業腹

リベンジ

気がつけば侍女が部屋に入ってきていた。ああ、もう起きる時間なのね。
だけどそれよりも何よりも、私は自分がすべきことを見つけだしていた。今まで、虫がひっそりと生きるように息を潜めて生きてきた。そのせいでさんざんな目にあった。雑草は踏まれてもなおいじらしく生え続けると言うが、人間黙ったままでは状況の改善など見込めない。助けて欲しいのであれば自分から動かないと、助けも求められない。
私は、自分の人差し指にはまる指輪に触れた。忌々しい鎖は他にもある。
これは私を縛るためのものだ。もっといえば、私は人質を取られてここにいる。だからこそ、私は大人しく結婚生活を送るつもりだったのだが、一回死んでわかった。あの男に何を期待しても無駄である。それなら状況をいかにして打破するか考えた方がずっと早い。
バカは死ななければ直らないというが、まさにその通り。私は一度死んで自分を客観的に見ることが出来たのだから。
あんな男に操立てし、信じ、少しでも好かれるように振舞った過去の私。

馬鹿みたい。

「奥様………？」 

あの男のご機嫌取りだけをずっと続け、これからも顔色を伺わなければならないですって？

冗談じゃない。

「奥様、どうなりましたか？」

挙句にはいざと言う時あの男に見捨てられて死んだ。こんな馬鹿な話ってないわ。10人に聞いたら10人が馬鹿な女だね、って笑うもの。

こんな、こんなことで命を落としたなんて…………！

「奥様………？」

許せない！！

私はバッと起き上がると私の顔を覗き込んでいたシェリアを見た。彼女はわたしの侍女である。ただし、距離感はあるが。

「シェリア、今日は何月何日？」

私がすぐさま聞くと、彼女は目を忙しなくぱちぱちさせて、答えた。

「12月の16日でございます、奥様………」

「12月16日ですって！？」

聖ボワーズの夜会まであと1週間しかない！！またあの爆発事故に巻き込まれて死ぬなんてごめんである。しかもあまつさえ、分かっていながらまたあの男に置いていかれるのかと思うと苛立たしさが募る。同じことを何度も経験したい人間なんかいるはずがない。
女なんて道具、妻なんてお飾り、そんなふうに思ってる男と夫婦生活を続けるのも苦痛だがその前にあの爆発事故だ。そもそもあれは何で起きた？

「…………誰かに相談しなければ」

まず、1人で抱え込むには無理がある話だ。
誰か良き理解者がいなければ難しい。私は信頼出来る人間を考える。だけど今までまともに家から出されなかった私が交友関係など結べているはずがない。そもそも社交界では夫に愛されない女として馬鹿にされている私だ。まともな交友関係があるはずがないのよ。

「……そうだ」

王太子補佐のウィリアム様ならどうかしら？
あの方は落ち着いているように見えるし、官司としての成績も非常に優秀だそうだ。以前セレベークが私にそう愚痴を言っていたのを聞いたことがある。セレベークは頭脳派とはとてもいえない筋肉バカだからそういった分野で王太子を支えることが出来ず悔しいのだろう。それはどうでもいいがその怒りを私にぶつけられても困る。あの時の私は彼に萎縮するばかりだった。それも腹立たしい。

私はベッドから起き上がると、自分の黄金色の髪をぶわりと後ろに流した。やることが決まればすぐに行動しないと。何せ時間は一週間しかないのだから。