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βの集まり 2
しおりを挟む「この会には、何の目的で?」
「友達が出来たらと思って……」
ティナは少しだけ恥ずかしくなり、目を伏せた。
自分と同じ目的のひとはどれくらいいるだろうか。ちらりと見た様子では、一緒に参加したほかの二名は男性と楽しげに話していて、ティナが話しかけられる雰囲気ではない。
「ほんとうですか。僕も同じなんです、良かったら少し話しませんか。β同士、話せることもあると思います」
目の前の彼は、アドリオンと言うらしい。
彼に促されて、椅子に座る。
そのまま話しているうちに、ティナは自分の話をしていた。αと付き合っていたが、運命の番が現れて、振られてしまった、と。その話にアドリオンは眉を寄せて同情的な反応をしていたが、やがて言いにくそうに口を開いた。
「実は……僕も似たような経験があります」
「ほんとうですか!」
「僕の場合、相手はΩでした。僕と彼女は愛し合っていたのですが……どうしてもヒートが出てしまって。度々、βの僕ではだめだと言われていたんですが、ある日運命の番に出会って、その日に首を噛んでもらってました」
運命の番になるには、αがΩの首筋を噛む必要がある。そうすることでΩは不特定多数にフェロモンを振り向かずに済むし、ヒートも落ち着くという。だけど、Ωが首を噛まれるということは、首を噛んだ相手に囚われるということ。
運命の番以外に噛まれないようにするため、身分の高いΩは常に首輪をつけ、自己防衛していると聞いた。
目の前の男性は、愛していた女性をαに奪われてしまったのだ。そう思うと、ティナの胸もずきずきと痛む。どうして、運命の番という制度があるのか。なぜ、βはいるのか。ティナには分からない。
「そんな……。αやΩにとっては、やっぱり運命の番は特別なんでしょうか」
「おそらく。あれは、本能だと思います」
(本能……)
ひとが、生きるために睡眠を要し、性欲を抱き、食事をするのと同様ということか。
であれば……。
(ロベートも、あれだけ否定的な意見だったけど……もし、運命の番に出会ったら)
ティナの元恋人のように一瞬にして心を奪われてしまうのだろうか。
ティナの兎の耳が元気をなくし、へにょりと垂れた。それを見たアドリオンは、目を見開いていたが、やがて笑みを浮かべる。
「運命の番について、少し気になることを聞いたんです。良かったらもう少し話しませんか、下の階に行きましょう。ほら、ほかのひとの邪魔になりますし」
アドリオンの言う通り周りを見ると、いつの間にか女性ふたりを中心にして、男性が広がっていた。女性ふたりの関心を買おうとしているのか、向こうの話し合いは白熱しているようだ。
いつの間にか、ティナとアドリオンは集まりであぶれていたようだった。
「長く話していたから、僕たちがまとまってしまったのかと思われたようです」
「え!?」
ティナは驚いた。
アドリオンとは少し話しただけだ。こんな短時間で、男女の関係になったりするものだろうか。困惑するティナに、アドリオンがにやりと笑った。
「異性同士、親しくしているとその気があると見られるのが世間の常ですよ」
「でも私、あなたとは初対面よ?それにほんのすこし世間話を……」
「まあ、僕たちが話していたのは全く色っぽくない話ですが、友人として話してるのだからいいでしょう。では、行きましょうか」
アドリオンの言葉にティナは戸惑ったが、ちらりと背後を振り返ると、誰が女性をデートに誘うかで彼らは競い合っているようだった。ふたりのうち、ひとりの女性は、好みの男性が見つかったのか、隣の男性にしなだれかかっていて、今にもキスしそうな勢いだ。
その色っぽい雰囲気に当てられ、ティナの頬がにわかに熱くなる。
友人探しに会に来たのは、アドリオンとティナくらいのようだった。
ふたりは廊下に出た。
一階も盛り上がっているのか、昼間だと言うのにひとの笑い声が聞こえてきた。
「さっきの話ですが、運命の番ではない相手と添い遂げたいというαやΩも稀にいるそうですよ」
アドリオンの言葉にハッとしてティナは顔を上げた。アドリオンは真剣な顔をしながら、ティナを階段へと誘導した。
「その場合、αやΩ特有のフェロモンに充てられないようにフェロモン相殺剤を摂取しているようです」
「フェロモン相殺剤……?」
聞いたことがない単語だ。
フェロモン抑制剤なら聞いたことがある。Ωがヒートを抑えるために必要な薬だ。番を持たないΩは定期的に訪れるヒートに苦しむことになるため、ヒートが重い人はそれを使用してその期間を凌ぐという。
抑制剤は比較的どこでも手に入れることがあり、ティナの耳にも親しい。
だけど、相殺剤、とは?
耳慣れない単語にティナの眉がよる。
「耳にしたことがないのも当然ですね。あれは違法薬物ですから」
「!」
「当たり前ですね。国はΩとαの婚姻を強く推奨している。常識でさえあるその環境下で、生殖機能に害を及ぼす相殺剤は使用が禁止されて当然です。ですが、番を持ちたくないひとはそういったものを利用します」
「……フェロモンの影響を受けたくないから?」
ティナの答えにアドリオンは頷いて答えた。
階段の踊り場に差し掛かり、ふたりは一階へと目指す。
「そう、αもΩも使用すればフェロモンを感知しなくなる。我々βのようになる──」
んですよ、までティナが聞くことは出来なかった。
突然、三階に続く階段の手すりの影に隠れていた男がティナを後ろから羽交い締めにしたからだ。
「!!」
驚いたティナはとっさに男の腕を外そうとするが、彼女の首に巻き付く腕は太く硬い。小柄で華奢、さらに武術とは程遠かった彼女では必死に力を入れても外すことは叶わなかった。
せめて悲鳴をあげられれば、と口を開けようとするがそれは横から伸びてきた手によって何か、布のようなものを詰め込まれてしまう。
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