六回死んだ聖女

ごろごろみかん。

文字の大きさ
3 / 3

3

しおりを挟む


私は不法侵入の罪で捕縛された。
少しして私が公爵家の娘だと証明する書類が見つかった。そのことにより、私は情状酌量。実質のところはこのことの揉み消しにより釈放されるされる運びとなった。

公爵家に戻ると、公爵は得体の知れないものを見る目で言った。

『誰だお前は?私はこんなものは知らん!こんなのは詐欺だ!』

私は何も言えなかった。
つい昨日、私が聖女の仕事をこなすことを喜んでいた公爵は、たった一晩で私を知らぬ人となった。

『こんな娘を引き取った覚えはない。出ていけ!』

それが最後の言葉だった。
私はやはり、何も言えなかった。何か言ったところで嘘だと糾弾されることを知っていた。地下牢に入れられている間、ずっと私は自分の釈明をしていた。聖女として力を使ったから、その代償としてみなの記憶から消えた。懸命に繰り返したけれど、誰一人として私の話を聞いてくれた人はいなかった。

私は家を出され、村外れにひとり暮らすこととなった。生きていくのに不足はない金額を公爵からは与えられていたから生活は苦しくなかった。だけどその生活も長くは続かない。
二回目の神託が降り、私はまたしても聖女としての力を果たすことになった。
私が聖女だと認められると、公爵は打って変わって私を家に呼び戻した。

『お前が言っていたのは本当のことだった。すまないと思っている。だけど許してくれ。あの時は信じることができなかったんだ。お前にもわかるだろう』

公爵の言葉は、なにひとつ響かなかった。
二回目は隣国との争いによって負傷した人々の治癒だった。総勢何千人にものぼる怪我人の治療。もう長くないと言われた人々もその中にはいて、私はまた力を使った。

そしてまた私は忘れられた。
私は人と関わることが恐ろしくなった。全ての人が私を忘れてしまうのだ。それなら関わらない方がいい。言われたことがある。

『聖女として生を受けたのなら、それがお前の運命なのだ』

と。だから、それを受け入れて生きていかねばならないと。
大抵記憶を失った公爵は私を村外れの家に住まわせたが、一度離宮へと監禁されたことがあった。
ルーシアスは一度も私を尋ねてくることはなかった。書類上とはいえ婚約者の彼と、聖女の力を使った以降会うことはなかったのだ。

大丈夫だよ、フェリ。何度きみを忘れたって、僕はまたきみを好きになる。

その言葉を思い出して、信じていた訳でもないのに言葉がこぼれおちた。

「嘘つき…………」

5回目に聖女としての力を使った時。
私は16歳になっていた。

一度、エレメザおばさんと偶然村であった。薬屋を営んでいるエレメザおばさんは村の方までやってきて、定期的に薬を売りに来るらしい。
偶然会ったのだ。つい、見てしまった。私の知っている彼女となにひとつ変わらなかったから。
だけどエレメザおばさんは私をひと目見て、そしてふいと視線を外した。

ーーー当たり前だ。

彼女はもう、私のことなど知らないのだから。彼女の言葉を思い出した。

『あんたはもう私とは会わない方がいい』

その言葉の意味をはっきり知った。

半年もしないうちに村外れの家に騎士が押しかけた。そしてまた、私は聖女として神託を受けた。
今回は工場近くの川から毒素が流れ出し、その水を摂取した人々が次々に死んでいる、というものだった。まただ、と私は思った。
聖女として信託が降りた時だけ、周りは私に親切になる。分かりやすいほどに下手に出た声音に、にこにこと貼り付けられた笑み。三角の目と、口が怖くてたまらなかった。
また、聖女としての力を使ったら私は侵入者となるのだろう。お前は誰だと怒鳴られ、出自を調べられ、公爵に追放される。そして、あの家に戻るのだ。

ーーーもうやめたい。

そう思うことは、悪なのか。救える人を救わないことは、悪なのか。聖女とは一体、何なのか。私はなぜ、聖女なのか。
こんなに苦しいなら。こんなに辛いなら。こんなに殺されるのなら。
いっそ聖女としての力なんかーーー

寿の間で変わらず術を唱えると、しかし室内に張られた湖からはいつものような明るい光は出なかった。これは成功したのだろうか。私にはわからない。だけどまた、私は忘れられているのだろう。私の名前も。存在も。私に関わる全てを。
そう思った時だった。
扉が開け放たれて、厳しい顔をした騎士がいた。燃えるような赤髪だった。その騎士は初めて見た。いつも私を捕らえる騎士より階級が高いことは、胸元の勲章から知った。

「やはりか…………。聖女フェリシア。お前には聖女の力などない」

その言葉に、私は唖然としてしまった。
聖女としての力などいらないーーー。そう願ってしまったからか。私には、もう聖女としての力などないのか。
呆然とする私を置いて、状況はどんどん進んでいった。本当の地獄はここからだった。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

処理中です...