〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

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花嫁になる前に

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 その時のことを思い出すとロレリーナは少しだけ面白くなる。
 招待客のリストを眺めながらつい先日の出来事を思い出していて彼女は、貴族名簿の書き取りに専念していたティナに声をかけられた。
 
「ロレリーナ、ここまで終わったわ」
 
 彼女の指示通り、ティナは貴族のフルネームを必要回数書き終えていた。
 
「よろしい。では、軽くテストといきましょうか」
 
 
 
 ***
 
 
 ロベートは結婚の報告と共に、先日のβの集まりを発端に違法犯罪者一味を一網打尽にした件について詳細を報せるために、彼は謁見の間へと向かった。
 玉座の間には、父王だけが彼を待っていた。
 ロベートの携わる仕事はだいたいが国の暗部に関わるもので、大臣や宰相の前で公に話せるものでは無い。
 そのため、報告の内容に応じて父王のみだったり、王太子や宰相が揃うこともある。
 今回は、父王のみのようだ。
 
「西の辺境に根付いていた犯罪組織は、大多数を捕縛し、辺境伯領の要塞内の牢獄に収監しています。辺境伯の名の元、監視をつけているようですので脱獄は不可能かと」
 
「予め聞いていたとおりだな。楽にせよ」
 
「は」
 
「……して、ロベートよ。ここからは王と臣下ではなく、父と息子として話そうと思う」
  
「……」
 
「お前が、近々結婚すると私に連絡を寄越した時は腰を抜かすかと思った。口説いてから相談しなさいと私は言ったはずだが」
 
 ティナを口説いた後に、父王の説得に当たっていては彼女との結婚がますます遅くなるばかりだ。
 彼は跪いたまま、柳眉を寄せた。
 
「……お言葉ですが、陛下は、口説いてからでないと話を聞かないと仰っておりました。必要最低限のマナー、教養、知識は身につけろとも」
 
「……そうだったな」
 
 疲れたように父王はため気を吐いた。
 そして気を揉むようにあごひげをなぞる。
 
「ディズアード家の娘が先日、とつぜん結婚を結んだようだが」
 
「それはおめでたいことですね」
 
「……ロベート」
 
 父王が咎めるように言うと、彼は肩を竦めた。
 
「彼女自身、まんざらでもなかったそうですよ。強姦でもあるまいし、互いに合意で、なおかつ初めてでもなく複数回楽しんでいたとなれば何も問題ないのでは?」
 
 ロベートにとって、結婚式に現れティナに多大なる精神的負荷をかけると思われるエレネディア・ディズアード元公爵令嬢は、何があっても潰しておきたい火種だった。
 そのため、彼女に想いを寄せる貴族の息子を使い、彼女を誘惑させたのだが──
 彼女を口説いている途中で偶発的にヒートを引き起こしてしまったのだろう。そのまま、なし崩しに性行為にもつれこみ、その場で彼女の首を噛んだと聞いている。
 彼女が手ずから首輪を外し、首を噛ませたというのだから合意以外のなにものでもないだろう。
 たしかに男をけしかけたのはロベートだが、そのあとの一切に彼は関与していない。
 思わぬ展開に転がったことに、想像以上の成果だと思いはしたが。
 
 父王も、ロベートが彼らの関係になにか手を下したりという報告は入らなかったのだろう。
 
 ロベートはただ、恋に悩める青年・・・・・・・の背を押しただけ・・・・・・・・だ。
 
 父王はため息を吐き、あきらめたようだった。
 
「それで、相手の娘は」
 
「……」
 
「相手の娘は、お前を愛してくれそうなのか」
 
 そこで父王は、王ではなく父としての顔で彼を見た。
 ティナディア・アメリアという兎の獣人は、すこし引っ込み思案で、奥手な娘だと報告を受けている。王子の妻になるには強さが足りない。
 だが、それ以上に父王が懸念したのは、彼女が息子を愛しているのか、ということだった。
 無理強いしていないか、強制的な結婚では無いのか。
 眼光鋭く父親に見据えられたロベートは、そこで初めて柔らかい笑みを浮かべた。
 
「彼女は私を愛してくれていますよ。……ですがそれ以上に私の方が、彼女を強く想っています」
 
「……そうか」
 
 父王はその言葉に、どこか懐古するような表情をうかべる。
 思えば、この息子は昔からひねくれ、この世の全てが敵だと思い込んでいるような節があった。
 
 ただ、彼が狐の獣人として生を受けただけだ。
 父王も王妃もバルトロと変わらず愛してきたつもりだが、それでも彼の孤独を癒すには足りなかったのだろう。
 
 彼が狐の獣人だからという理由で血筋すら疑われ、不義の王子──いや、もしかしたら王子と呼ばれる立場にすらないのかもしれない、と物心ついた時から彼は言われ続けたのだ。
 
 ロベートが成長するにつれ、他者を一切信用しない、冷たい瞳を持つようになるのを父王は近くで見ていた。
 それだけに、父王も王妃も案じていたのだ。
 彼の将来を。
 息子が、誰かを愛せるようになり、愛されるようになれば、と。願わずにはいられなかった。
 
「私と王妃のように仲睦まじくするように」
 
 それは、王がロベートとティナの結婚を認める言葉だった。
 ロベートは頭を下げると、一言、息子として発言した。
 
「父上と母上は、昔から私の憧れの夫婦です」
 
 久しぶりに──ほんとうに、いつぶりだろうか。
 ロベートが、父王を『陛下』ではなく『父上』と呼んだのは。
 父王は目を細めて、笑みを浮かべた。
 
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