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馬鹿だった私
しおりを挟む馬鹿みたい。
「奥様………?」
冗談じゃない。
「奥様、どうなさりましたか?」
こんな、こんなことで命を落としたなんて…………!
「奥様………?」
許せない!!
***
私の名前はテレスティア・レベーゼ。
熊みたいな大男セレベーク・レベーゼと結婚したので姓が変わったのだ。セレベークは変わった男だった。というより、おそらく人を慮る気持ちが欠如しているのだろう。簡単に言えば無神経。周りを見ない。空気を読まない。人を気遣うことを知らない。ろくでもない男である。いや、ろくでもないは言い過ぎか。でも私にとっては確かに最悪で最低で、嫌悪すべき人間だった。なぜなら私は、死ぬ時でさえ彼に見捨てられたのだから。
彼、セレベーク・レベーゼは騎士団の団長を務めている。私より10程年が上の彼は幼い時より王太子レベルトに忠誠を誓っている。それはいいと思う。私には関係の無いことだし預かり知るところではない。だけど彼は、何を置いても王太子を優先した。初夜のときですらボロ雑巾のように私を扱って放置した挙句登城し王太子の警護。月に数回帰宅はするがその度に道具かと思わんばかりの抱き方で私を抱く。
それでも最初私は彼に歩み寄ろうとしていた。
ーーー私はこの国の人間ではない。
海を挟んだ西の方にあるリベロア王国の人間だ。そこから嫁いできた私にとってこの家で頼れるのはセレベークしかいなかった。だからこそ私は彼と距離を縮めようとしたし彼を知ろうと努力した。それも結局、無意味と化したが。
一年に一回。
王族が一年の労いの意味を込め夜会を開く日がある。聖ボワーズの夜会。それはそう言われていて、その夜会はどの貴族だろうと出席を要される。それで断ると逆に叛意を疑われるのだ。
私とセレベークもそれに参加した。そして、そこで突然の爆発が起きたのだ。夜会から帰る途中のことだった。セレベークは相変わらず大好きな王太子のそばを離れたくないらしく、私を玄関までしか見送らないようだった。それでもかなりの譲歩だ。
周りの目があるからおそらく玄関までは送るのだろうなと私は知っていた。ふたりで玄関ホールまでの階段を降りていた時のこと。どこからから王宮が傾かんばかりの大爆発が起きた。
揺れる足元。立っていられず、縋るようにセレベークの腕に捕まった。
だけど彼は私の手を振り払った。
「レベルト様をお守りしなくては!!」
そう叫んだ彼の目に私は映っていなかった。
私はその時、呆然とした。いや、この場面で普通妻置いていくか??
確かに彼にとって王太子は大切で、忠誠を捧げた相手なのだろう。え、でもこのタイミングで?私はどうすればいい訳?いや置いていくなよ。
ていうか本当に?呆然とする私を置いて、セレベークはそのまますたこらと階段をかけ登ってしまった。は?である。一言言えるならそれしか出てこなかった。驚きすぎて何も言えない私は突然、バランスを崩した。足元の階段が崩れたのである。
視界が反転しーーー浮遊感。
そこで、私の記憶は途切れている。
目が覚めればそこは私の部屋で、今起きたことは夢なのかと思った。しかし足に違和感を感じて見てみればそれは夜会で挫いたはずの捻挫だった。
ーーーあれは夢じゃない
どこかはっきりとした思いで私は思った。何よりも鮮明に覚えすぎている。あれが夢だとするのであれば、なんだ。あれは予知夢なのだろうか?
どちらにせよ私はあの瞬間、私を振り払いどっか消えていった夫への情とかそういうものは消え失せた。今では軽蔑すらしている。緊急事態。妻を振り払い上司の元へ向かう?へぇ、それが紳士のあるべき姿かしら。騎士として鍛えてきたはずなのに大切な中身は伴っていないとか、笑わせるわ。
あの一瞬で私は彼を軽蔑したし失望した。悲しみとか苦しさよりも圧倒的に生理的嫌悪が勝った。こんな人間が私の夫なのかと思うと虫が体をはうような感覚に陥ったのだ。
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