〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

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狐の獣人

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 ティナは、ずいぶん昔の夢を見ていた。
 木漏れ日がこぼれる森の中。
 その中を、幼いティナは泣きながら小さな足音を響かせて歩いていた。さくさくと枯葉を踏む音が響く。
 ティナは生まれつき【要らない子】だから、村人から嫌われていたし、家族にも疎まれていた。村にティナの居場所などなかった。
 生まれてからずっと嫌われていたティナは、嫌われるということに慣れはしたものの、それでも傷つかないわけではなかった。
 白い兎の耳をたれさげて、とめどなくこぼれる涙を擦りながら当てどなく歩く。
 家のすぐ裏手が山に続いていて、ティナは悲しみを受け止めきれなくなるといつもここにきて一人で泣いていたのだ。
 
 そして、その日もこうやって歩いていた。
 ひっくひっく、すんすん、と泣きながらゆっくり歩くティナの耳にがさり、と物音が聞こえてきたのだった。
 
 
 
 
「ん…………?」
 
 頭痛と共にゆっくりと意識が浮上する。
 眩い光が視界に入って、朝を迎えたのだと知る。猛烈に頭が痛い。この頭痛には覚えがある。
 
 (飲みすぎちゃったのかな……)
 
 ティナはゆっくり昨日の記憶を手繰るようにして体を起こしかけて──固まった。
 隣に、ひとの気配を感じたからだ。
 
「………………え?」
 
 ぎしり、固まってどのくらい経っただろう。
 微動だにしない彼女の横で、掠れた声が聞こえてきた。
 
「んん……まぶし、もう朝か……」
 
 その声は、昨日聞いた声に酷似していた。

 (まさか、まさかまさかまさか!)

 焦ったティナが勢いよく振り返ると、そこには眩しさから逃れるためか目元に手の甲を押し当てた青年がいた。
 雪原のような、冷たさすら感じる銀色の髪。
 シーツに溶け込んでしまいそうなくらい、白い肌。
 
 そして──青年は服を着ていなかった。
 
「っ、きゃああああ!」
 
 思わずティナは悲鳴をあげていた。
 そして、自身もまた薄いシュミーズ一枚しか身につけていないことに気がつくとシーツをひったくって体を隠す。
 しかし、シーツを無理にこちらに引っ張ると、当然青年の体はあらわになってしまうわけで。胸元しか見えていなかった彼の白い肌が腹あたりまであらわになり、ますますティナは混乱した。
 ティナは、恋人はいたもののまだ異性と体を重ねたことは無かった。彼女自身、婚前交渉を不安に思っていたというのもあり、相手の男性はそんな彼女の不安を汲み取って無理強いはしなかったのだ。
 そのため、彼女にとって異性の肌を見たのはこの時が初めてだった。慌てふためく彼女の頬は真っ赤に染まり、頬どころか首筋まで真っ赤に染めあげる。

 彼女の劈くような悲鳴で目が覚めたのだろう。
 青年も体を起こす。
 だけど、動く度に肌色がチラチラ見えてティナは気が気ではない。
 最終的に彼女は、シーツに顔を埋めて視界を覆う。
 
「おはよう、ティナ。朝から元気だね」
 
「なっ………ななっ、な、な!!」
 
 もはや何を言えばいいか分からないティナは大混乱して、意味をなさない言葉を繰り返した。
 ティナはうずくまって顔を覆い隠しているから、彼女の背中はあらわになっている。茶金の髪が前面に流れ、あらわになったうなじもまた、かわいそうなくらい真っ赤に染まっていた。
 それを見た青年は僅かに目を細めたものの、未だに混乱のさなかにあるティナを落ち着かせるためか、ベッドをおりた。
 ベッドを下りる音を聞き、ほんの僅かに彼女は平常心を取り戻した。
 
「着替えてくるから、ティナも着替えて。着替えは椅子の背もたれにかけてあるから。俺も着替えてくるね」
 
「………………」
 
「話は、その後しよう?」
 
 その言葉に、ティナは微かに頷いて答えた。
 
 ばたん、と青年が部屋を出ていってようやくそろそろと顔を上げる。
 
 (ここは……どこだろう?どうして私、ここにいるのかな……)
 
 記憶を辿ろうにも、昨日ロレリーナが酒場を後にし、青年と話をしたところまでしか覚えていない。ティナはいつもと変わらず、アルコール度数の低い酒を口にしていたはずだ。

 記憶が無いのも、起きたら知らない場所にいたのも初めての経験で、覚えていない間に何があったのか不安になってしまう。
 ティナの不安を表すように彼女の兎耳はあちこちの角度に忙しなく向きを変えている。周囲の状況把握のためだ。

 ようやくティナは息を吐いた。
 まずは、青年も言う通り服を着てからにしよう。シュミーズ一枚なのはあまりにも心元なかった。
 
 見慣れない部屋は、どこもかしこも真っ白で、彼のようだ。チェストすら白く、花と蔓草のような彫刻が掘られている。
 毛足の長い絨毯も白色だ。靴がないので仕方なくティナは裸足で絨毯に降りると、椅子の背もたれにかかる服を手に取った。
 それは白とピンクのワンピースドレスだった。
 白のワンピースドレスに、胸元から腰にかけてピンクのフリル、腰は同色のリボンで締められている。十八歳が着るにはあまりに可愛すぎるデザインだが、ティナは元々小柄で童顔なのであまり違和感はなかった。

 それより、彼女が気になったのはそのワンピースドレスがとても高価そうなことだ。
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