悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。

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離縁いたしましょう

「……もう一度、言ってください」

我ながら、こんなに硬い声が出るのだと自分自身少し驚いた。ジェラルド様は、私の険しい声に気付くことなく、機嫌よく言った。

「だから、言ったんだ。……初夜のやり直しをしてやってもいい、と」

「本気ですか?」

「僕が嘘を言うとでも?」

──私たちは、夫婦ではあるが、初夜を果たしていなかった。
理由は簡単。ジェラルド様が拒否したからである。

『勘違いするな。家のためにお前と結婚してやったが、僕の愛はフローレンスにある。今から僕は、フローレンスのところに行く』

と宣言したのだ。
彼のことを愛していたわけではないが、それでも夫婦となった以上、覚悟はしていた。
だからこそ、私は彼の言葉に拍子抜けしたのだ。彼は、呆然とする私を見て、悲しんでいると思ったのか、さらに愉快そうに言った。

『僕がお前を愛することはない。くれぐれも、それを忘れるなよ』

──と。
それを、彼は忘れたのだろうか。

 部屋に戻り、目的のものを鞘から取り出した直後のことだった。彼が、部屋を訪れたのは。

早朝の訪問といい、夜遅くの訪問といい、彼は『訪ねるのに適した時間』が分からないのだろうか。少なくとも、あと数十分ほどで日付が変わるという今の時間が訪問に向かないことくらいは分かっていると思うのだけど。

無理に部屋に押し入ってきたジェラルド様は、室内の様子を確認してから、言ったのだ。

『初夜のやり直しをしてやる』と。

私は、頭の痛くなる思いだった。
確かに、彼と結婚生活を続けるなら、子供は必要だ。次の代を担う子を産めなければ、この結婚の意味がなくなる。フローレンス様の子を養子にすることは可能だが、それをするにはあまりにリスキーだった。

結婚直後は、それに悩んだこともあった。
だけど今は──。

「……がっかりですよ、ジェラルド様」

私は静かに彼に言った。
ジェラルド様は、私に何を言われたのかよく理解していないようで、きょとんとしている。
彼がなぜ、突然その気になったのかはわからない。周囲がうるさいから、とりあえず初夜だけは済ませておこうという考えだろうか。
だとしても、なぜ今。

どちらにせよ、私の答えは。

「あなたは、フローレンス様を愛していると言った。あなたにとって、その愛こそが生きる意味で、生きる目的になったから、と」

以前、私に言った言葉をそのまま口にすると、ジェラルド様はあからさまに狼狽えた。フローレンス様のことを引き合いに出されると、やはり弱いようだ。

私は、一般的に見たら【不遇な妻】なのだろう。
夫に相手にされず、むげにされる毎日。彼が愛するのはフローレンス様こいびとだけ。社交界ではよくある話と言えど、ここまで酷いのはあまりないんじゃないかと思う。

それでも、私はそれを苦に思うことはなかった。
悩みの種ではあったが、そのことに苦悩することはなかったのだ。

「あなたは、フローレンス様を思うから私を拒否したというのに……今になって、彼女を裏切るのですか?」

きっと、私は彼の愛を好ましく思っていたのだ。私にはわからない感情。
そこまでひとを強く想えることは、羨ましかった。彼女だけだと豪語する彼を、すごいと思ってしまったのだ。

だから──今、私は幻滅している。彼に。
真実の愛だと宣ったその口で、その愛を裏切ると吐く彼を。彼は、私の侮蔑に満ちた視線に気がつくと、眦を吊り上げた。

「な、何だよ……!お前に何がわかる!いいだろう、別に!?僕とお前は、結婚してるのだから!」

「そうですね。結婚している夫婦なら、求められたら応える。それがとうぜんです。私たちは貴族で、まだ子がいないのですから」

「なら……!」

「ですがそれは、結婚していたら……の話です。ジェラルド様、離縁、いたしましょう」
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