〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

文字の大きさ
1 / 61

運命の番

しおりを挟む

 
 
「ごめん、見つけちゃったんだ」
 
 その言葉にティナは目を見開いた。
 彼女の恋人だった男の隣には、まるいクマ耳を伏せてこちらを見上げる少女がいた。
 
「見つけちゃった……って」
 
 まさか。そんな。
 ティナのウサギの耳が動揺を現すように揺れた。男はティナを見ることなく、首の後ろに手をやって、はにかみ笑った。
 
「うん。彼女が、俺の運命の番。俺のΩだよ」
 
 ──運命の番。
 
 それから、ティナの記憶は曖昧だ。
 大通りで別れを告げられたティナと、元恋人のやり取りはいい見世物になったようであちこちから視線を集めた。
 その上、βとαが付き合っていた、その事実に驚いたり、あからさまに白い目を向けてくる者もいた。
 ティナは自分が何を言ったか覚えていない。
 ただ、愛想笑いを浮かべて「おめでとう」とか、そんな言葉を口にしたように思う。
 悲しいくらいに痛々しいティナの姿は、周囲の野次馬の好奇心をさらに煽ったらしかった。
 
「βがαと付き合うとかありえない」「βはβでくっついときなよ」
 
 三人を観察していた獣人が次々に口にする。
 完全に四面楚歌となってしまったティナはいたたまれず逃げるようにその場を後にしたのだった。
 
 
 
 獣人族たちが住まう国、フワロー。
 王都ユールンの大通りで、こっぴどく振られたティナは、きっと明日には有名人になっていることだろう。
 
 彼女は、ティナディア・アメリア。
 十八歳を迎えた兎の獣人族である。
 第二性別はβ。
 
 この国には男女の他に、α、Ω、βの三つの第二性が存在する。
 外の国には第二性がない、というところもあるらしいが、ティナはフワローを出たことがないし、そもそも獣人族だけが住むことの出来るこの国は閉鎖的で他国の情報は全く入ってこない。
 
 第二性の割合は、αが四割、Ωが六割、βが一割未満となり、βが極端に少ない。だが、βの数はさほど重要視されず、何よりも問題集されているのはαとΩの数が釣り合っていないことだった。
 
 αとΩには必ず運命の番、というものが存在するらしい。
 βのティナには知る由もないが、番というのは互いに一目見れば分かるものらしい。運命だ、と。
 
 しかし、αとΩの割合は偏りがあり、数値的に言えばあぶれるΩも出てきてしまう。これを国は危惧した。
 
 Ωはαと番わなければ不定期に訪れる|発情期(ヒート)に苦しみ、不特定多数にフェロモンを振りまいてしまう。
 今は厳重にΩを守る法が整備されていることもあり数は減ったが、昔はそのせいでΩの性被害が耐えなかったと聞く。
 
 Ωとαの数に偏りがあることは、フワロー国で常に議題に上がるほど問題視されている重大事案だ。
 
 運命の番というものがある以上、αはΩが番い、βはβ同士で結ばれるのが推奨され、物語や貴族間の政略結婚もその組み合わせは増え、一般的となっている。
 しかし、運命の番が存在するαとΩは置いておいて──実際のところ、βは数が少なすぎるためになかなか相手が見つからないのが実情だった。
 偶然出会えたとしても、既婚者だったり、同性だったり、はたまたとんでもなく年齢が離れていたり……。

 故郷の村を出て王都にやってきたティナはそうそうに恋人を作ることを諦めて過ごしていたのだが、ある日αの男性に告白され交際することにした、が。
 つい先程、ティナは手酷く振られたのだった。
 運命の番に出会ったから、と。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...