかるというものだろう。
(体内から魔力を奪われる感覚は、いつになっても慣れなかった)
不自然に魔力を消費するために、慢性的に体調が悪かった。
ブレスレットを嵌めた右手首は常にどくどくと、うるさく脈打っていた。
幼少期は、あまりにその音──感覚がうるさくて、眠れない時もあったほどだ。
血を吸い上げられる感覚は、採血を思わせた。
ずっと、ずっと嫌だった。
呪いのブレスレット──。
密かに、私が呼んでいた名前だ。
そんな呪いじみたブレスレットが、壊れた……。
呆然としていると、リュンガー伯爵が壊れたブレスレットを拾い上げる。
「……私がなぜ、これを知っているのか気になる、という顔ですね」
いえ、呪いのアイテムを手放せた喜びで茫然自失していただけです。
……とは言えなかった。
実際、どうして彼が魔力封じの存在を知っているのか、気になったから。
(もしかして彼は──)
果たして、私の推測の答えは、彼の口から得られた。
「魔法使いが現れない時は、教会に勤める聖職者が、その任を担います。と言っても、1人あたりの提供量などたかが知れていますがね。それでも、塵も積もれば山となる。今までは……あなたが生まれるまでは、そうして魔障壁を維持してきたのです」
「……やっぱり、リュンガー伯爵は聖職者だったのですね」
「昔の話です」
彼はあっさりと流してしまった。
その様子からして、あまり深く聞かれたくないことなのだろう。
そう察した私も、それ以上聞くことはしなかった。
「まず、今のあなたには選択肢がふたつあります。ひとつめは、今すぐこの場を離脱して、海外に出ること。魔法使いなら、空間魔法を応用すれば、どこにでも行けるでしょう。しかし、この場合、問題点がひとつあります」
「……何でしょう?」
リュンガー伯爵は、得体の知れない人間だ。
元聖職者なのに、今は伯爵という立場になる。彼がどうやってその地位まで上り詰めたかは不明だし、先程の彼の様子からして、あまり楽しい話でも無さそうだ。
そして、伯爵という立場にありながら彼は、私を逃がそうとしている。
ルヒトゥルス国において、魔法使いの重要さを理解した上で、だ。
リュンガー伯爵の声は淡々としていた。
本当に含みなく、ただすべきことをしている、というような──。
「魔障壁の近くには魔力探知機が隙間なく配置されています。まず、それに引っかかるでしょう。その場合、魔力探知機を壊し、追っ手を徹底的に打ちのめす必要がある」
「…………」
「レディ・キャロライン。あなたは、自分の都合で関係の無い人間を傷つけることは出来ない」
「……随分、知ったように話すのですね。あなたとはあまり、お話したことがなかったと思うのですけれど」
「もちろん、私の憶測に過ぎません。ですが、関係の無い人間を次から次に……おそらく、彼らは捨て身で向かってきます。『何としてでもあなたを捕縛しろ』と命令を受けるでしょうからね。殺す覚悟で、足や目を潰さなければならない。…………出来ますか、レディ・キャロライン?」
「……何か、試されてます?」
「まさか」
「なら、その答えはNOですわ。私にはできない」
私の答えに、一瞬リュンガー伯爵はホッとした様子を見せた。
だけどすぐに、真剣な表情でまた話を続ける。
(このひとは、何?何を考えているの……?)
「では、二つ目の選択。これが、先程の私の提案に繋がるのですが──他国に出れない、となると、あなたはほとぼりが冷めるまで、この国で潜伏しなければならない。だけど、そうするにはあなたの容姿は……非常に目立ちます」
「容姿、というよりこの目でしょう?」
私の指摘に、リュンガー伯爵は頷いて答えた。
私は珍しい色違いの瞳だ。
ルヒトゥルス国において、オッドアイは魔力の高さの象徴と言われている。
陛下に尋ねたことはないけれど、おそらく過去の魔法使いも同様にオッドアイだったのだろう。
「王家も、まさか思わないでしょう。あなたを匿う貴族がいる、とは」
「……確かに」
灯台もと暗し、とはよく言ったものだ。
絶対にあり得ない、と思うその思い込みを逆手にとる。
だけど──全てを賭けるには、あまりにも私はリュンガー伯爵を知らなすぎる。
(でも……さっき、リュンガー伯爵は私の魔力封じを壊したわ)
それが露見すれば、彼とて無事では済まされない。
魔法使いの魔封じを壊すなど、国家転覆罪で逮捕されてもおかしくない。
それを、彼はいとも容易く行ってしまった。
その前に彼は私のすることを『応援している』と言っていたので、態度で示して見せたのかもしれない。
それに──
「……どうして、あなたはそこまで親身になってくれるのですか?」
それが、一番気になる。
魔法使いを逃がす、つまりそれは国家転覆罪に当たる。
バレたら、タダでは済まない。
普通、人はリスクを避けるものだろう。
貴族がメリットもなしに危ない橋を渡るとは思えない。
社交界では、思いやりは搾取される一方なのが常だ。
私の言葉に、リュンガー伯爵は驚いた顔をした。
それに何か、予想外のことを口にしたかしら?と首を傾げた。
彼は僅かな沈黙の後、呟くように言った。
「私は、あなたのことを知っていました。あの夜、私はあの会場にいたんです。最初にあれを目撃したのは、私です」
あなたにおすすめの小説
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
妹だけを溺愛したい旦那様は、いらない婚約者の私には出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます
睡蓮
恋愛
貴族令嬢であったリアナに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだオレフィス第一王子。しかしその後、オレフィスはリアナの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はリアナに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたリアナは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)