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第六章:表と裏/嘘と本音
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「異能制御装身具!ですね!?」
今もっとも、私が求めていたものである。
目を輝かせる私に彼がくすりと笑う。
「そう。異能制御装身具は、私とフェリクスの合作だから、ふたりとも揃ってなければ作れない」
「フェリクス……王子殿下ですか?」
フェリクス殿下は、クリストファー殿下の弟君である。
歳は私の四つ上の二十二歳。
クリストファー殿下が鷹揚に頷いた。
「弟の異能は、【異能を付与する力】なんだ。私の異能を、フェリクスがブレスレットに付与して、これは作られているんだ」
「王族の方々が作られているんですね、これ」
これはそう簡単に壊れる代物では無いが、なにか不具合があったらすぐに修理、代替品を用意しなければならない。
その用意&修理を全てふたりでやっているということよね……?
お二方は公務もあるのに、なかなか多忙そうである。
そんなことを考えていると、クリストファー殿下が補足するように言った。
「ちなみにこれはあなたの兄ヘンリーや、ツァーベル公爵子息のリュカも知っていることだ」
「…………」
【ツァーベル公爵子息のリュカ】という単語に、私は僅かに眉を寄せた。
ジュリアンの件があってから、リュカとはまったく顔を合わせていない。私が避けているからだ。
思いがけずその名を聞いて、胸に重たいものが広がる。
結果として、リュカの言葉が正しかったのだ。
だけどそれを素直に認められるほど素直にもなれず、もやもやとした感情が広がっていく。
クリストファー殿下の静かな声が、私を物思いから引き戻した。
「公にしてないだけで、そんなに重要な情報でもないけどね。でもまあ、公表するといろいろめんどうがあるから、伝える相手は絞ってるけれど」
「確かに、そうした方がよろしいですわね。異能制御装身具はそう簡単に複製できるものではありませんけど、悪しき考えを持つ方々にその製造方法を教えるのは悪手だと私も思います」
「類似異能で代用出来ないか、とか考えそうだしね。それが可能かも分からないけれど……。不安要素はないに超したことはないから」
悪事を働きたい人々にとって、未知の力を振るう異能騎士は邪魔な存在だ。
正規の異能制御装身具は取り外しが可能だが、もし取れないように細工されたら。
正規の異能制御装身具は、クリストファー殿下の異能【無効】が付与されているため、細工自体ができないようになっている。だから、そんな問題も今まで起きなかった。だけど、非正規品となると話は別だ。
取り外し不可能な異能制御装身具でも作られてしまったら、それは異能保持者の脅威に繋がる。
製造方法が知られただけでどうにかなるとも思えないが、その可能性を生み出すのがそもそも問題だ、と彼は言いたいのだろう。
全く同意見なので、頷いて答えた。
クリストファー殿下は、手に持っていたブレスレットをまた上着の内ポケットにしまった。
「このブレスレット、最終調整が残ってるんだ。だから、少し待ってもらえるかな。あと一時間もすればあなたに渡せると思う」
「わかりました。──殿下」
ふと、思い立って私は口を開いた。
クリストファー殿下が首を傾げて私を見る。
「ザイガー子爵家の嫡男、ジュリアン様について、なのですけど」
「ああ。あなたの婚約者のね」
それがどうしたの、と言わんばかりの様子で彼は尋ねてきた。
(どうしよう)
言おうか、言うまいか。
迷った挙句、私は、まずは当たり障りないことから話を聞くことにした。
「彼は、どういう方なのですか?」
「それは……あなたの方が詳しいと思うけれど。私は、彼と私的な話をしたことは一切ないからね」
それはそうだろう。
ジュリアン様は王室にツテがない。貴族として顔を合わせたことはあるだろうが、プライベートまで接するほどの関係ではないだろう。
ジュリアンは、偽物の可能性が高い。
本来のザイガー・ジュリアンではないかもしれない。
それが真実なら、早々に報告すべきだと思う。
だけど、それを証明するための確たる証拠はない。
根拠は、彼のこころの声を聞いたから、というものだし、立証が難しい。
こんな曖昧な状況で王太子に伝えるのもどうなのかしら……。
彼はこの国の未来を担う王太子だ。
ただでさえ多忙なのに、いたずらにこの件に巻き込むのは気が咎めた。
悩んでいると、クリストファー殿下が訝しむように目を細めた。
「彼に、何か?」
「…………ジュリアン様と、先程お会いしました。私のセカンド異能が発現したのは、その時です」
結局、私は彼に相談することを選んだ。
セカンド異能が発現したこと、そしてその異能の内容が【こころを読む力】であることを、彼は既に知っている。
もし、ジュリアンが偽物だったならそれは大問題だ。
社交界、神殿、王家を巻き込んだ大騒動となるだろう。そうなった時、確実に私の手に余るのは目に見えている。
このまま黙っていて後でなにか問題事が起きた時に後悔しても遅いのだ。それなら、たとえ誤解や勘違いに終わったとしても相談しておいた方がいい。
そう思って私は先程のことを全て話した。
話を聞いたクリストファー殿下は、険しい顔をしていた。
「ジュリアン・ザイガーが入れ替わっている……?確かに、それまでジュリアンは社交嫌いで有名な男だった。それが突然、社交場に現れるようになって……いや、待て。だとすると」
「彼は、一年前に成り代わった、とそう言っていました。こころの中で」
「一年前。……ちょうど彼が、カントリーハウスからタウンハウスに移動してきた頃か」
「じゃあ──」
今もっとも、私が求めていたものである。
目を輝かせる私に彼がくすりと笑う。
「そう。異能制御装身具は、私とフェリクスの合作だから、ふたりとも揃ってなければ作れない」
「フェリクス……王子殿下ですか?」
フェリクス殿下は、クリストファー殿下の弟君である。
歳は私の四つ上の二十二歳。
クリストファー殿下が鷹揚に頷いた。
「弟の異能は、【異能を付与する力】なんだ。私の異能を、フェリクスがブレスレットに付与して、これは作られているんだ」
「王族の方々が作られているんですね、これ」
これはそう簡単に壊れる代物では無いが、なにか不具合があったらすぐに修理、代替品を用意しなければならない。
その用意&修理を全てふたりでやっているということよね……?
お二方は公務もあるのに、なかなか多忙そうである。
そんなことを考えていると、クリストファー殿下が補足するように言った。
「ちなみにこれはあなたの兄ヘンリーや、ツァーベル公爵子息のリュカも知っていることだ」
「…………」
【ツァーベル公爵子息のリュカ】という単語に、私は僅かに眉を寄せた。
ジュリアンの件があってから、リュカとはまったく顔を合わせていない。私が避けているからだ。
思いがけずその名を聞いて、胸に重たいものが広がる。
結果として、リュカの言葉が正しかったのだ。
だけどそれを素直に認められるほど素直にもなれず、もやもやとした感情が広がっていく。
クリストファー殿下の静かな声が、私を物思いから引き戻した。
「公にしてないだけで、そんなに重要な情報でもないけどね。でもまあ、公表するといろいろめんどうがあるから、伝える相手は絞ってるけれど」
「確かに、そうした方がよろしいですわね。異能制御装身具はそう簡単に複製できるものではありませんけど、悪しき考えを持つ方々にその製造方法を教えるのは悪手だと私も思います」
「類似異能で代用出来ないか、とか考えそうだしね。それが可能かも分からないけれど……。不安要素はないに超したことはないから」
悪事を働きたい人々にとって、未知の力を振るう異能騎士は邪魔な存在だ。
正規の異能制御装身具は取り外しが可能だが、もし取れないように細工されたら。
正規の異能制御装身具は、クリストファー殿下の異能【無効】が付与されているため、細工自体ができないようになっている。だから、そんな問題も今まで起きなかった。だけど、非正規品となると話は別だ。
取り外し不可能な異能制御装身具でも作られてしまったら、それは異能保持者の脅威に繋がる。
製造方法が知られただけでどうにかなるとも思えないが、その可能性を生み出すのがそもそも問題だ、と彼は言いたいのだろう。
全く同意見なので、頷いて答えた。
クリストファー殿下は、手に持っていたブレスレットをまた上着の内ポケットにしまった。
「このブレスレット、最終調整が残ってるんだ。だから、少し待ってもらえるかな。あと一時間もすればあなたに渡せると思う」
「わかりました。──殿下」
ふと、思い立って私は口を開いた。
クリストファー殿下が首を傾げて私を見る。
「ザイガー子爵家の嫡男、ジュリアン様について、なのですけど」
「ああ。あなたの婚約者のね」
それがどうしたの、と言わんばかりの様子で彼は尋ねてきた。
(どうしよう)
言おうか、言うまいか。
迷った挙句、私は、まずは当たり障りないことから話を聞くことにした。
「彼は、どういう方なのですか?」
「それは……あなたの方が詳しいと思うけれど。私は、彼と私的な話をしたことは一切ないからね」
それはそうだろう。
ジュリアン様は王室にツテがない。貴族として顔を合わせたことはあるだろうが、プライベートまで接するほどの関係ではないだろう。
ジュリアンは、偽物の可能性が高い。
本来のザイガー・ジュリアンではないかもしれない。
それが真実なら、早々に報告すべきだと思う。
だけど、それを証明するための確たる証拠はない。
根拠は、彼のこころの声を聞いたから、というものだし、立証が難しい。
こんな曖昧な状況で王太子に伝えるのもどうなのかしら……。
彼はこの国の未来を担う王太子だ。
ただでさえ多忙なのに、いたずらにこの件に巻き込むのは気が咎めた。
悩んでいると、クリストファー殿下が訝しむように目を細めた。
「彼に、何か?」
「…………ジュリアン様と、先程お会いしました。私のセカンド異能が発現したのは、その時です」
結局、私は彼に相談することを選んだ。
セカンド異能が発現したこと、そしてその異能の内容が【こころを読む力】であることを、彼は既に知っている。
もし、ジュリアンが偽物だったならそれは大問題だ。
社交界、神殿、王家を巻き込んだ大騒動となるだろう。そうなった時、確実に私の手に余るのは目に見えている。
このまま黙っていて後でなにか問題事が起きた時に後悔しても遅いのだ。それなら、たとえ誤解や勘違いに終わったとしても相談しておいた方がいい。
そう思って私は先程のことを全て話した。
話を聞いたクリストファー殿下は、険しい顔をしていた。
「ジュリアン・ザイガーが入れ替わっている……?確かに、それまでジュリアンは社交嫌いで有名な男だった。それが突然、社交場に現れるようになって……いや、待て。だとすると」
「彼は、一年前に成り代わった、とそう言っていました。こころの中で」
「一年前。……ちょうど彼が、カントリーハウスからタウンハウスに移動してきた頃か」
「じゃあ──」
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