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大切な情報源
内通者になれ。
それが私に課せられた命令だった。
父が倒れ国の実権を握った叔父は私にそう命令すると、すぐさまこの国へと嫁に出した。
人差し指に付けられたこの指輪は、その時に嵌められたものだ。
溶融指輪
私はこれを呪いの指輪だと思っている。いや、間違いなく呪いの指輪なのだろう。これは指輪をつけたもの同士を魔力でつなげるものだ。そして、お互いの魔力を流し合うことで循環している。
簡単に言えば、どちらかの魔力の供給が途切れば、もう片方が死ぬという代物だ。どう言い繕っても呪いの指輪だと思う。
これを外す方法はひとつしかない。それは、指輪を填めたもの同士が同時に解呪の言を紡ぎながら外すこと。それがズレよう物なら、循環が狂って死ぬ。つまるところ、私とセレスティア。どちらにとってもお互いがお互いの人質なのである。
私が国を裏切れない理由はこれだ。セレスティアとの指輪。これがあるからこそ、私は国を裏切ることが出来ないし叔父もそうだと信じきっている。
だけど、馬鹿みたいじゃない?逃れられない運命にただ絶望して、ただひたすら従うなんて面白くもなんともない。たった一度きりの人生。私に至っては既に3回目だけれどーーー。
自分の人生だ。好きにさせてもらう。
ずっとずっと、国の犬にされるなんて冗談じゃない。あの人の目を思い出す。
ーーー残念だったね。きみたちは失敗作だ
そう言って笑うあの男の顔を思い出す。
絶対に許さない。私は、その憎い男の顔を脳裏に描いては、強く目を瞑って、そして開けた。
「私は、私の運命に抗うと決めたの。どんなに無様でも、みっともなくても、ギリギリまで足掻くわ。きっとそれが、私たちの解放に繋がる一歩だから」
覚悟は決まってる。
セレスティアはあの城から出られない。それならばどうするか?
私が動けばいい。幸い私はこの国での監視はつけられていない。セレスティアに比べれば私はずっと自由だ。
「………姫様」
「かなり危険な賭けだから、無理にとは言わないわ。だけどシェリア。あなたもまた、大切な人の元に帰りたいのなら、協力してほしい。私のために、動いてほしいの」
力強く彼女に言うと、しばらく黙っていた彼女は不意に顔を上げた。覚悟を決めたような顔。力強く私を見るその目を見て、私は彼女の答えを知った。
「貴女のお心のままに」
***
シェリアにとあるお願いごとを一つすると、私は早速自邸の図書室へと向かった。時間が惜しい。僅かな時間すらない。期限は一週間。とはいえ、焦りすぎると前回の二の舞になりかねない。
私は、図書室に入ると貴族図鑑を探した。体調不良だった私がいきなり動き出したことに侍女はどこか困惑していたが、私がこの国の歴史を知りたいと言うと、作ったような笑顔を見せた。
この家の人間は圧倒的なまでに王政派だ。それは家の主が王太子に忠誠をちかっているというのもおおきいのだろう。いや、それ以外に理由はないと思う。この家に王政派が多いのは、それ以外を排除したからか、それとも主に感化されたのかーーー。そのどちらもか。
どちらにせよ、ここにいる間は私もそれに賛同していないと痛い目を見る。そして、侍女たちは仲間にしておいた方が何かと都合がいい。
私は何冊かこの国の歴史に携わる本を持ってきてくれたストロベリーブロンドの彼女に笑いかけた。できるだけ、下手に出て。謙虚な妻を演じる。
「あなた、凄いのね。こんな短時間で本を持ってきてくれるなんて。とても助かるわ、ありがとう」
「………いえ、これがお仕事ですから」
しかしつっけんどんに返す侍女に、私は内心顔がひきつりそうになりながらも彼女に聞いた。
「ねぇ。不勉強で本当に申し訳ないのだけれど………私、王太子様のこと何も知らないのよ。王太子殿下はセレベーク様が仕える唯一の主でしょう?きっと、とっても素晴らしい方なのでしょうね………なのにそれを知らないというのは、勿体ない………いえ、この国に来た意味がないと思うの。ねぇ、お願い。殿下のことーーーそうね、セレベーク様のこと、教えてくださらない?」
今までは大人しく、無口で静かだった私がこうも長く、そして自分から話しかけてきたことに侍女は驚いているようだった。だけど私はダメ押しで困ったような笑みを作り、彼女に聞いた。
「旦那様の妻として、このままじゃ恥ずかしいと思ったの。私、このままじゃダメだわ。セレベーク様に殿下の話を振られても分からないことばかりで………。セレベーク様が仰るのだもの。きっと殿下は素晴らしい方なのよ。そうでしょう?」
言うと、侍女は途端に心酔したように話し出した。かかった。私は笑顔の下に打算を隠して彼女の話を聞くことにした。本当の目当ては貴族図鑑だが、侍女たちとの友好関係を築くのは大切だ。彼女たちはおそらく、私にとって大切な情報源になるのだから。
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