業腹

ごろごろみかん。

文字の大きさ
5 / 17

祖国の人質

しおりを挟む

ウィリアムの一件があってから私はかなり人間不信になっていた。前回は向こう見ずで考え足らずに動いた結果とはいえ、信じていた人間こそが主犯格に近しい人間だと知れば誰しもこうはなると思う。信じられる人は限られている。
私は夫婦の部屋に戻ると、ベルを鳴らした。
しばらくして入ってくるのはシェリアだ。
彼女は祖国からついてきてくれた唯一の侍女。
彼女であれば信じられるーーー。それは目に見えない絆とか、そういうあやふやなものに頼りきっているわけではない。シェリアが私を裏切らないのには、裏切れないのには理由がある。
私はシェリアが入ってきたのを確認すると、ソファに座ったまま彼女に聞いた。

「シェリア、リベロア王国に帰りたい?」

聞くと、シェリアはびくりと肩を跳ねさせた。シェリアは何も言わなかったが、それが何よりの答えだ。

ーーーそうよね。帰りたいわよね。

なぜなら彼女には夫がいる。つい一年前結婚したシェリアだが、私がこちらに嫁ぐにあたり彼とは離れ離れになってしまった。
シェリアに着いてくるよう命令したのは私ではないが、彼女は間違いなく夫を気にしているだろう。それなのに自分の気持ちを隠し、何度となく私を励ましてくれた彼女には感謝している。だけど、信じたい気持ちとは裏腹にもしかしたら彼女も敵なのではないかという不安が胸をよぎる。
だから私は、彼女に持ちかけた。

「あなたをリベロアに戻してあげる。できる限り穏便で、波風立てないやり方で」

シェリアは目を見開いた。言葉を失っている。それはそうだろう。私だって、シェリアの立場になったら何も言えなくなると思う。だけど気丈なシェリアは、ぐ、と唇を噛み締めて重たい声で告げた。

「それは………それは一体、どういうことでしょうか?」

「あなたをリベロア王国に戻してあげるのよ。私は、やりたいことがある。私には目的がある。だから、その目的にあなたも協力して欲しいの」

「それは…………」

「フィリップに会いたくないの?きっと彼も、あなたに会いたがっているわ。だってあなたたち、とても仲良かったじゃないの。………シェリア、私はね。あなたに幸せを返してあげたいのよ。私のせいで失われた幸せを。あなたに、あなたたちに返してあげたい」

私がそう言うと、シェリアは手をぎゅっと握った。きっと彼女は葛藤している。祖国を離れてもなお、人質をとられいつ死んでもおかしくない私の決死の提案に、彼女は悩んでいる。彼女は主人思いの優しい娘だからきっと迷っているのだろう。これにはリスクが伴いすぎている。

私、私はーーー

リベロア王国の王女だった。
第一なのか、第二なのかよく分からない。なぜなら、私たちは双子だったのだから。
生まれた時から共にいる私たちは王宮の奥底にずっと軟禁され、まともに日々を過ごすことすらままならなかった。分かることは彼女が私ととても見目が似ていることと、話し相手は彼女しかいないということ。
双子だと知ったのは随分あとだったけれど、私と彼女はとても仲が良かった。どちらが姉でどちらが妹かと言われると少し困る。
だけどどちらかと言えば昔はよく私の方が泣き、それを彼女が慰めてくれていたからきっと彼女の方が姉なのだろう。
彼女の名前は、セレスティア・リベロア。
リベロア王国に残された、私のための人質だ。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

処理中です...