〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
52 / 80
第六章:表と裏/嘘と本音

私たち、そんな親密な関係だったっけ?

しおりを挟む
絶句し沈黙する私に、クリストファー殿下は反応が薄いと感じたのだろう。首を傾げ、私を見る。

「あれ?そんなに驚いてないね」

「……すっごく、こころの底から驚いてます」

だって、どうしてこの国の王太子であるクリストファー殿下がここに??

つい最近まで、私はクリストファー殿下の婚約者筆頭候補だった。
だけど、ジュリアンと婚約したのでそれもなくなった。
呆然とする私に対し、クリストファー殿下が楽しげに笑みを見せた。

「そう?なら、計画通りかな」

私は、思案の末、彼に尋ねた。

「殿下は、どうしてこちらに?」

「私も神殿に用事があったんだよ。あなたは、新たな異能制御装身具を求めて来たんだったね。だから、ちょうどいいと思ってさ。それに」

そこでまた、彼が猫のように目を細めて笑った。
何となく、嫌な予感がする。
クリストファー殿下は私の対面のソファに腰を下ろした。

「──面白いことを聞いたものだから」

「はぁ……」

面白いこと?
言葉遊び?
曖昧な返事を返しながらティーカップへと手を伸ばす。
まだほのかに温かい紅茶に口をつけたところ、で。
彼が突然爆弾を投げ込んできた。

「シャーロット。セカンド異能が発現したそうだね」

「ぶふっ!……うっ、んふっ、んん!」

思わず、吹き出しそうになった。
それをすんでのところで堪える。
公爵令嬢たるもの、噎せて咳込む姿は見せたくない。
口元に手を添えて取り繕う。

セカンド異能の発現、それはついさっきのことだ。
なぜそれを、クリストファー殿下が知ってるの。
疑問に思ったが、直ぐにその答えを察した。

神殿には、異能の有無を確認する【看破】の異能所持者が複数いる。
彼らは、視界に入れた相手がどういった異能を持っているかを知ることが出来る。
【看破】の異能持ちは、神殿に仕える神官となるのが国の決まりだ。

恐らく、クリストファー殿下は神官から報告を受けたのだろう。

殿下は優雅に足を組むと、小首を傾げて私を見せた。さすが、王族。そんな仕草も様になる。

「あなたのセカンド異能【こころを読む力読心】はとても稀有なものだ。使いようによっては、国も獲れちゃうかもね?」

……やっぱり。
私の異能の内容まで筒抜けだわ。
どちらにせよ、隠すつもりはなかったから報告の手間が省けたと思えばいい。
私はカップをソーサーに戻して、呆れ混じりに言葉を返す。

「ご冗談を。私にそんな野望はありません」

「うんうん、そうだよね。あなたはそういうひとだ」

クリストファー殿下は満足そうである。
私は胡乱げな視線を彼に向ける。こういうところが、やはり私とは相容れない。分かりにくいひとは苦手だ。

彼は、ひとを食ったような、持って回った言い方をする。
本心はまったく読めない。

そこまで考えて、ハタ、と気がつく。

(本心は……?)

先ほどから、私は彼と何度も目を合わせている。
それなのに、彼のこころの声は聞こえてこない。
瞬いた私に、彼も私の疑問を察したのだろう。

ああ、と鷹揚に頷いた。

「私の異能は【無効化】。だから、あなたの異能は私には効かないんだ」

「無効化?そんな異能があるのですね」

「秘密だよ」

クリストファー殿下がし、とくちびるに人差し指を押し当てる。

「そんな重要機密を、部外者の私に教えてもよろしいのですか?」

「あなたは私の婚約者筆頭候補だったでしょう?部外者なんかではないさ」

「確かに婚約者筆頭候補ではありましたけど……」

私たち、そんな親密な関係だったっけ??

呆然としていると、クリストファー殿下が苦笑した。

私と彼の関係は、婚約者云々、というより、【兄の友人】、【友人の妹】と言ったものに近い。
兄を挟まなければ途端、関係も切れる。そんなうっすい知り合いである。
だからこそ、クリストファー殿下から婚約という単語が出てきて、面食らった。

「あはは、冗談だよ」

「……冗談は、もっと冗談と分かるお顔をして仰ってくださいませ」

ぴしゃりと咎めるように言うが、しかし彼は何食わぬ顔で話を戻す。

「それで、だ。私はね、シャーロット。お使いをしてきたんだよ」

「お使い、ですか?殿下が?」

王太子を使いっ走りにさせるなど一体誰が。

尋ねると、彼が軽く頷いた。

「そう。フェリクスが神殿にいて幸運ラッキーだったね。おかげで、ほら」

そう言って、クリストファー殿下が上着の合わせに手を差し込んで内ポケットから何かを取りだした。
あれは──。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

処理中です...