業腹

ごろごろみかん。

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何者かと聞かれても

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幸運だと思ったり神を消滅させたりと物思いの激しい私ではあるが、それはそれとして私はじっとルアヴィスを見た。
ルアヴィスはどこか焦った様子で私の口を覆っていたが、不意に視線を合わせてきた。

ーーー?

「んんっ!」

無意味にじっと見つめてくるルアヴィスに訝しげな声を上げるがルアヴィスは答えない。それでも私がんーんー言ってると、ルアヴィスが単調な声で告げた。

「あんたは、ここで誰にも会わなかった。俺とも会ったことがないし面識がない。………いいな?」

「んー!?」

何それ!!
勝手に決めつけてくる男に私は抗議の声を上げる。ルアヴィスはその羨ましくなるほどの端正な、切れ長の瞳をそっと逸らした。
視線が外される。そしてルアヴィスは私の口から手を離した。

「んんっ……ぷは!ちょっと、何するのよ!!」

「は?いやなん、」

「突然口抑えて、しかも忘れろですって!?そう簡単にいくと思っているのかしら!?」

すっかり被った猫が消え失せた私はここぞとばかりにルアヴィスに言った。
ルアヴィスは私の声に最初目を見開いていたがやがてハッとしたように自分の口元に人差し指を立てた。

「あまり大声を出すな。人が来たらどうする」

どの口がそれを言っている!!
私はさらに言い返そうとしたが、しかしルアヴィスの瞳に困惑を見つけると口を噤んだ。………困惑してる?どうして……?どうやら演技では無さそうだ。

「あんた、正気か?」

「はぁ?」

険のある声が漏れた。
それにルアヴィスが少し口元をひきつらせながら「正気なんだな」と答える。
正気に決まってる。何よ、急に人を酔狂者扱いするわけ?
私は苛立ちをぶつけるようにルアヴィスを睨む。ルアヴィスは再度私を見た。ルアヴィスの瞳には濃い青色がふたつ折り重なったような模様が浮かんでいる。
確かにこれを隠すのは仮面でないと無理だろう。それにルアヴィスの瞳は色素の薄い空色だからこそ、青の刻印が目立ってしまう。こんなの仮面なしで歩いていればひと目で気づかれてしまうだろう。
彼が王家の血を引くものだということを。

ーーー彼が王族の落胤だということを

王家の紋章というのはそれが濃ければ濃いほど王族だという証明になる、と昼間ライラたちが話していた。だから瞳にくっきり紋章が浮かんでいる王太子は生まれながらの王族なのだとか。
だけどルアヴィスは…………濃いどころの話ではない。四角が、しかも二重に折り重なっている。これはどう言い繕っても王族の証である。

こんなに刻印が濃く出るということは間違いなく血が正統派なのだろう。つまり、ルアヴィスの父親はーーー

「これが効いてないのか」

ぽつりとルアヴィスが呟く。それに思わず私は聞き返していた。

「これ?」

「あんた、何者?俺の能力アビリティが効かなかったのは初めてだ。まさかあんた、俺に寄越された刺客?」

「はぁ?」

今度はこっちが聞き返す番だった。
勝手に色々勘違いしてくれちゃってるルアヴィスに、私はどう答えたものかと頭を悩ませた。

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