〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
53 / 80
第六章:表と裏/嘘と本音

調査開始です

しおりを挟む
「異能制御装身具!ですね!?」

今もっとも、私が求めていたものである。
目を輝かせる私に彼がくすりと笑う。

「そう。異能制御装身具これは、私とフェリクスの合作だから、ふたりとも揃ってなければ作れない」

「フェリクス……王子殿下ですか?」

フェリクス殿下は、クリストファー殿下の弟君である。
歳は私の四つ上の二十二歳。
クリストファー殿下が鷹揚に頷いた。

「弟の異能は、【異能を付与する力】なんだ。私の異能を、フェリクスがブレスレットに付与して、これは作られているんだ」

「王族の方々が作られているんですね、これ」

これはそう簡単に壊れる代物では無いが、なにか不具合があったらすぐに修理、代替品を用意しなければならない。
その用意&修理を全てふたりでやっているということよね……?
お二方は公務もあるのに、なかなか多忙そうである。

そんなことを考えていると、クリストファー殿下が補足するように言った。

「ちなみにこれはあなたの兄ヘンリーや、ツァーベル公爵子息のリュカも知っていることだ」

「…………」

【ツァーベル公爵子息のリュカ】という単語に、私は僅かに眉を寄せた。
ジュリアンの件があってから、リュカとはまったく顔を合わせていない。私が避けているからだ。
思いがけずその名を聞いて、胸に重たいものが広がる。
結果として、リュカの言葉が正しかったのだ。
だけどそれを素直に認められるほど素直にもなれず、もやもやとした感情が広がっていく。
クリストファー殿下の静かな声が、私を物思いから引き戻した。

「公にしてないだけで、そんなに重要な情報でもないけどね。でもまあ、公表するといろいろめんどうがあるから、伝える相手は絞ってるけれど」

「確かに、そうした方がよろしいですわね。異能制御装身具これはそう簡単に複製できるものではありませんけど、悪しき考えを持つ方々にその製造方法を教えるのは悪手だと私も思います」

「類似異能で代用出来ないか、とか考えそうだしね。それが可能かも分からないけれど……。不安要素はないに超したことはないから」

悪事を働きたい人々にとって、未知の力を振るう異能騎士は邪魔な存在だ。
正規の異能制御装身具は取り外しが可能だが、もし取れないように細工されたら。
正規の異能制御装身具は、クリストファー殿下の異能【無効】が付与されているため、細工自体ができないようになっている。だから、そんな問題も今まで起きなかった。だけど、非正規品となると話は別だ。
取り外し不可能な異能制御装身具でも作られてしまったら、それは異能保持者の脅威に繋がる。

製造方法が知られただけでどうにかなるとも思えないが、その可能性を生み出すのがそもそも問題だ、と彼は言いたいのだろう。
全く同意見なので、頷いて答えた。

クリストファー殿下は、手に持っていたブレスレットをまた上着の内ポケットにしまった。

「このブレスレット、最終調整が残ってるんだ。だから、少し待ってもらえるかな。あと一時間もすればあなたに渡せると思う」

「わかりました。──殿下」

ふと、思い立って私は口を開いた。
クリストファー殿下が首を傾げて私を見る。

「ザイガー子爵家の嫡男、ジュリアン様について、なのですけど」

「ああ。あなたの婚約者のね」

それがどうしたの、と言わんばかりの様子で彼は尋ねてきた。

(どうしよう)

言おうか、言うまいか。
迷った挙句、私は、まずは当たり障りないことから話を聞くことにした。

「彼は、どういう方なのですか?」

「それは……あなたの方が詳しいと思うけれど。私は、彼と私的な話をしたことは一切ないからね」

それはそうだろう。
ジュリアン様は王室にツテがない。貴族として顔を合わせたことはあるだろうが、プライベートまで接するほどの関係ではないだろう。

ジュリアンは、偽物の可能性が高い。
本来のザイガー・ジュリアンではないかもしれない。

それが真実なら、早々に報告すべきだと思う。

だけど、それを証明するための確たる証拠はない。
根拠は、彼のこころの声を聞いたから、というものだし、立証が難しい。

こんな曖昧な状況で王太子に伝えるのもどうなのかしら……。

彼はこの国の未来を担う王太子だ。
ただでさえ多忙なのに、いたずらにこの件に巻き込むのは気が咎めた。

悩んでいると、クリストファー殿下が訝しむように目を細めた。

「彼に、何か?」

「…………ジュリアン様と、先程お会いしました。私のセカンド異能が発現したのは、その時です」

結局、私は彼に相談することを選んだ。

セカンド異能が発現したこと、そしてその異能の内容が【こころを読む力】であることを、彼は既に知っている。

もし、ジュリアンが偽物だったならそれは大問題だ。
社交界、神殿、王家を巻き込んだ大騒動となるだろう。そうなった時、確実に私の手に余るのは目に見えている。

このまま黙っていて後でなにか問題事が起きた時に後悔しても遅いのだ。それなら、たとえ誤解や勘違いに終わったとしても相談しておいた方がいい。
そう思って私は先程のことを全て話した。

話を聞いたクリストファー殿下は、険しい顔をしていた。

「ジュリアン・ザイガーが入れ替わっている……?確かに、それまでジュリアンは社交嫌いで有名な男だった。それが突然、社交場に現れるようになって……いや、待て。だとすると」

「彼は、一年前に成り代わった、とそう言っていました。こころの中で」

「一年前。……ちょうど彼が、カントリーハウス田舎からタウンハウス王都に移動してきた頃か」

「じゃあ──」
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。 まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。 離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。 今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。 夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。 それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。 お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに…… なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...