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しおりを挟む「聖女フェリシア!いや……魔女フェリシアと言うべきか」
目の前の彼が憎々しげに、どこか皮肉げな声音で言う。私はたっているのがやっとで、彼を見た。私を睨みつける、冷たい瞳をーーー。
「何を………何を仰っているのですか。ルーシアス様。わたくしが魔女………?
足が震える。声が上手く出ない、やっとのことで紡いだ声はとても震えていた。知らずして手が震える。指先が細かく震えていて、そんな自分を情けなく思った。冷たい広間。ざわめく人々の声。静かにささやきあう人々の声。それは静かなのにしっかりと私の耳に届いた。
ーーー魔女ですって
ーーーまあ!じゃああの奇跡の力は悪魔のものなの?
ーーー恐ろしいわ。髪だってひととは思えない色合いじゃない
ーーーもののけが化けて人の形をしているのかしら
それは小さな、本当に小さな声なのにしっかりと私の耳に届けてくる。いっそのこと気絶してしまえればと思うほどの重圧だった。視線が、疑心に満ちた感情が、ひっきりなしにぶつかってくる。この場において私の味方は誰もいなかった。
「フェリシア。おまえに弁解の機会を与える。僕の質問にいちから答えよ」
こつん、と靴音が聞こえる。ルーシアスが一歩近づいたのだ。顔をあげればこちらを真っ直ぐに見つめる怜悧な視線があり、思わず息を飲む。
そんな目で見られたことは一度もなかった。今まで、彼の赤い瞳はすごく優しく私を見てくれていた。大切だと、そんな感情を込めた瞳でーーー。それなのに今の彼は、私を悪だと、国に害なす悪賊だと信じて疑わない目で私を見ていた。喉が張り付いたように声が出ない。何をいえばいいのか、何を話せばいいのかすら分からない。
私は魔女じゃない、はずだ。今までは聖女だと呼ばれていた。だけど、特別な力を使うのは魔女なのだろうか?人々に恐れられる、悪しき魔女なのだろうかーーー。
「お前が怪しげな術を使ってから、国に疫病が蔓延した。お前の言う【癒気】の術は、病を治す奇跡的なものではない。むしろ逆ーーー。病を流行らせるための術なのではないか」
その言葉に周りがざわつく。どよめく人々。聞こえる侮蔑の声。罵倒の声。ルーシアスは私に質問という形をとったが、実際それは確定に近いものだった。ルーシアスは私に弁明など求めていない。求めているのは肯定することだけーーー。
ぽろりと、熱いものが零れた。私は、今まで六回殺されている。もっといえばフェリシアという聖女の存在が殺されているのだ。
私の得意術とする【癒気の術】はどんな難病でも治せるというまさに神秘のものだった。ひとたび使えば国中の人々の病を癒すほどの力を持つ。私がそれを知ったのは神託がおり、教会から迎えが来た時のことだった。
私は最初、その恐ろしいまでに完璧な術の力に恐れを抱いた。そんな大層なものを自分で使いこなせるとは思わなかった。だけど、教会の神父様はとても怖い顔で、仰った。
『この術はどんな病でも、何人でも一瞬で治せる奇跡の技だ。だけど…………それを使えば、あなたに関わる全ての人の記憶から、あなたが消える。フェリシアという存在自体が、いなかったものとして認識されるんだ』
愕然とした。私に聖女の神託が降りたのは、私が十三歳の時だった。
私は公爵令嬢である。だけど養子だから両親とは血は繋がっていない。子供のできない公爵夫妻が、家を守るために見繕られた養子縁組。私はとても珍しい見た目をしていた。
水色の髪に緑の瞳。色素が全体的に薄く、手も肌も白い私を、公爵夫妻はとても珍しがった。
孤児院にいた私を目新しさから引き取ったのが公爵夫妻だ。それは、とてもありがたく思っている。
ずっとあの場にいれば、きっと私の行く末は娼婦しかなかっただろうから。店に入るか、自分で客引きをするかの違いくらいしかきっと選べなかっただろう。だから、そう。だから、とても感謝しているのだ。公爵夫妻には…………。
『フェリシアが聖女に!いいでしょう。すぐに契約を結びます』
私が聖女として神託が降りると、すぐに公爵は私を聖女として働かせることを決めた。公爵が決めたことに意義を唱えることなどできなかった。それに、婚約者である彼ーーールーシアス・ベルジュ王太子殿下もそのことをとても喜んだ。
『凄いじゃないか、フェリ!僕はいつかきみがすごいことをするんじゃないかってずっと思っていた。きみが聖女なのか…………!』
嬉嬉として喜ぶルーシアスを見ているとこれが正解だったのだと思うようになった。皆に忘れられても、人を助けられる。これは、私にしか出来ないことだと。知らずうちに私もそう考えるようになった。だけど、次の歳。
14歳の時に、疫病が蔓延した。
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