4 / 17
そこまでやります?
ーーーガバッ
勢いよく私は起き上がった。朝。自室。小鳥の囀る音が聞こえる。扉の外から僅かに人の気配。
ーーー戻った………
もしかしたら、と願ってはいたものの本当に戻れるとは思っていなかった。私は胸を抑えた。バクバク言っている。
「本当に…………戻れたんだわ」
私はそう呟くが、しかし心臓の音はとてもうるさかった。今度は失敗してはならない。行動を誤らないように、慎重にいかなくては。
私は息を整えてベッドから降りた。
サイドテーブルのカレンダーを確認する。12/16。やっぱり一週間前に戻っている。何で戻ったの?どうして、この日なの?
謎は尽きない。だけど時間が無い。私は逸る気持ちを落ち着けて、シェリアのおとずれをまった。
***
まずは内々に動かすのが吉。
いきなり動いても下手に目をつけられるだけだと知った私は夫の部屋に忍び込んだ。夫婦の寝室はほぼ私専用の部屋となっているから、続き部屋からこっそりと入る。体調が悪いからひとりにして欲しいと侍女たちは追い出し、そしてこの時間侍女たちは庭の掃除を始めるはずなので邸内に人は少ない。
夫の部屋を探すには絶好のチャンス。朝食をいただいた私は早速夫の部屋へと入り、そで机から見始めた。だけど基本的に鍵がかかっている。当然だ。鍵開けの職人でもない限りこれを開くのは難しいだろう。そう思いながら私は棚を見た。棚には色とりどりの液体が入った小瓶がある。小瓶には薬の名前がテープで貼られており、私は確かめるようにそれを見た。ほとんどが安眠のための薬だった。そう言えば王太子は最近不眠で悩まされてるんだっけ………。
セレベークと老執事のロイドが話しているのを耳にしたことがある。私は緑色の液体が入った小瓶を持ち上げた。これはかなり使われているようだけど、王太子に献上しているのだろうか?
いやそれなら家にあるのはおかしいわよね。
そう思ってその瓶に貼られた付箋を見る。
「フィネリア」
その言葉には覚えがあった。
思わず強く小瓶を握りしめてそれを見る。
フィネリアの実………それは避妊作用のある毒だ。避妊というよりも流産させる作用があると言った方がいい。それがなんでこんな場所に………。
フィネリアの実の存在を知っていたのは偶然だった。祖国で、少し特殊な環境にあった私だからこそ知っていたのだ。
フィネリアの実は成長しきってしまえばそれは甘い、美味しい果実になる。成長途中で毒は濾過され、相殺されるのだ。だけどまだ青い実の時にすり潰してしまえばそれは立派な劇薬になる。
「………」
これは、成長途中の実?
それともーーー。
なんて答えは、考えなくてもわかった。ふつふつと湧き上がる怒り。
この国では婚姻して二年経過しても子ができなかった場合、機能不全としての離縁が成立する。その場合どちらが問題かは特に重要視されない。なぜなら、その申し出をされた時点で原因があるとされるのは女性側とされるから。
愛人をもつことが許容される男と違い女は恋人を作ればそれは不貞だとそしられる。そのため、子を作る機能が働いているかどうか夫以外で確かめるすべがない。だけど男側は別だ。愛人を許容されている男側は自分の機能不全を確認すために幾人でも女性を抱くことが出来る。
つまり女性は確かめるすべがない。だからこそ、女性が原因だとされがちなのである。
例えそれで男に子が出来なかったとしても可能性はある。
結局のところ男に子ができようができまいが原因は女の方だと暗幕の了解でされがちなのである。
無意識下の認識というか、それが当たり前であるというか。理由はいらない。ただ、この国の人間の認識としてはそれなのである。
私はため息を禁じえなかった。
もしセレベークがそれを承知の上で離縁を申し出ようとしているのならーーー
それは私に責任を押し付けて、私に非を押し付けようとしているのではないか?
本当に子ができない訳ではなく、薬で無理やり子を作らせないようにする。
それなのに非は女性側に押し付けるなんてとんだド屑である。
しかもそれに罪悪感の欠片も抱いていないようなのだからいよいよ人間性を疑う。
それに、夜のときでさえあの傍若無人ぶり。
彼が子を望んでいないのは明白。彼がこれを私に飲ませていたかーーーどうにかして摂取させていたのはほぼ間違いないだろう。そうしてもおかしくない男だ。
私は手が白くなるほどにその緑の小瓶を握った。
「絶対許さない………」
小さく呟いた私は、気を取り直すように息を深く吐いた。やることは沢山ある。こんなことで煩わせられている場合ではない。
私はその小瓶を少量、予備の水差しの中へと入れ替えた。証拠は大切である。握っておかなければ。とはいえこのままにしておいたら液が蒸発してしまう。どこかで小瓶を調達する必要があるわね。
私は太陽が真上に位置しているのを窓から眺めながら、出かける支度をすることにした。
あなたにおすすめの小説
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。