〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

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約束の誓い

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 アドオリオン・オーガスターについては書類上彼の手によって処分したことになっている。
 書類上は。
 しかし、実際のところは違っていた。
 彼はアドリオンを手早く薬漬けにし、まともに思考できないようにさせると、小さなボートに乗せ、彼らの商談の地として恒常的に使用されていた岩礁にローブでくくりつけ放置してきた。
 部下に近くに潜ませて様子を伺わせたところ、深夜遅くに海外船と見られる船がやってきて、ボートに転がされたアドリオンを引き上げていった、とのことだった。
 アドリオンの頬には黒ペンキでメッセージを残しておいた。
 
 『フワローから手をひけ』
 
 言語は、海外で一般的に使用されるものを選んだ。
 
 王家が所有する禁書には、海外の文字が記された本も残されている。
 フワローは海外との交流を一切断っている島国だが、フワローは海外各地に自国のスパイを紛れ込ませている。
 とはいえ、耳と尻尾は隠しようがないのでかなり危険であることに違いないのだが、中には海外で子を作り戻ってくる者もいる。
 人間と獣人の子は、半獣人となり獣の耳がある代わりに尻尾が無かったり、尻尾がないかわりに獣の耳があったり、とそれぞれだ。
 その半獣人をさらにスパイとして他国に潜らせて、結果、フワローは各地の情報を入手するのに成功しているのだった。
 
 薬漬けにしておいたので、アドリオンが余計な情報を口にすることはないだろう。
 今までさんざん、同じ性別であるということを理由にβの獣人の油断を誘い、αやΩと結託してβを売り飛ばしてきたのだ。
 彼もまた、身をもって知るべきだろう。その罪を。
 
 
 ***
 
 
 ティナの花嫁準備は着実に整いつつあった。
 ロベートは半年という期間を設けたものの、正直ぎりぎりのラインだ。
 ティナには覚えることが多すぎて、無理を押して半年……で間に合うかどうか。
 彼は必要最低限で構わないと話すが、彼女の無知のせいで彼に恥をかかすことだけは避けたい。
 
 半年も過ぎれば付け焼き刃とはいえ、令嬢然とした振る舞いを身につけることが出来た。
 見られる程度にはその立ち居振る舞いは認められ、ロレリーナからの合格も貰うことが出来た。
 
 知識──貴族の名前、さらには社会的地位だとか、その背景だとか、交友関係まではさすがに全て入り切らなかった。
 彼女の頭の中は常にパニック状態で、アーロン伯爵とウェロン未亡人がごちゃごちゃになる始末だ。
 
 夜、本日習った分の復習となかなか覚えきれないポイントを紙にまとめていた彼女は、ロベートに声をかけられた。
 
「ティナ、まだ寝ない?」
 
 ティナは手を止めて振り返った。
 いつの間に部屋に戻ってきていたのか、ロベートは入浴も終えているようで寝巻き姿だった。
 
「ごめんなさい。あと少しだから」
 
「……俺は、きみに無理をさせるために結婚したいんじゃない。無理はしないで」
 
 彼が、寄り添うようにティナの隣に立った。
 彼女の手元の紙は、黒のインクで一面が埋まりそうなほど様々な単語が記されている。
 その文字も、最初に比べればじゅうぶん上達した。
 今の彼女なら、手ずから招待状を書いて送っても問題ないだろう。
 
「無理……は」
 
「無理、してるでしょう」
 
 彼の指が彼女の頬に触れた。
 彼女はここ数ヶ月、寝る間も惜しんで机に向かっていたので寝不足だ。
 目の下はうすらと黒くなっていた。
 
「……無理はしてるかもしれない。でも」
 
 ティナは顔を上げた。
 彼女は今、頑張りたかった。
 自身が彼の妻となるには、足りてないものがあまりにも多すぎる。
 ティナはそれを自覚していたからこそ、頑張りたいと思っていた。自分がどんなに頑張ったところで、こんな短期間では付け焼き刃にしかならない。分かっていても、じっとしていることは出来なかった。
 
「私は、あなたの奥さんになりたいの。だから、頑張るの。私、昔から根性はあるのよ」
 
 村にいた頃、崖から突き落とされても、川に落とされても、ごみを投げつけられても、髪を無惨に切られても、八つ当たりに殴られ、蹴られても。
 ティナはまっすぐ前を向いてきた。
 くじけることはしなかった。
 それでも泣いてしまうことはあったけど、泣いたら顔を上げて、頑張ろうと気合を入れてきたのだ。
 頑張ることは、ティナの数少ない特技のひとつでもある。
 彼女はぐっと拳を握って彼を見る。
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