王妃の鑑

ごろごろみかん。

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神話の話(2)

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「農耕の女神、ペルセポネー。戦の女神、アプロディーテ。その女神ふたりが取り合った人間の青年、アドニス。………教育が不十分なわたくしでさえ知ってるのです。仰らないだけでネアモネ様もご存知なのでしょう?」

「………神話のお話ですわね、ええ。そのお話なら………けれど突然、どうして」

ここで知らないと言えば、私の王妃としての質を問われる。私は頷くしかなかった。その言葉にアデライード様が満足気にうすく微笑んだ。

「結果、青年アドニスはアプロディーテーの愛人アレスに殺されました。そして、アドニスの体から流れた血はやがて花になった。………それが、アネモネ」

まるで御伽噺のように話すアデライード様。彼女はパチンと手を叩くと私を見てにっこりと微笑んだ。

「それを嘆いたアプロディーテがせめて夏だけは傍に、と願い夏に花を咲かせることになったのがアネモネの花です。………ねえ、ネアモネ様。アネモネの花は美しいですわよね」

背筋がゾッとした。まさかアデライード様は私の死を願っているのだろうか?私の体から流れる血で、神話同様に花になれと言ってるのだろうか。掴みどころのないアデライード様の言葉になんて言葉を返せばいいのかわからず、迷う。

「…………そう、ですね。アネモネの花は美しいと、わたくしも思います」

「わたくし、いつか本物のアネモネを見てみたいの」

「…………神話なんて、仮初のものですよ」

ぐっ、とテーブルの下で拳を握る。間違いない。アデライード様は私を嫌っている。そして、殺そうとしている…………。
私はアデライード様の言葉の真意に気づいていない振りをして紅茶を一口また飲んだ。やはり、味はしなかった。


×××


その日の夜。
先触れもなく陛下が私の部屋に訪れた。
陛下は私の顔を見るなり荒っぽい足取りで私の前まで歩いてきた。そしてやはり手荒い動作で私の襟元を掴む。
胸元が締まり、息が苦しい。

「きゃっ………な、何を!陛下、王妃殿下に何を!」

リリアベルの焦った声が聞こえる。その声を受けて、乱暴に陛下が私を突き飛ばした。勢いを殺せずそのままカーペットの上に転がり込んだ。

「アデライードに何を吹き込んだ?」

「ケホッケホッ………」

「言え!」

噎せる私を無視して陛下が恫喝した。ついで、キインという鋭い音。その音に思わず顔をあげれば、私の目の剣を突きつけた陛下がいた。その瞳は驚く程に冷たく、刺すように鋭かった。
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