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不在の間 *
しおりを挟む二度目の夜は、思ったよりも後だった。
あの時の強引さが嘘のように彼は彼女に紳士的に接したし、帰り際も彼女の家の前に着くと、すぐに彼は帰ってしまった。
それに物足りなさを覚えたのは、ティナの方だった。
それから数日が経過して。
今日も家の前まで彼女を送り届けると、珍しく彼は彼女を呼び止めた。
「ティナ、少しいいかな」
「どうしたの?」
彼女が尋ねると、ロベートは少し言いにくそうにしながらもやがて話を切り出した。
「実は、しばらく王都を離れることになった」
「……え」
思わぬ言葉に、ティナは目を見開いた。
驚く彼女に、ロベートは眉を寄せ、言葉を選ぶようにしながら説明した。
「どうしても外せない用事──仕事があって。一週間……二週間かかるかもしれない。言うのが遅くなってごめん」
もっとも、急務が発生したのがつい先程なので、これ以上早く彼女に知らせることは無理だったが。
ロベートの言葉に彼女はしばらく黙り、事情を飲み込もうと忙しなく思考をめぐらせた。
「……危ないこと?」
そして、ようやく出てきた言葉は彼の安全を確かめるものだった。
ロベートはその言葉に目を見開いたものの、すぐに緩んだ笑みを見せる。
彼を見ていると、ロレリーナの言っていた『氷の王子』というあだ名がとうてい信じられず、ティナは混乱する。
「んー……多少はね。でも、慣れているから安心して。それよりティナ、明日から俺はきみを送れなくなってしまうけど、俺の部下がきみを護衛する。心配はいらない」
そんな心配はしていない。
彼女はそう言おうと思ったが、ふと、彼が明日から不在になるのだということを今知った。
今日別れたら、もう二週間近く会えなくなるのだ。突然のことに彼女は動揺したし、不安にもなった。
危険はないのかと尋ねた彼女に『多少は』と答えたということは、少なからず危ないことなのだろう。
彼女が彼を止めることは出来ない。ティナも行かないで欲しいと言うことはしなかった。
ただ、その代わりに。
「……ティナ?」
彼女の手が、そっと彼の黒のフロックコートの裾を掴んだ。言葉よりも如実に伝わる彼女の気持ちに、彼は苦笑した。
「……少し、家に上がってもいい?」
彼の言葉に、彼女はこくりと頷いて答えた。
そして、彼にちいさな、ほんとうにちいさな声で伝えた。
「少し……じゃ嫌。あなたの時間が許すなら……朝まで一緒にいて、ほしいわ」
蚊の鳴くような声だったが、夜ということで静かなのもあり、その声ははっきり彼に聞こえたらしい。
彼は驚いたように目を見開いたが、すぐにそのまなじりが赤くなる。
彼はなにか言おうと口を開くが、結局言葉にならず、口を手で覆う。
視線を逸らし、言葉に迷うように呻いたロベートは結局、そっと彼女を優しく抱き寄せたのだった。
「……優しくする」
短い言葉だったけど、彼の熱を帯びた声にティナはほっと息を吐いた。
二度目の交わりは、一度目の時のように優しかったが、少しだけ違うところもあった。
初めての時のように、彼女の体は彼を警戒しなかったし、その肌は彼の指先に安心したように素直に快楽だけを拾った。
ベッドに寝かされて、天井を視界に収めながら、彼女はロベートを見つめた。
彼女と視線が交わると、彼は熱っぽい目で笑った。
口付けを落として、ようやく彼の熱が彼女の太ももに触れる。
今日は、以前可愛がられた秘芽だけで三度達している。初めての時よりも落ち着いて快楽を受け入れることが出来たが、達してしまうととても疲れてしまうことを彼女は初めて知った。
まだまだ寒い夜なのに、体はすっかり熱を帯び、肌はしっとりと汗で濡れていた。
彼もこの前とは違い服を脱ぎ、互いに裸の肌を合わせた。
彼とひとつになるこの行為は、まだ慣れないことばかりだけど、それでも彼女に安心感をもたらした。快楽だけを追う行為とは違い、彼と肌を触れ合わせるのは彼女に満ち足りるような充足感をもたらした。
彼の熱がゆっくりと入り込む。
以前のような痛みはなかった。
だけどやはり、圧迫感は拭えず、ティナは呻いた。
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