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狂信的な侍女
「そうなの、王太子殿下って本当に素晴らしい方なのね」
「はい!それはもう、一目見れば奥様もお分かりになると思いますわ。あの夜の帷色の髪、蜂蜜のような瞳。それに何より、瞳の中には王家の紋章がございますの!」
すっかり私に気を許した侍女ーーーフォンテーヌは饒舌に語り出した。その6割が王太子への美辞麗句で聞いていて辟易したが、しかしそれ以上に有益な情報を得ることが出来た。例えば侍女との人脈、とか。
私のすすめで同じテーブルについたフォンテーヌと茶髪の気が弱そうな侍女、ライラは先程から驚くほど同じことしか言わない。それに相槌を打つように「素晴らしいですわ」「さすが王太子殿下」「神から遣わされた天使かしら」「王太子殿下がいらっしゃれば国も安泰ね」「流石だわ」「私、感動してしまったわ」などなど………。
途中からはもう面倒で何度となく同じ文句を使っていたが気にされていないところ見ると意外にも上手くいったようだ。
フォンテーヌはこの国ーーーゼロスティーヴァ王国の歴史書のページを手繰りながらどこかぽーっとした様子で話し始めた。
「目の中に王家の紋章がありますの………」
「王家の紋章?」
それは国花ということだろうか。王太子の目には国花が刻まれている?なんだか上手く想像できなくて聞くと、フォンテーヌは首を振った。
「いいえ、この国では代々王家に連なる方にのみ現れる印があるのです。瞳の中に四角が現れますの」
そう言って手で四角を作りながらこちらを見るのはライラだ。私は、へぇ、と思いながら話を聞く。
「王太子殿下もしっかりとその紋様がございまして………それの麗しさと言ったら」
「見たことあるの?」
「いいえ。私のようなものが直接お顔を合わせる機会なんてありませんわ。ですが、噂で。王太子殿下の王家の紋章はとても綺麗だそうで。ああ、一度でいいから見てみたいですわ」
ウットリというフォンテーヌ。
私は、その情報だけを脳裏に刻み込むと、本題へと入ることにした。十分侍女とは打ち解けたような気がする。それにタイミングも完璧だ。私は予め開いてあった貴族図鑑をまさに今気づきましたと言わんばかりの声で彼女たちに尋ねた。
「あら………これ、ウィリアム様ってあの方よね?王太子殿下の側近の………」
開かれているページはウィリアムの生家。レメントリー家の家系図である。私はそれを見ながら不思議そうな声を出した。
「ウィリアム様には弟がいらっしゃるのね?…………だけど、血の繋がりはないの?」
私が不思議そうに言うと、フォンテーヌとライラは二人して渋い顔をした。そしてどこか周りを確認するようにすると小声で話し始める。
「ルアヴィス様ですね。あの方は庶子ですよ、庶子。だからウィリアム様の覚えも悪くって」
「殿下ともあまり仲良くないわよね?」
フォンテーヌの声にライラが訝しむ声を出した。それにフォンテーヌは大きく頷いて答える。
「むしろ、殿下からもやっかまれていると言う話よ」
「嫌な話ね。何をなさったのかしら」
「それにーーー」
二人は完全にそのルアヴィスという男に非があると言わんばかりに話し出した。
確かにこの家には王政派の人間しかいないとは思っていたが、ここまで狂信しているとなると少し背筋が寒くなってくる。あの頭のおかしい夫に影響されたのか、元々そういった人間しか取らなかったのか。どちらにせよ私の本心は隠しておいた方が絶対にいいだろう。
侍女たちは少しすると仕事が残っているからと席を立った。
未だに並べられている本を一瞥すると後で部屋に持っていくよう伝えられた。少し驚く。今まではそんな気遣い、というか私が命じた以上のことはしなかったのに。
驚く私に、フォンテーヌは少し照れたように話した。
「申し訳ありません。私、奥様のこと勘違いしてました」
「ですが奥様のことを知り考えを改めました。私たち、これから誠心誠意お仕えいたしますわ。また今度殿下のお話をいたしましょう。きっと旦那様も喜びます」
そう言ってフォンテーヌとライラが立ち去るのを確認すると、私は思わず詰めていた息を吐き出した。思った以上に疲れたようだった。
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