〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

文字の大きさ
13 / 61

囲い込み

しおりを挟む

 男たちは驚きにたじろいだようだったが、すぐに相手はひとりということ、そして丈の長い黒のフロックコートに身を包んでなお隠しえない、繊細な雰囲気といかにも喧嘩慣れしてなさそうな、いいところの坊ちゃんの気配を感じとると途端、勢いを取り戻した。
 
「なんだぁ、兄ちゃん。あんたはご招待してないはずなんだがなぁ」
 
 男たちの声に、ティナも彼らの予想外のひとがやってきたのだと知り身をよじる。
 そして、息を飲んだ。
 そこにいたのはロベートだったからだ。
 
 (どうして……?)
 
 ティナは彼にβの集まりがあるということを話はしたものの、彼がここに予定があったという話は聞いていない。なのになぜ、彼は今ここにいるのだろうか。混乱に目を瞬かせるばかりのティナの前で、男たちが荒っぽくロベートの手首を掴み寄せようとして──
 
 逆にその手を掴まれ、顎にその拳を打ち込まれた。その衝撃に男の頭が揺れると、今度はその男に腹に蹴りを食らわせる。途端、男はよろめきとともに後ろにいた男を巻き込んでドタドタと倒れ込んだ。一瞬の事だった。
 男たちは、今目にしたものが信じられなかった。
 上流階級の人間が得てして身につける優雅な身のこなしをしながらも、彼は一切余計な動きなく男ふたりをまとめて地にふせさせたのだ。
 喧嘩慣れしてないどころではない、完全に場馴れした人間の動きだった。
 他の男たちが恐れをなしたように僅かに後退するが、ロベートはそんな男たちには構わず、寝台で未だに伏しているティナを見た。
 
「ティナ、遅くなってごめん」
 
「──」
 
「もう大丈夫だから、安心して」
 
 ティナの目が最大限見開かれた。
 なぜ、彼がここにいるのか。
 どうして、彼がティナを助けるのか。
 全く分からなかったが、先に反応したのはティナではなく男の一人だった。
 
「おい兄ちゃん、そんな舐めた態度取っていいのか?こっちはまだ四人、対してあんたはひとりだ!」
 
 男がせせら笑うように言うと、ロベートの薄緑の瞳が剣呑に光った。瞳を細めると、抜き身の刃のごとく絶対零度の冷たさを醸し出す。
 ロベートは答えることなく、転び、気を失っている男のひとりからナイフを奪うとおもむろにそれを投擲した。
 そのナイフは真っ直ぐに線を描き対面していた男の太ももに突き刺さる。男が悲鳴をあげてすぐ、彼は男に肉薄すると足払いをしかけ、バランスを崩した男の胸ぐらをつかみ首を腕で締め上げる。その間、わずか数秒にも満たない。
 あっという間に男の意識が落ちると今度は後ろから切りかかってきた男の腹を蹴り上げ、逆に剣の柄をつかみ、奪い取る。
 そして、薙ぎ払うように男の胸から腰にかけて袈裟斬りすると、その返り手で残る男の首を切り落とした。
 残酷なまでに容赦のない動きに、残る一人、アドリオンはすかさず逃げようとした。しかし足払いをかけられ、転んでしまう。
 しかしすぐに起き上がり逃れようとした男の背中をロベートが踏みつけた。途端、アドリオンは手足をばたつかせ、必死に抵抗をする。
 
「お願いだ!離してくれ、僕は脅されただけなんだ!」
 
「………」
 
「信じてくれ、ほんとうだ!!」
 
 悲痛な声を出し、逃れようとするアドリオンを冷たい目で見下ろしていたロベートだったが、返答をするつもりはないようで、彼はアドリオンの首裏を靴のかかとで蹴りあげると、あっさりと彼の意識を刈り取った。
 
「………」
 
 あっという間、ものの数分もしないうちに室内の男全員を伸してしまったロベートに、ティナはぽかんとしていた。
 現実味がなさすぎる。ロベートはアドリオンが気を失うと、フロックコートの裾を払って、やがてこちらに視線を向けた。
 咄嗟に、ティナの体がびくりと震えた。彼はティナを害さない。彼は彼女を助けに来てくれたのだから。頭ではわかっていても、目の前で繰り広げられた、一切の容赦のない暴力は否応なく彼女を怯えさせた。
 
「……ごめん、嫌なものを見せたね。長引かないようにしたのが仇になっちゃったかな」
 
 しかし、ロベートの寂しそうな苦笑を聞いてすぐにティナは首を振った。
 
「ううん、あの……ありがとう、ロベート。どうしてここに……?」
 
 おずおずとティナが彼に言うと、ロベートはゆっくり寝台に膝を乗せて、彼女の前に座った。
 そして、彼女の後ろに手を回して、縛られた手を解こうとしてくれている。
 
「ぐうぜんこの近くに用があってね、もうそろそろティナの集まりも終わるかなと思ってきてみたら、βの男がきみを探していた」
 
「βの男の人……?」
 
 思い当たる節がなくティナが首を傾げると、ぱら、と軽やかな音がして彼女の手の拘束が解けた。どうやら細い紐で彼女の手首は縛られていたようだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...