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第六章:表と裏/嘘と本音
私たち、そんな親密な関係だったっけ?
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絶句し沈黙する私に、クリストファー殿下は反応が薄いと感じたのだろう。首を傾げ、私を見る。
「あれ?そんなに驚いてないね」
「……すっごく、こころの底から驚いてます」
だって、どうしてこの国の王太子であるクリストファー殿下がここに??
つい最近まで、私はクリストファー殿下の婚約者筆頭候補だった。
だけど、ジュリアンと婚約したのでそれもなくなった。
呆然とする私に対し、クリストファー殿下が楽しげに笑みを見せた。
「そう?なら、計画通りかな」
私は、思案の末、彼に尋ねた。
「殿下は、どうしてこちらに?」
「私も神殿に用事があったんだよ。あなたは、新たな異能制御装身具を求めて来たんだったね。だから、ちょうどいいと思ってさ。それに」
そこでまた、彼が猫のように目を細めて笑った。
何となく、嫌な予感がする。
クリストファー殿下は私の対面のソファに腰を下ろした。
「──面白いことを聞いたものだから」
「はぁ……」
面白いこと?
言葉遊び?
曖昧な返事を返しながらティーカップへと手を伸ばす。
まだほのかに温かい紅茶に口をつけたところ、で。
彼が突然爆弾を投げ込んできた。
「シャーロット。セカンド異能が発現したそうだね」
「ぶふっ!……うっ、んふっ、んん!」
思わず、吹き出しそうになった。
それをすんでのところで堪える。
公爵令嬢たるもの、噎せて咳込む姿は見せたくない。
口元に手を添えて取り繕う。
セカンド異能の発現、それはついさっきのことだ。
なぜそれを、クリストファー殿下が知ってるの。
疑問に思ったが、直ぐにその答えを察した。
神殿には、異能の有無を確認する【看破】の異能所持者が複数いる。
彼らは、視界に入れた相手がどういった異能を持っているかを知ることが出来る。
【看破】の異能持ちは、神殿に仕える神官となるのが国の決まりだ。
恐らく、クリストファー殿下は神官から報告を受けたのだろう。
殿下は優雅に足を組むと、小首を傾げて私を見せた。さすが、王族。そんな仕草も様になる。
「あなたのセカンド異能【こころを読む力】はとても稀有なものだ。使いようによっては、国も獲れちゃうかもね?」
……やっぱり。
私の異能の内容まで筒抜けだわ。
どちらにせよ、隠すつもりはなかったから報告の手間が省けたと思えばいい。
私はカップをソーサーに戻して、呆れ混じりに言葉を返す。
「ご冗談を。私にそんな野望はありません」
「うんうん、そうだよね。あなたはそういうひとだ」
クリストファー殿下は満足そうである。
私は胡乱げな視線を彼に向ける。こういうところが、やはり私とは相容れない。分かりにくいひとは苦手だ。
彼は、ひとを食ったような、持って回った言い方をする。
本心はまったく読めない。
そこまで考えて、ハタ、と気がつく。
(本心は……?)
先ほどから、私は彼と何度も目を合わせている。
それなのに、彼のこころの声は聞こえてこない。
瞬いた私に、彼も私の疑問を察したのだろう。
ああ、と鷹揚に頷いた。
「私の異能は【無効化】。だから、あなたの異能は私には効かないんだ」
「無効化?そんな異能があるのですね」
「秘密だよ」
クリストファー殿下がし、とくちびるに人差し指を押し当てる。
「そんな重要機密を、部外者の私に教えてもよろしいのですか?」
「あなたは私の婚約者筆頭候補だったでしょう?部外者なんかではないさ」
「確かに婚約者筆頭候補ではありましたけど……」
私たち、そんな親密な関係だったっけ??
呆然としていると、クリストファー殿下が苦笑した。
私と彼の関係は、婚約者云々、というより、【兄の友人】、【友人の妹】と言ったものに近い。
兄を挟まなければ途端、関係も切れる。そんなうっすい知り合いである。
だからこそ、クリストファー殿下から婚約という単語が出てきて、面食らった。
「あはは、冗談だよ」
「……冗談は、もっと冗談と分かるお顔をして仰ってくださいませ」
ぴしゃりと咎めるように言うが、しかし彼は何食わぬ顔で話を戻す。
「それで、だ。私はね、シャーロット。お使いをしてきたんだよ」
「お使い、ですか?殿下が?」
王太子を使いっ走りにさせるなど一体誰が。
尋ねると、彼が軽く頷いた。
「そう。フェリクスが神殿にいて幸運だったね。おかげで、ほら」
そう言って、クリストファー殿下が上着の合わせに手を差し込んで内ポケットから何かを取りだした。
あれは──。
「あれ?そんなに驚いてないね」
「……すっごく、こころの底から驚いてます」
だって、どうしてこの国の王太子であるクリストファー殿下がここに??
つい最近まで、私はクリストファー殿下の婚約者筆頭候補だった。
だけど、ジュリアンと婚約したのでそれもなくなった。
呆然とする私に対し、クリストファー殿下が楽しげに笑みを見せた。
「そう?なら、計画通りかな」
私は、思案の末、彼に尋ねた。
「殿下は、どうしてこちらに?」
「私も神殿に用事があったんだよ。あなたは、新たな異能制御装身具を求めて来たんだったね。だから、ちょうどいいと思ってさ。それに」
そこでまた、彼が猫のように目を細めて笑った。
何となく、嫌な予感がする。
クリストファー殿下は私の対面のソファに腰を下ろした。
「──面白いことを聞いたものだから」
「はぁ……」
面白いこと?
言葉遊び?
曖昧な返事を返しながらティーカップへと手を伸ばす。
まだほのかに温かい紅茶に口をつけたところ、で。
彼が突然爆弾を投げ込んできた。
「シャーロット。セカンド異能が発現したそうだね」
「ぶふっ!……うっ、んふっ、んん!」
思わず、吹き出しそうになった。
それをすんでのところで堪える。
公爵令嬢たるもの、噎せて咳込む姿は見せたくない。
口元に手を添えて取り繕う。
セカンド異能の発現、それはついさっきのことだ。
なぜそれを、クリストファー殿下が知ってるの。
疑問に思ったが、直ぐにその答えを察した。
神殿には、異能の有無を確認する【看破】の異能所持者が複数いる。
彼らは、視界に入れた相手がどういった異能を持っているかを知ることが出来る。
【看破】の異能持ちは、神殿に仕える神官となるのが国の決まりだ。
恐らく、クリストファー殿下は神官から報告を受けたのだろう。
殿下は優雅に足を組むと、小首を傾げて私を見せた。さすが、王族。そんな仕草も様になる。
「あなたのセカンド異能【こころを読む力】はとても稀有なものだ。使いようによっては、国も獲れちゃうかもね?」
……やっぱり。
私の異能の内容まで筒抜けだわ。
どちらにせよ、隠すつもりはなかったから報告の手間が省けたと思えばいい。
私はカップをソーサーに戻して、呆れ混じりに言葉を返す。
「ご冗談を。私にそんな野望はありません」
「うんうん、そうだよね。あなたはそういうひとだ」
クリストファー殿下は満足そうである。
私は胡乱げな視線を彼に向ける。こういうところが、やはり私とは相容れない。分かりにくいひとは苦手だ。
彼は、ひとを食ったような、持って回った言い方をする。
本心はまったく読めない。
そこまで考えて、ハタ、と気がつく。
(本心は……?)
先ほどから、私は彼と何度も目を合わせている。
それなのに、彼のこころの声は聞こえてこない。
瞬いた私に、彼も私の疑問を察したのだろう。
ああ、と鷹揚に頷いた。
「私の異能は【無効化】。だから、あなたの異能は私には効かないんだ」
「無効化?そんな異能があるのですね」
「秘密だよ」
クリストファー殿下がし、とくちびるに人差し指を押し当てる。
「そんな重要機密を、部外者の私に教えてもよろしいのですか?」
「あなたは私の婚約者筆頭候補だったでしょう?部外者なんかではないさ」
「確かに婚約者筆頭候補ではありましたけど……」
私たち、そんな親密な関係だったっけ??
呆然としていると、クリストファー殿下が苦笑した。
私と彼の関係は、婚約者云々、というより、【兄の友人】、【友人の妹】と言ったものに近い。
兄を挟まなければ途端、関係も切れる。そんなうっすい知り合いである。
だからこそ、クリストファー殿下から婚約という単語が出てきて、面食らった。
「あはは、冗談だよ」
「……冗談は、もっと冗談と分かるお顔をして仰ってくださいませ」
ぴしゃりと咎めるように言うが、しかし彼は何食わぬ顔で話を戻す。
「それで、だ。私はね、シャーロット。お使いをしてきたんだよ」
「お使い、ですか?殿下が?」
王太子を使いっ走りにさせるなど一体誰が。
尋ねると、彼が軽く頷いた。
「そう。フェリクスが神殿にいて幸運だったね。おかげで、ほら」
そう言って、クリストファー殿下が上着の合わせに手を差し込んで内ポケットから何かを取りだした。
あれは──。
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