51 / 61
花嫁になる前に
しおりを挟むその時のことを思い出すとロレリーナは少しだけ面白くなる。
招待客のリストを眺めながらつい先日の出来事を思い出していて彼女は、貴族名簿の書き取りに専念していたティナに声をかけられた。
「ロレリーナ、ここまで終わったわ」
彼女の指示通り、ティナは貴族のフルネームを必要回数書き終えていた。
「よろしい。では、軽くテストといきましょうか」
***
ロベートは結婚の報告と共に、先日のβの集まりを発端に違法犯罪者一味を一網打尽にした件について詳細を報せるために、彼は謁見の間へと向かった。
玉座の間には、父王だけが彼を待っていた。
ロベートの携わる仕事はだいたいが国の暗部に関わるもので、大臣や宰相の前で公に話せるものでは無い。
そのため、報告の内容に応じて父王のみだったり、王太子や宰相が揃うこともある。
今回は、父王のみのようだ。
「西の辺境に根付いていた犯罪組織は、大多数を捕縛し、辺境伯領の要塞内の牢獄に収監しています。辺境伯の名の元、監視をつけているようですので脱獄は不可能かと」
「予め聞いていたとおりだな。楽にせよ」
「は」
「……して、ロベートよ。ここからは王と臣下ではなく、父と息子として話そうと思う」
「……」
「お前が、近々結婚すると私に連絡を寄越した時は腰を抜かすかと思った。口説いてから相談しなさいと私は言ったはずだが」
ティナを口説いた後に、父王の説得に当たっていては彼女との結婚がますます遅くなるばかりだ。
彼は跪いたまま、柳眉を寄せた。
「……お言葉ですが、陛下は、口説いてからでないと話を聞かないと仰っておりました。必要最低限のマナー、教養、知識は身につけろとも」
「……そうだったな」
疲れたように父王はため気を吐いた。
そして気を揉むようにあごひげをなぞる。
「ディズアード家の娘が先日、とつぜん結婚を結んだようだが」
「それはおめでたいことですね」
「……ロベート」
父王が咎めるように言うと、彼は肩を竦めた。
「彼女自身、まんざらでもなかったそうですよ。強姦でもあるまいし、互いに合意で、なおかつ初めてでもなく複数回楽しんでいたとなれば何も問題ないのでは?」
ロベートにとって、結婚式に現れティナに多大なる精神的負荷をかけると思われるエレネディア・ディズアード元公爵令嬢は、何があっても潰しておきたい火種だった。
そのため、彼女に想いを寄せる貴族の息子を使い、彼女を誘惑させたのだが──
彼女を口説いている途中で偶発的にヒートを引き起こしてしまったのだろう。そのまま、なし崩しに性行為にもつれこみ、その場で彼女の首を噛んだと聞いている。
彼女が手ずから首輪を外し、首を噛ませたというのだから合意以外のなにものでもないだろう。
たしかに男をけしかけたのはロベートだが、そのあとの一切に彼は関与していない。
思わぬ展開に転がったことに、想像以上の成果だと思いはしたが。
父王も、ロベートが彼らの関係になにか手を下したりという報告は入らなかったのだろう。
ロベートはただ、恋に悩める青年の背を押しただけだ。
父王はため息を吐き、あきらめたようだった。
「それで、相手の娘は」
「……」
「相手の娘は、お前を愛してくれそうなのか」
そこで父王は、王ではなく父としての顔で彼を見た。
ティナディア・アメリアという兎の獣人は、すこし引っ込み思案で、奥手な娘だと報告を受けている。王子の妻になるには強さが足りない。
だが、それ以上に父王が懸念したのは、彼女が息子を愛しているのか、ということだった。
無理強いしていないか、強制的な結婚では無いのか。
眼光鋭く父親に見据えられたロベートは、そこで初めて柔らかい笑みを浮かべた。
「彼女は私を愛してくれていますよ。……ですがそれ以上に私の方が、彼女を強く想っています」
「……そうか」
父王はその言葉に、どこか懐古するような表情をうかべる。
思えば、この息子は昔からひねくれ、この世の全てが敵だと思い込んでいるような節があった。
ただ、彼が狐の獣人として生を受けただけだ。
父王も王妃もバルトロと変わらず愛してきたつもりだが、それでも彼の孤独を癒すには足りなかったのだろう。
彼が狐の獣人だからという理由で血筋すら疑われ、不義の王子──いや、もしかしたら王子と呼ばれる立場にすらないのかもしれない、と物心ついた時から彼は言われ続けたのだ。
ロベートが成長するにつれ、他者を一切信用しない、冷たい瞳を持つようになるのを父王は近くで見ていた。
それだけに、父王も王妃も案じていたのだ。
彼の将来を。
息子が、誰かを愛せるようになり、愛されるようになれば、と。願わずにはいられなかった。
「私と王妃のように仲睦まじくするように」
それは、王がロベートとティナの結婚を認める言葉だった。
ロベートは頭を下げると、一言、息子として発言した。
「父上と母上は、昔から私の憧れの夫婦です」
久しぶりに──ほんとうに、いつぶりだろうか。
ロベートが、父王を『陛下』ではなく『父上』と呼んだのは。
父王は目を細めて、笑みを浮かべた。
44
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる